統合失調症とラミクタール | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症とラミクタール

統合失調症には通常てんかんが合併しないことはよく知られており、電撃療法はこれがヒントになり発見されている(100%合併しないわけではない)。

従って、将来ラミクタールに双極性障害の効能追加があったとしても、統合失調症までは適応は広がらないと思われる。

ラミクタールは統合失調症の人に追加投与した場合、一般のてんかんや双極性障害、広汎性発達障害の人に投与した時のように、いったん気分がアップするケースが多い。

ここが統合失調症とラミクタールの最大のポイントである。

ラミクタールはリーマスやデパケンRに比べ、より気分をアップさせるため、うつに効果が出現しやすいが、時に開始直後からうつに振れる人もいる。アップに振れるケースとうつに振れるケースはどのくらいの比か数えたことはないが、感覚的には95:5くらいであろう。この95:5だが、どちらにも振れない人(つまり見かけ上、効果がない人)もいるので、プラスして100は変だが、このくらいの比なのである。(19:1くらい)

統合失調症の人の場合、できれば躁にもうつにも振れない方が良い。むしろ緩和した「うつ」に振れる方が治療的には安全である。その理由は、後の対処がしやすいから。難治性の統合失調症の人はうつ状態より、幻覚妄想や思考、行動面のまとまりのなさのため対処に困っていることが多い。

統合失調症でも不活発で、ひきこもり傾向で、敏感さを持つタイプの人では、時にラミクタールは本領を発揮する。これらは、内因性と言うより器質性要素が大きい所見だからである。ラミクタールは統合失調症に限らず、てんかんや広汎性発達障害の人たちの感覚の敏感さを改善する。

うつ状態や不活発さがないタイプの統合失調症の人は、ラミクタールで賦活が生じた場合、興奮、あるいは混乱を来たしているように見えることがある。いきなり、あるレベル以上の興奮を呈する人は継続は困難である。(中毒疹が生じた場合も、もちろん中止する)

ラミクタールは認知を改善するので、本当は良くなっておかしくないのであるが、実際に処方して思考面や行動面で改善しないなら意味がないと言える。しかし、軽微な賦活によりやや対応に困る程度であれば、いったん中止するにせよ、少し期間を置いて使ってみる価値はある。3回目にやっとフィットすることがあるからである。(再スタートの手順や見通しの判断についてはいつかアップしたい)

問題は、少し情緒不安定になりながらも、継続するかどうか迷う時である。こういう時はいったん中止するケースが多いが、一定の望ましい効果が認められるケースでは、そのまま継続することもないわけではない(僕の場合だが)

ラミクタールは統合失調症における器質性所見を主に改善するが、内因性に由来する精神症状も改善しうる。統合失調症の人の精神症状は、本来の内因性による精神症状と薬物による器質性と思われる精神症状の総和と診ることが重要である。

例えば、ラミクタールを統合失調症の人に追加すると、多飲水が大きく改善することがある。これは抗精神病薬の副作用を改善している面が大きいが、「飲水強迫」と見れば、統合失調症の精神症状を改善していると見ることも可能だ。

ラミクタールが合っている統合失調症の人は、多飲水のみならずタバコが減少するのをよく目撃する。

統合失調症の人に処方する際のラミクタールの欠点だが、平凡に言えば、「少し浮いて行動が不穏になる」ことである。これは以前はラミクタールの処方上の制約、つまり急速に増量できないことが悪いのではないかと思っていた。ラミクタールは海外では躁うつ病の薬として使われており、躁状態にも効果がないわけではないからである。

しかし、最近は若い人や老人への処方を通じ、次第にそういう風に思わなくなった。ラミクタールはてんかんでは、たぶんある程度の用量が必要であるが、若い人の広汎性発達障害、てんかん性の精神症状、統合失調症の人では適切な治療域(用量)が存在しており、個人差も大きいと思うようになったからである。

特に希死念慮を伴うタイプの広汎性発達障害や内因性でないうつ状態の人たちは、ラミクタールの高用量になると、希死念慮がかえって悪化したり、衝動行為が増加することがある。これは臨床的にはセロトニンに由来する希死念慮や衝動に似ている(参考)。

高用量ではかえって情緒不安定になるのである。

過去に、ラミクタールは200㎎まで増量したためにかえって悪化し、結局、減量して1日25㎎とか、12.5㎎隔日で済んでいる人があまりにも多い。せいぜい50㎎である。(しかも素晴らしい改善ぶり)

だから、てんかんの人のけいれん発作を改善する目的、双極性障害の躁うつを軽減する目的、広汎性発達障害などの器質性疾患および統合失調症の人の精神症状を改善する目的の3者は、ラミクタールの治療戦略はかなり異なると言える。

広汎性発達障害や統合失調症の人はラミクタールはごく少量から開始し、リスクを取らず、あまり増量しないことが重要であろう。(僅かでも使っているかどうかで大違いの人々がいる)

統合失調症の人たちで最もうまく行くケースは細かい混乱が改善し、思考がスッキリする人である。こういう人は認知が改善したことで精神症状への好影響が大きい(参考)。

また、抗精神病薬を減量できるきっかけになるため、副作用の総量を軽減できる。抗精神病薬の副作用はずっと続くものなので、日々の苦痛を軽減するという点で非常に有用である。

統合失調症はどのような病型が合いやすいと言う特性はなく、病状の程度でも重篤な人も軽い人も合う可能性があり、今、どういう病態だから使えないということはない。(ただ、あまりにも興奮している場合は、12.5㎎から始めても良いのかどうか見極められないと思う)

統合失調症のうち、躁うつが混在しているような非定型のタイプは最も使う価値があると言えるが、破瓜型が全く合わないとまでは言えない。

ある破瓜型の患者さんは、長期に閉鎖病棟に入院しているような人で、時々ノートに奇妙な図形を書き付けて持って来たり、あるいは「これから宇宙人が迎えに来る」などの荒唐無稽な言動や行動が多かった。閉鎖病棟から出ることができず、たまに保護室にも収容されるような患者さんである。のべで言えば、40年くらい入院している。

ある年の処方
アキネトン  3mg
リボトリール 1mg
リスパダール 6mg
トロペロン 6mg
ヒベルナ   100mg
(他眠剤、便秘薬)


その8年後
ロドピン  300mg
リスパダール 1mg
ベゲタミンB  2T
ラミクタール 25mg
ベンザリン   10㎎
(他眠剤、便秘薬)


これはコントミン換算では処方量が半減している(1062㎎から580㎎)。これで圧倒的に良くなったとまでは言えないが、病棟適応が良くなり、奇妙な言動が減り、また隔離されることがなくなった。かつては抗精神病薬を減量することすら難しかったので、これは大きな変化である。この患者さんは突進歩行などの抗精神病薬による副作用が出現しやすく、今でもないわけではないが、転倒の確率は低下している。

この人はラミクタールがフィットするまで3クールを要した。開始後50㎎程度まで増量する過程でいつも中止するような事件が起こっていたのである。だからラミクタール25㎎が定着するまで8ヶ月以上はかかっている。この患者さんにもし50㎎投与すると、たぶん精神変調を来たしうまくいかないと思う。25㎎はおそらく必要かつ十分な量と思われる。

向精神薬というものは不思議なもので、どうみても合っているのに、何度も連続して失敗することがある。

これはitを変化させることで状況を一変させるトライをする。ここで言う、itとは文字通り、日時、天候、距離、明暗、状況などである。(つまり部屋を変え、病棟を変え、季節などを変えて投与してみるなど)。

参考
寛解のクオリティについて
ラミクタールのテーマ