ちょっとオカルトの話(後半) | kyupinの日記 気が向けば更新

ちょっとオカルトの話(後半)

ちょっとオカルトの話(前半)の続き。

最初の話に戻るが、中枢病院からうちの病院に転院した人が2名いる。中枢的病院では、かつての大学病院の主治医を頼って遠方まで通院している人も稀ではない。だから、そのような遠方にある病院にも偶然うちの近くに住んでいる人もいる。そのような人はそこで外来治療しているうちに、面倒なのでうちの病院に通いたいと言われる。(中枢病院はトータルでは近所に住んでいる人が多い。精神科なので)

その1人はうちに転院後、外来通院していたが、一気に悪化し入院する事態になった。これは過去ログにもあるが時々見られるパターンで、妙なことはしていないのにこのような経過になるのは謎だ。

統合失調症の人では幻覚妄想を伴う躁転と言うのが多い。これは劇的に、それまで続いていた精神症状以上に改善するケースが多いので吉兆ではある。もともとこういう非定型病像は寛解や治癒へ繋がっていることは過去ログで触れている。(参考

当時の患者さんのサマリーには以下のことが書いてある(入院直前のサマリー)。

① リスパダールは病状不安定になるため、できれば処方しない方が良い。
②ジプレキサは精神面には有効だが、過食が出現し長期的には不適切である。
③セロクエルは一時処方しており、悪くはないが、幻聴などには効果が乏しい。興奮をさほど抑えず、不眠に対してもそこまで効かない。
④ロナセンは今のところ4mgまでしか処方していないが、興奮、多動、多弁に効果が乏しい。
⑤クレミンは有効であるが、ややアカシジアなどのEPSは出現するようである。
⑥セレネース液は興奮、多動、多弁時には有効で増悪時には使わないよりはずっと良い。
⑦リーマスは長く処方しているとややイライラ感やアカシジア様EPSの原因になっているようではあるが、長期的にはやはり必要に思える。


ある程度は病状がまとまり退院した後も、しばらくグズグズしていた。その後、更に薬物変更し次第に改善。現在、退院後1年経つが、家族の話では、発病以来、今が最も状態が良いと言う。

良くなったのは表情と周期性の不機嫌の程度、幻覚。彼女は以前に比べ、より双極性障害っぽくなったと思う。本当に良い期間がしばらく続き、またしばらく悪くなるという繰り返し。その悪い状態の時の程度が以前よりずっと良いのである。この人はロナセンとリスパダールとリーマスを併用している。我ながらけっこう変な処方。なんとリスパダールとロナセンを併用している。

リスパダールは2mgしか使っていないが、やはり併用で使わざるを得ないと思った。ロナセン単剤は彼女にとって欠点が多いからである。彼女はきっと容易ではないタイプなんだと思う。

もう1人の患者さんは、20年来の幻聴が完全に消失している。この人は転院後1ヶ月でそういう流れになった。この人もリーマスを併用している。この人は転院するまでの約2年間苦戦していたので、転院していなかったら、このようにスンナリいかなかったと思う。(参考

こういうのをずっと見ていくと、やはり薬は場所によっても効き方が違う。同じ医師でも効果が違うのに、違う医師ならなおさら違うだろう。だから特に精神科では、薬物治療は純粋に薬理学の世界ではないのである。(そう考えないと、ルーラン1㎎などの処方が説明できない。)

治療パフォーマンスは、

自分の病院>リエゾン先の総合病院≧中枢病院での治療>このブログのメールでのアドバイスなど

の並びになるのは間違いない。距離的なものもあるし、情報量もあるのではないかと思うが、オカルトの部分を否定できないのである。

このブログを書き始めて、読者の皆さんのうち、これはいくらなんでもいずれ良くなるだろうと思える人が、すっきりいかないのが不思議でならない。

それでもなお、ブログでアドバイスした人もけっこう良くなっていると思うよ。そういうメールがよく来ているし、しかし、自分が診ているのと比べると、きっとかなりの相違がある。

よく言われるのは、僕は減量したとき悪化しにくいらしい。どこの病院でも減量したら途端に悪化していたのが、すっと減量に移行できるという。何年もできなかったことがあっさりできるので、びっくりされることがある。これは実はやり方があるのである。(参考1参考2

あと、体重の問題。患者さんたちの間で若干のネットワークがある。携帯メールなどだ。ある女性患者さんは希望され近くの精神科病院に転院していた。ある心理療法士がいたからである。ところが1年くらいで8kgも太ってしまったという。やはりこちらの病院で治療した方が体重が減らせるだろうと、今の僕の患者さんから再び転院するように薦められたらしい。肥満の問題は女性にとって切実なのである。

そうして1年ぶりに再会することになった。

僕の感想。精神面ではあまり変わっていないと思った。少なくとも彼女は悪化していない。ただ、確かに太ったと感じたが、もともと痩せている方だったので、そこまで変には見えない。なんだ、聴いていたほど悪くないじゃん、と言ったところ。ただ、精神のほうも本人よればまだ全然抜けないという。彼女は本当に難しい人で、普通のやり方だと簡単に良くなる人ではないのである。(彼女にはここに書けないような奇妙な治療法もかつて試みていた)

この人は再び外来治療し始めて2ヶ月経つが、ちょうど4kg減量している。むこうの病院の抗うつ剤の主剤をまず減量中止し、その後リーマスも中止している。最初、抗うつ剤を中止しただけでは思ったほど減量できなかったからである。不要なリーマスを中止できたのは非常に大きい。彼女は躁うつ病ではなく、抗うつ剤を効果的にするためだけにリーマスが使われていたからである。

時々ある薬を効果的にするとか効果が不足するという理由で、リーマスやテグレトールを追加する薬物療法が推奨されているが、これは本来良くない治療戦略だと思う。この2剤は本質的な薬物毒性が高すぎるからである。例えば、ルーランはテグレトールと併用すると、代謝が促されより副作用が少なくクロザピンに薬物特性が似ているID-15036が増加するらしい。しかし併用するテグレトールは抗てんかん薬、気分安定化薬の中でも毒性と言う点でトップクラスである。いかにも臨床現場を知らない人が思いつきそうな方法だと思った。併用するにしても、それがテグレトールなら意味がない。それしかないならともかく。もっとスマートな併用法を考えてくれよと言いたい。テグレトールは現代人に好まれない種々の副作用がみられることがある。例えば歯肉腫脹などである。(参考1参考2

今は彼女は他病院に通院しながら、薬物療法はこちらで受けているといった感じだ。

彼女によればこちらに戻ってから、この2ヶ月でうつ状態が改善したという。特に体重を増やさせないで治療するという、一般の医師がそこまで力点を置かない点を考えて治療できるのである。過去ログにも相当に体重が減った話はいくつも出てくる。

今回のエントリで書いてきたことは、薬理学的に説明ができない部分もあると思う。精神科は元々そういうのがあるのだろう。だから神田橋先生とか、リアルでは見た事がないが、中井久夫先生のような名人級の精神科医の傍について日常臨床を見ていても勉強にはなると思うが、凡人には同じようにはできない。(重要)まして、彼らは精神療法家なのでなおさらである。

よく抗うつ剤の有効率は60%とかそういう数字が出ているが、僕が日常使っている限り99%以上は有効のようには見える。時々、書物に、このような「うつ状態」は薬が効かないと言うようなことが書いてあるが、無責任でとんでもないプロパガンダだと思う。ただし、これは個々の薬物のことを言っているのではなく、薬物療法トータルのことを言っている。(当たり外れがあるので適切に使わないとダメと言う意味)

きっと、薬が効かない「うつの人」なんて稀有な人なんだと思う。そうでなかったら、これほど臨床をしてきているのにうつの人の障害年金を新規で書いたことがないことの説明がつかない。(躁うつ病は別。何人か書いている)

そういうことを考えると、抗精神病薬の有効率の統計、調査は、個々の薬物で行なう限り、医師の技量による偏りが出て、どこがエビデンスなんだ?という話になる。

しかし、2剤を比べるならまだ良いでしょう。AかBかどちらがより優れるかははまだ調査しやすい。相対的な優劣だからである。

参考
悪化と寛解・治癒の謎
長年続いた幻聴の消失