レビーを疑う前に薬剤性を疑う | kyupinの日記 気が向けば更新

レビーを疑う前に薬剤性を疑う

特に内因性疾患では、診断する前に、「器質性疾患」の検証をするように推奨されている。

つまり、何らかの器質性要因があるのであれば、そちらを優先するのが基本である。

しかし、器質性所見を認めたとしても、精神症状と無関係なことも十分にある。

ここで言う器質性所見とは、画像診断で簡単にわかるような明確な所見を言うことが多い。例えば、脳腫瘍、脳炎、脳血管障害、動静脈奇形などであるが、明確にわかる所見だけでも挙げられないほど多岐に渡る。

一般的にはそうだが、このブログでは、明確に見えない器質性所見でも精神所見の特性から、逆に「器質性疾患」とみなしている。その点で全く証拠がないとも言えるが、ほぼ毎日、臨床をしていると、自分にはその異質性が無視できないのである。


例えば、広汎性発達障害などは明らかに器質性疾患であるが、CTやMRIで正常群と明瞭に異なる所見を認めることは稀である。しかし専門家によると、脳のここの部分が正常群に比べやや低形成であるなど、微妙なヴァリエーションを指摘する意見もある。

広汎性発達障害の検証の難しさは、正常群とスペクトラムを形成しているのと無関係ではない。母集団の取り方が難しいからである。

今日のタイトルに戻るが、レビー小体病は一般に年配の人たちの疾患なので、初診時に他科の薬を服用していることが多い。稀に、これは何なんだ?と言うほど内服薬が多いケースもある。

以下は、紹介時に実際に処方されていたものである。

アルマトール 25mg
アムロジンOD  5mg
オルメティック 20mg
チラージンS  100μ
ヘルベッサーR 200mg
テオロング  400mg
ムコサール  45mg
ウルソ    600mg
マグミット  100mg
プロテカジン 20mg
ラシックス  30mg
オイグルコン 1.25mg
ニトロダームTTS 25mg 
フォサマック   35mg
ソロン20%    1.5g
ハイペン    200mg
オパルモン   15μg
メコバラミン  1500μg


薬の説明(主な適応)。

アルマトール 高血圧、浮腫
アムロジンOD  高血圧
オルメティック 高血圧
チラージンS  甲状腺剤(機能低下に)
ヘルベッサーR 高血圧 狭心症
テオロング  気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫
ムコサール  急性気管支炎、気管支喘息
ウルソ    慢性肝疾患
マグミット  便秘
プロテカジン 胃潰瘍 逆流性食道炎の治療 慢性胃炎
ラシックス  浮腫
オイグルコン 糖尿病
ニトロダームTTS 狭心症 心筋梗塞 脳梗塞後遺症
フォサマック   骨粗鬆症
ソロン     急性胃炎 胃潰瘍
ハイペン    関節リウマチ 変形性関節症 腰痛症
オパルモン   閉塞性血栓血管炎 腰部脊柱管狭窄症
メコバラミン  補酵素型ビタミンB12 末梢性神経障害


これらの内科薬であるが、既に素性がはっきりしないものも多い。どこかで処方されていて何らかの原因で入院や転院ごとに増えてこうなる。80歳近いばあちゃんによくここまで処方するよ、と言ったところ。

全く内科医は面倒見が良いというか、検査も含め強迫的だと思うよ。

それに比べ、精神科医は、

ま、いっか・・

くらいに思うのか、これに比べると、遥かに雑。この患者さんの最後の内科主治医に、これらの薬がどのくらい減量できるか聞いたところ、

今の状況なら、全部止めても大丈夫でしょう。

と言われたのは更に驚きだった。このばあちゃんは幻視と少し認知症もあるようだが、上の薬にはボケさせる薬が多くあり、真にそうなのかは疑わしい。

一般に内科薬は、抗コリン作用を軸に認知を悪化させるランキングがある。上記の薬物の多さは、

もう、何がなにやらサッパリ・・

の世界である。これらの薬を徐々に減量してみた。精神科薬は、とりあえず、ラミクタールを12.5mgを隔日だけ使った。

内科薬を全て中止した結果、どうなったでしょう?

なんと、彼女は体重が20kg近く減少したのである。かなり肥満していたが、それが改善した結果、高血圧も薬なしで正常化、またヘモグロビンA1cも5.4くらいになった。薬はラミクタールだけである。(12.5mg隔日)

幻視も消失し、会話で今ひとつはっきりしなかった点も改善し清明になった。

向精神薬に体重増加させるものがあるように、内科薬にも同じように肥満を来たす性質を持つものがあるのであろう。

彼女は徹底的に内科治療したために、精神症状が出現していたのである。その後、ラミクタールを中止し、何も服薬していない状況でも幻視は再現しなかった。

言い古された定石。

精神症状を見たら、まず器質性でないかを検証する。


それが全てである。今回の場合、レビーも器質性疾患なので、ちょっと変と言えばそうなんだけど。

この文脈からすると、近年の双極2型全盛時代は、この定石から外れてると言える。まず、器質性疾患を否定していないからである。

結局、今の時代、双極性障害は過剰診断であることがわかる。


これについて精神科医が大目に見ているのは、1つは治療的にはその方が正解になりやすいことがある。それと、精神科医は内科医のように完璧を目指さないことと関係がありそうである。

参考
ヘルペス脳炎
躁うつ病は減っているのか?