非定型病像と褥瘡 | kyupinの日記 気が向けば更新

非定型病像と褥瘡

精神科治療中に褥瘡になってしまう人がいる。これは見かけ上、褥瘡なのであるが、いわゆる寝たきりの人の褥瘡とは意味合いがかなり違う。

僕は最初このような経験を研修医1年目にしている。オーベン(指導医)の患者さんでまだ20歳代後半の女性患者さんがいた。彼女は一晩寝ていただけで、仙骨部に巨大な褥瘡ができてしまったのである。

僕はオーベンに質問した。「なぜ1日で、あんなものができてしまったんでしょうか?」

彼の答えは、「ピクリともせずに睡眠薬で寝ていたからではなかろうか?」というものであったが、今考えると、これは間違っている。この褥瘡は実は非定型病像と大きく関係している。

世界中に膨大な眠剤ユーザーがおり、単に眠剤で褥瘡ができていたら大変なことになる。あれは、その人の生物学的背景が大きいのである。僕はむしろ眠剤はあまり関係がなかったと思う。

彼女の診断は躁うつの波がある統合失調症であったが、いわゆるウェールズ生まれタイプの病前性格を持ち、統合失調症であったとしても典型的ではなかった。この場合、非定型精神病か統合失調症かは大きな問題ではない。

非定型精神病の場合、夢幻様状態や亜昏迷~昏迷を呈することがあり、この一連の経過中にあっという間に褥瘡が形成することがある。この原因は良くはわからないが、生体内のステロイドの急峻な変化も関与しているような気がする。

非定型病像を呈している時間は、おそらく体が溶けているのであろう。

これはCPKの上昇、ミオグロビン尿の出現なども無関係ではない。これらは、単にその病態のあり様を数値で示していると言える。おそらく非定型病像から悪性症候群までの病像は脳を含め身体も炎症の色彩が大きいように思われる。

躁うつ病でも非定型の色彩がある人は亜昏迷などを呈すると、必ず蜂窩織炎になる人もいる。蜂窩織炎も褥瘡もこの場合は同じようなものだ。つまり非定型病像の時は身体的に何か起こりやすいのである。簡単なものでは悪化時に必ず風邪を引く人もいる。これは身体要因もその非定型の病態に大きく関係していることを示唆している。この「ニワトリと卵」の関係だが、おそらくその比は一様ではなく個人差が大きいような気がしている。

統合失調症の人でも少しだけそんなタイプだと、歩き回れるほどなのに仙骨部の褥瘡が全然治らない人がいる。これは病状が悪くなると平行して悪化する傾向があり、精神病の部分が改善しないから褥瘡も治らないのであろう。

非定型精神病ないし近縁疾患でリーマスが有効な人では、リーマスを投与することで仙骨部の褥瘡がかなり改善するのをずいぶんと診た。リーマスが褥瘡に直接効いているとは思えないので、褥瘡は精神症状に支配されていることが想像できる。

若い人では大量服薬など自殺未遂をして救急病院に入院している時に、褥瘡ができることがある。これは本人は昏睡状態だったからできたのではないかと思うかもしれない。

しかし、僕はそうは思わない。

普通、大量服薬をして病院に運ばれたような人では、看護師らが褥瘡にならないように気をつけているもので、若ければそうそう褥瘡などできるものではない。

あれは実は非定型精神病性の破綻なのである。だからこそ、自殺未遂の後、精神症状が改善するのであろう。

あれはきっと病状の転換点でもあるのであろう。

参考
ウェールズ生まれの
悪性症候群の謎
アトピーによる精神病状態
治療イメージについて