今年の正看護師国家試験 | kyupinの日記 気が向けば更新

今年の正看護師国家試験

今年の正看護師の国家試験は2月24日くらいだったように思う。もう2週間前なのである。僕はこのクソ忙しい中、看護学校へ教えにも出かけている上に、予備校の講師のように直前指導もしている。こういう仕事は本当はしたくはないのであるが、誰もやりたい人はいないので、人に頼むこともできず仕方なく続けている。今日は実際の国家試験の過去問を挙げて、その解き方を考察したい。これは看護学生さんだけでなく一般の患者さんにも役立つと思う。

問題 1週前に抑うつ状態で入院した患者が病室に引きこもっている。最も適切な対応はどれか?

1、朝は定時に起こす。
2、食事の時は食堂に誘う。
3、午後は散歩に誘う
4、夜は読書を勧める。


設定的に極めて漠然としており、しかもそう易しくない問題と思う。普通、このように抑うつ状態と言う場合、統合失調症もアスペルガーも認知症もある程度含むと思うのだが、国家試験は澄んだ目で問題を解かないといけない。ひねくれた人や「あまのじゃく」は失敗しやすいのである。

抑うつ状態の場合、服薬し始めて数日では簡単に良くならないのが普通である。なぜなら、抗うつ剤は効果の発現が遅いから。(特にSSRI)10日から2週間はかかることが多く、1週間で効果が出ているとしたら、「アモキサン」、「アンプリット」、「トレドミン」、「アナフラニールの点滴」くらいだろうと思われる。

ただこの問題ではいつから飲んでいるとの記載がなく、そこが漠然としていると言ったところ。臨床では、数週間前から服薬していてどうも思わしくないので入院になるケースの方が多い。ただ、こういうことを試験中そこら辺に立っている教官に聞いても答えは返ってこない。それは聞かないルールなのである。

そういうことを考えるに、これは精神疾患の問題と言うより、むしろ精神看護に重点を置いた設問かもしれないという気もしてくる。僕は精神看護は教えていないので、どういう風に指導されているのか知らないのだ。

上の設問を良く読むと、「1週前に抑うつ状態で入院した患者が病室に引きこもっている。」と書いているので、入院後、精神症状は「たいして良くはなっていない」という設定で解くべきなんだろうね。

この問題の背景で最も国家試験的に重要なポイントはうつ状態の「日内変動」なんだと思う。設問の雰囲気がそれっぽいからだ。一般に内因性うつ病では、朝悪くて午後から夕方にかけて少し気分が良くなるという所見がみられる(参考)。これを日内変動と呼ぶ。しかし「抑うつ状態」のように広くとらえると、そうでないケースもしばしばである。ここは国家試験なので、とりあえず日内変動を念頭において進めたい。

そう視点からすれば、朝が悪く動けず、人によっては起きられない人もいるはずで1の「朝は定時に起こす」というのはやはりまずいだろうと思う。たいして良くなっていない時期だし。

実際、うつ状態の人で焦燥感が少ないタイプの人たちでは、入院後、疲れ切って毎日寝ているような人もいる。あれを引きこもりと言えばいえなくもないが、この問題は誰が考えたか知らんが、この用語はちょっと不適切な印象はある。「引きこもり」は既に一般化している用語であるが、うつ状態、特に日内変動が明瞭に見えるような内因性うつ病にはあまり使わないからだ。あれは今日的な意味の「引きこもり」とは少し異なっているように見える。普通、うつ病で「午前中は引きこもっていたが午後からは活発になった」とはあまり言わない。現在は「引きこもり」はもう少し長い期間を捉えて表現されているような気がしている。(不登校など)

ただ、引きこもりが「不活発であること」を単に意味しているなら、1週間経っていれば単調な生活よりもう少し患者さんにかかわって、リハビリを始めても良いかもしれないというのはある。その時、2と3のうちより敷居が高いのが外出である。すなわち、

食事の時は食堂に誘う>>午後は散歩に誘う

リハビリ的には、単に食事に誘う方がたぶん散歩より脳への負担が少ない。たいして良くなっていない状態なので、2の方が優れていると思う。散歩が良いと思える点を敢えて挙げれば、病院周囲が森のような感じなときである。周囲が緑の環境ならばたぶん癒しにはなる。入院したばかりだと、食堂は知らない人が多いので、社会恐怖系の人では辛いことも実際にはありうる。

精神科看護の面では、まずは体の清潔、食事、睡眠などに注意しゆっくり休養できるようにすることが大切なので、そういう意味からも散歩の重要性が薄れる。食事を食堂ですることは、日常生活における基本動作だからだ。入浴をする、食事をする、睡眠をとるなどは基本なのである。人間は散歩をしない人はいるが、食事をしない人はいない。あと、この設問ではたぶん考えてないと思うが、1週間目で外出した場合、とっさの自殺などのリスクも生じると思われる。

さて、問題は読書であろう。上の2を考慮せず、これだけみるとちょっと迷う。なぜなら、かなりのうつ状態でも読書だけはしている人が現実には存在するからだ。しかし一般的に言えば、うつ状態が酷いと本は読めない。この活字にもランキングが存在しており、最も読みやすいのは新聞である。

以下、敷居が低い順。

新聞>>雑誌>>自分の好きな専門誌>>小説

このランキングは文系、理系で少し異なることもある。実は活字系ではインターネットの活字は新聞より更に敷居が低いのである。だから、

インターネット>>新聞>>雑誌>>・・

といった感じになる。そういうわけで、2ちゃんねるにはけっこう重いうつ状態の人々も来ているのであろう。この設問の4では夜に読書を勧めるなんて書いている。少なくとも日内変動を考慮すれば、午前中に勧めるよりは遙かにマシだ。それでもなお、読書というのはやや侵襲が高いものに入るので、不眠の原因にもなるし、あまり良くはないというのが普通の感覚だと思われる。

答え 2 (食事の時は食堂に誘う)

しかし・・
この設問は実際に過去に国家試験として出題されたものなのであるが、答えには諸説あるらしいのである。(これにはワロタ)

参考書によれば答えを3としているものもあるらしい。これは僕の推測だが、日内変動を特に重視すれば、午後に動かしてみるというのはあるのかもしれないと思った。「日内変動」を記載した精神科用語集を見ると、午後から気分が良くなると書いてあるし。

しかし実際の臨床の看護では普通は「食堂に誘う」くらいから始める。たぶんプラクティカルにはそうなんだと思う。だいたい、日内変動も典型的なものはそこまでないし、うつ状態でも疲労系の人たちは午後から悪くなるよ。

こういう異説をみると、臨床を知らず大学の中で頭ででっかちになったバランスを欠く人たちは、まず散歩に誘うのかもしれない。(と思った)

参考
看護師の国家試験