統合失調症に向き合うスタンスがないこと | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症に向き合うスタンスがないこと

今回のエントリは過去ログの、「統合失調症っぽい幻聴2008-04-16」「内因性幻聴とトピナ2011-09-18」に出てくる女性患者さんの近況である。精神症状的に2011-09-18に書いた頃とはあまり変わっていない。現在の処方は、

ジプレキサ15mg
トピナ  50mg
デパケンシロップ 12ml
悪い時にレキソタン2mgを飲む。


彼女の場合、あらゆる抗精神病薬でさほど幻聴を緩和せず、一時はジプレキサ30mgが処方されていた。試行錯誤の末、現在はジプレキサを減量し、デパケンシロップやトピナを併用している。ジプレキサ単剤よりもこの処方の方が、はるかに幻聴を減少させる。

先日の「精神が死んでいた」に出てくる女性患者さんとは、トピナの効き方が異なっていることに注意してほしい。彼女はトピナにより賦活され陰性症状への効果が大きいが、今回の女性では幻聴に有効である。

彼女の最近の症状だが、たまに幻聴のラッシュがあるが、その大きさ(規模)と頻度、持続時間が減っているらしい。ある日、

デパケンシロップはなんだか良いみたいなんですけど、てんかんとか躁病の薬なんでしょ?私にはなぜ良いんですか?

と尋ねた。僕は漠然と、「普通の治療でうまくいかない人では、デパケンは良いことが結構ある」と答えた。彼女はそれで納得したようである。

彼女の過去ログを見ると、障害年金2級を持ってはいるが、告知はされていないように見える(引継ぎで診ているが、たぶん前医も告知していないのではないかと思う)。ただし、なんとなく告知されたが、全く噛み合わなかった可能性もなくはない。障害年金を貰っているからと言って告知されていることにはならない。過去ログでは、

幻聴は実は本当のことなのに、自分が幻聴と偽って年金を貰っているような気がする。先生たちに、これが現実なことだと知れた時が怖いです。皆にすまないと思っている。嘘をつき不正をしてお金を貰っているような気がする。

自分は自分のことがよくわからないんだけど、神経症的ではないかと思う。電波が聴こえ始めると、神経をすり減らすのできついです。

私が良くならなくてすいません。


という記載がある。彼女は、「統合失調症という症状群」に根本的に向き合うスタンスがない。(過去ログでは、精神症状に対する「構え」が違うと記載している)

陽性症状や陰性症状など対峙し考察を入れコメントできる人はコアな統合失調症とは異なるのである。(この意味だが、幻覚、陰性症状っぽいアパシーの所見から統合失調症と診断されているが、生物学的に、あるいは本質的に統合失調症ではない人のことを言っている。いわば診断基準上の統合失調症)

これらは、一般にはそう問題にならないが、重大犯罪などの精神鑑定ではそう簡単に統合失調症とは診断されない。殺人事件などの際に、妄想があったが統合失調症ではなく「妄想性障害」と診断され、限定責任能力があると判断されることがある。それまで統合失調症と診断されていたのに、精神鑑定ではそう判断されないこともあるのである。

彼女は1年前に彼氏ができた。遠くに住んでいるので、バスに乗って遊びに行くという。実は、彼女には1000万円以上の貯金がある。その理由は長期間、障害年金2級を貰っているからである(月6万5000円くらい)。両親から家にお金を入れなくて良いと言われており、それどころかお小遣いをたまに貰っているらしい。彼女は物欲がないので次第に溜まっていったようである。

過去ログで触れているが、障害年金はその人の家庭がお金持ちとか、そういう背景は問題にされない。本質的な精神症状で判断される。ただし障害年金を貰えるほどの重さでも、障害年金を貰わない選択肢はある。(診断書を出さない)。

障害年金を貰えるのに貰わないなんて、ありえないと思うかもしれない。実は、この時代でもそうでもないのである。ある時、「障害年金を取れるように診断書を書きますから」とこちらから言ったところ、

障害年金なんてとんでもない。うちには十分な資産がありますから・・

と言われたのである。なんだかんだ言って、うちの患者さんは平均して裕福な家庭が多いと思った。もちろん、生活保護の家庭の人もいるのだが。

彼女の話に戻るが、1000万以上持っていて、健康な人と比べ判断能力が劣っていると思われるので、彼氏ができたのは良いが、それを契機にお金がなくなってしまうリスクがないとは言えない。というのは、彼氏は「パチンコが止められない」話を聞いたからである。だから、安易にお金を貸したりしないように指導していた。

最近、何をしていますか?と聴くと、

彼に料理を作ってあげている。

と照れくさそうに答えた。ある日、バスに乗っている時、久しぶりに、急に酷い幻聴に襲われ、1時間半くらい続き収まったらしい。

幻聴があると、気が滅入りますね。レキソタンを飲むと幻聴は収まらないけど、気分が少し楽になる。レキソタンは、気が滅入るのに効きます。

幻聴は、実は本当のことではないんでしょうか?

と聴くので、僕はコピー紙に大きく「幻」「聴」という字を書き、

まぼろしと書くでしょ?

と言った。なんとなくこちらが誤魔化しているようであるが、結局は同じことなのである。彼女には幻聴の洞察なんて無理な話である。きっと、同じ質問を今後もするだろう。

彼女は、実におっとりしている。彼女は気が効くので、彼氏も彼女がいると助かるのではないかと思った。彼女は独語などはなく、一般の人は彼女が統合失調症とはたぶん気付かない。

彼女は彼氏ができたことで、少し精神面が安定したようである。

参考
内因性幻聴とトピナ
統合失調症の陰性症状は自らは語れない件