雑念に惑わされず治療を進める | kyupinの日記 気が向けば更新

雑念に惑わされず治療を進める

患者さんを観察するのは大切だが、単に長く診察すれば良いと言うものではない。

個人的に、時間よりむしろ接する回数の方が重要と考えている。つまり、効果的な「瞬間」に意味がある。

統合失調症の人では、個々の訴えの内容に意味があるかと言うと、どちらかといえば、たいして意味がないことが多い。

だいたい、僕は幻覚も妄想もない人にも統合失調症と診断することもある。逆に幻覚があっても統合失調症と診断しないこともある。

このブログの読者の人は、僕は一般の精神科医より統合失調症の範囲が狭いのでは?と思っているかもしれない。実は、その逆で、たぶん一般の精神科医より統合失調症の範囲は広いのである(これは過去ログで触れている)。だからこそだが、告知はしないことにしている。

その僕が、「統合失調症が減少している」と言っているのだから、大変な社会的、あるいは生物学的変化が生じているのである。特に、

かわいらしい感じの統合失調症の患者さん。

が激減している。(過去ログの彼女はこのタイプ)

長く15年くらい治療されている人で、ジプレキサやエビリファイを処方すると突然、疎通性が改善し、

実は20年前から幻聴がありました。

と言う人がいる。この人は少なくとも、過去に幻聴など訴えたことなどなかった。またそういうカルテの記録もない。結局、幻聴は続いていたが、本人が語っていなかっただけなのである。

このような訴えが可能になった時、その患者さんは以前より寛解に一歩近づいている。今まで決してしなかった告白をしている時、表情がかなり改善していることが多い。つまり、この幻聴の訴えができたことは治療的に新しい局面に入ったことを示している。

操作的診断法では、本人が告白しないことには所見がないことになる(幻聴に限れば)。

だからこそ、操作的診断には限界があるのである。同時に、その当時の個々の訴えはそこまで意味がないこともわかる。

結局、雑念に惑わされず、治療を進めていくしかない。経験的にも定石にとらわれず、自分が思った通りやっていた方が良い結果になることが多い。長く考えて、その時に良い答えが出ることはむしろ稀なのである。将棋でも、

長考に妙手なし


と言う諺がある。それと同じことだ。最初に出てきた「瞬間に意味がある」というのも同様である。

頭の中を空にして純粋な気持ちで診ないと、従来のリスパダールで病状が悪化してしまう人に、リスパダールコンスタを筋注するなんて決断できない。

参考
統合失調症は減少しているのか?
リスパダールコンスタとリスパダール