ラミクタールを紛失した話 | kyupinの日記 気が向けば更新

ラミクタールを紛失した話

ある患者さんに院外処方でラミクタールを処方したところ、いつも行く院外薬局にラミクタールの在庫がなく、薬局の方で後で届けてくれることになった。

これからの話が非常に面白いのだが、結局、その届けてくれた人と母親が話し込んでいるうちに紛失してしまったという。家の中にあったのは憶えているらしい。その後、どうしてもラミクタールは見つからなかったと言う。つまり、

ラミクタールが忽然と消えたわけだ。

これはとても面白いと思う。僕は詳しくラミクタールの話はしており、もちろんラミクタールの副作用についても母親と本人双方に詳細にわたって伝えていた。重い副作用が出た場合、

最悪、失明や死亡もありうる。

とまで言っている。僕はこういう告知が紛失に関係しているような気がした。非常にオカルトなのだが、実はフロイトもこのような記述をしているし。(錯誤行為)。患者さんからこの話を聞いた時、

この人はひょっとしたら副作用が出るか、合わないのかもしれないな・・

と思った。しかし最初に処方を決断した以上、そのようなオカルト的な事件を理由に急遽、処方を中止するのはおかしい。それは少なくともサイエンスではないし、家族にもかえって不審がられると思う。

だいたい、処方するといっても隔日に25㎎処方するだけである(中毒疹の出現率には量、増量のスピードが関係する)。

そういうので、急にやめてしまうのは、精神科医が占い師になってしまう。これは最悪。その患者さんも飲みたくないわけではないようだったし、再び処方することにした。

結局、ラミクタールは劇的に効いた。驚いたことに、1日おきにラミクタールを25㎎服用しただけで、器質性幻聴の70%が消失したのである。

やはり占い師的思考ではダメなのである。この人は長く器質性幻聴を抑えるのに難渋していた患者さんだった。それも1年以上、治療に苦しんできた人であった。

器質性幻聴のコントロールが難しいのは過去ログでも触れている。(参考

一般に内因性幻聴は統合失調症、躁うつ病などに見られるが、器質性幻聴は器質性疾患や広汎性発達障害の経過中に出現することがある。神経症範疇のいわゆる「解離による幻覚」はこのタイプだと思う。解離はヒステリーの1つの形態だが、古典的ヒステリーは実質、器質性所見という私見を過去ログで触れている(参考)。

こういう背景があるからこそ、広汎性発達障害において、解離およびそれに伴う幻視、幻聴が生じるのである。(なお内因性幻聴、器質性幻聴は使われない言葉で、僕の造語)

このように理解した方が、診断未満および診断範囲内の広汎性発達障害における幻視、幻聴、あるいはクオリアの問題、リストカット、希死念慮、不思議の国のアリス症候群などの器質性色彩のある精神所見すべてが、一連のまとまりのあるものとして捉えられると思う。これらは統合失調症のような内因性疾患とは異質な由来を持つのである。

器質性幻覚(幻視、幻聴、クオリア的異常)にラミクタールが奏功することがあるのは、やはりラミクタールが抗てんかん薬だからであろう。抗精神病薬に比べ、まだ器質性所見に相性が良いものと思われる。

こういうラミクタール処方後の経過を見ても、僕が決して魔法を使っているわけではなく、基本的に薬にはプラセボなどないことがわかる。僕が魔法や魔術が使えるなら、この人はとっくの昔に良くなっていたと思うよ。(1年以上も治療に苦しまない。いかなる薬でもプラセボ効果が出るわけで・・)

参考
内因性幻聴と器質性幻聴
テーマ;ラミクタール