広汎性発達障害に非定型抗精神病薬は適切なのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

広汎性発達障害に非定型抗精神病薬は適切なのか?

うーん・・難しい問題。

まず、何をターゲットにしているかで違う。重要なことは、広汎性発達障害の人は薬に敏感なことも稀ではないので、例えばジプレキサで劇的に太る事態が予測できること。

おそらく、合わずにすぐに中止になる確率は統合失調症の人に比べずっと高い。

まず、うつ状態、希死念慮、厭世観、意欲の低下などが前景の人は、非定型抗精神病薬は最初からは使われない。SSRIやSNRI、あるいは3環系、4環系抗うつ剤でいろいろやってみて、やはりうまくいかない時、抗うつ作用を期待されて非定型抗精神病薬が選択される。

また、広汎性発達障害の人に幻視、幻聴が伴うとか、あるいは激しい興奮がある場合、自然な流れでリスパダールやジプレキサのような抗精神病薬が処方されることもある。

広汎性発達障害の人に処方される場合、抗精神病薬の中で最も可能性が高く余計なことをしない薬はルーランの少量だと思う。ルーランは体重増加がない上、しばしば広汎性発達障害の人にみられるこだわりや強迫に有効である。ただ、この薬は成功率が高いわけではない。ルーランの少量は決して鎮静的ではないし、多ければEPSなどの副作用が出やすくなる。

いずれにせよ、いかなる非定型抗精神病薬も何かしら欠点がある。

エビリファイは、この薬のみ処方すると次第に強迫が悪化する人がおり、うまくいかないケースもしばしばである。エビリファイの少量はたぶんルーランの少量より抗うつ効果に優れているので、この方がむしろ良いと言う人もいる。広汎性発達障害の人たちの場合、何か他の薬を使っている上で、少量のエビリファイを追加することでバランスがとれる場合もある。

エビリファイやルーランの少量に気分安定化薬のデパケンRかリボトリールを追加することでその欠点が緩和し安定する人もいる。

リボトリールはアメリカの適応では、

Acute manic episodes
Panic disorder


の2つが明記されており、広汎性発達障害の双極性~神経症性の所見も改善しうる。また、上記の抗精神病薬の副作用も緩和するので合理的である。

広汎性発達障害の人にリスパダール1~2㎎などの処方も時々見る。これでけっこう落ち着いている人もいるが、やや鎮静的に見える人が多い。この処方でやっと自宅で療養できる(つまりひきこもり状態)レベルだったりする。もう少し減量し、リボトリールやデパケンRを併用すべきと思う。

リスパダールは、賦活を及ぼす程度の少量でコントロールできれば悪くない。

広汎性発達障害の人たちへのリスパダール単剤による治療の欠点は、次第にジストニアなどの性質の悪い副作用が出てくる人がいること。特に遅発性ジストニアである。

遅発性ジスキネジアと遅発性ジストニアの相違の1つは、遅発性ジスキネジアには時間のパラメータがあるのに対し、遅発性ジストニアはさほど時間が経たずに生じうること。だから、ジスキネジアに比べ相対的に若い人に多い。

たぶん、遅発性ジストニアは広汎性発達障害の人は少量の薬物治療だったとしても比較的短期間で出現しうる副作用である。これをみても、抗精神病薬は多い少ないの単純なものではなく相対的なものであるのがわかる。

広汎性発達障害に対しセロクエルは悪くないと思うが、この少量だけできれいに片付くのをあまり診たことがない。良い点は副作用が少ないこと。特に遅発性ジストニアは稀だと思う。(ないわけではない)同じMARTA系を使うなら、ジプレキサより余計なことをしないセロクエルの方が優れている。

ジプレキサもそうであるが、セロクエルのような色々なレセプターに付く薬は効果の範囲が広いのでかえって副作用が出る。それは起立性低血圧、眠さ、肥満である。また、はっきりしない不快感が続く人もいる。これは広汎性発達障害の人たちが薬に敏感なことも関係している。

もしセロクエルがまあまあ合えば、ルーランの少量の併用でよい場合もある。(弱い薬を弱い薬でカバーする)また、春ウコンやレスキューレメディーなどの代替療法の併用も良いかもしれない。また補助的にカタプレスやオーラップの少量も有効である。

広汎性発達障害の興奮、暴力などを抑えるためにセロクエルを処方するのは、かえって興奮する(うつ病に使われるくらいなので)リスクがある上、結構大量が必要かもしれない。大量に使ってでも良くなるなら良いが、そうもいかず、リスパダール液やセレネースが併用されやすい。ここが大量多剤併用になる分岐点である(セロクエルを使うべきでないという意味ではない)。最も拙いのは、セロクエルによる病状悪化に気付かず、他の非定型抗精神病薬を併用してしまうことだ。

セロクエルはあんがい肥満が出ない人もおり、300㎎以内でコントロールできれば悪くないと思う。

ジプレキサは単剤で完結しやすいので、例えばジプレキサの少量でたいした副作用もなく、効果がまあまあなら良しと言える。僕はこのような患者さんを何人か診たが、ジプレキサが大量に使われていることはほとんどなかった(5㎎以内)。

広汎性発達障害でジプレキサ単剤が処方されている人は、統合失調症の人の単剤に比べ、同じ量でもやや鎮静的な印象である。また細かい症状がとれておらず、疑心暗鬼や被害関係念慮が出現していたりする。これはまずまずに見えても、ジプレキサが真に合っているわけではないと思われる。(消極的に合っていると言う意味)このようなケースでは肥満の副作用も出やすいと思う。

広汎性発達障害の人へのロナセンは、あまりにも失敗するケースが多いのではないかと思われる。ただ、初期には少量でやや賦活するし、また急激に幻覚を消失させるので、序盤は好調に見えるかもしれない。しかし、ロナセンは鎮静的でない上に、時間が経ってくるとたいして人間関係を改善していないのが明瞭になる人もいる。このタイプの人たちには向かないといえる。ロナセンはまだ統合失調症の人の方がフィットしやすい(←当たり前)。

ロナセンの治療中に中だるみ傾向になった際に、リスパダール液を追加して乗り切る方法を推奨する医師もいるが、それでは、なぜ最初からロナセンを使っているのかわからないと思う。そういう風にするから、広汎性発達障害の人の精神症状が紛れるのである。自ら、迷路に誘い込まれるようなものだ。

ロナセンによる統合失調症の人の治療では、中盤に難しい場面があるが、そこを乗り切ると非常に経過が良い人がいる。ロナセンは使い方が難しい上に、薬価も安くはないので、発売後そこまで売り上げが伸びていないようである。

広汎性発達障害の薬物治療で重要なのは、治療過程で必要な薬の量が変化していくことであろう。少なくとも臨床医からはそのように見える。

注意点として、いったん年余にわたりかなりの薬物量を服用していた場合、あわてて減量しないことである。急ぐと遅発性に出てくるさまざまな副作用に悩む場合もある。それはパキシルなどのSSRIでも同様である。(ずっと頭にキンコン音がするなど)

最終的にかなり薬が整理できる人もいる(というより経過が良い場合、そういう人の方が多い)。

これは、広汎性発達障害の人は脳の成熟という元々の治癒過程があるからで、ここが慢性進行性の統合失調症との相違と思われる。

だから決定的に悪くならず、時間を経過するだけでも治療的である。それは局部の安静ができるからであり、その点で、いわゆる向精神薬はサポートになっている。

やはり重要なことは、副作用が出ないほどの適切な薬物選択ができるかであろう。

参考
統合失調症は減少しているのか?
広汎性発達障害のように見える統合失調症は存在する
悪性症候群の謎(補足)
いったん混沌とさせる減量の方法
カタプレス