若い人へのSSRIの処方について | kyupinの日記 気が向けば更新

若い人へのSSRIの処方について

現在、若い人への抗うつ剤の投与の警告~注意があるが、現在、どの程度の運用をされているのかな?と思っている。別に禁忌とはなっていないので、投与できないわけではないから。若い人というのも、年齢でどのあたりまで含むのか曖昧だし。

もともと、SSRIの発売以前も、抗うつ剤治療の過程で自殺のリスクについては言われていた。これは抗うつ剤が悪いというのではなく、抗うつ剤で病状が改善してくると、かえって自殺のリスクが増すといった感じである。元気が出てきて自殺を決断がしやすくなるということもある。うつ状態はなんでもそうであるが、いったん良くなってもちょっと後戻りしたり、この日は悪かったというのはある。その原因は天候だったり、女性なら月経の前だとか、身内に不幸があったなどのライフイベントも含まれる。

回復期はそんな時こそ危ないのである。うつ病の場合、真に重かったら自殺さえ決断できない。回復期に自殺のリスクがかえって高まるというのは、こういう考え方から来る。

SSRIの場合、ある意味ふっきれるというか、現実社会から距離を置くという感じで、人生へ執着が弱まる面があるのでなお危険だ。決断力もSSRI風味に増している。若い人への警告はたぶんそういうことなんだろうと思う。

僕の場合、21歳~22歳以下ではパキシルは使わない処方を心がけていて、たぶん僕の患者さんにはその年代では1人もいないと思う。「どういう風に治療するか迷う」という話は過去ログにも出てくる。パキシルを使わないで様子を見ながら、処方を考えていくのである。ただデプロメールはちょっと別で、強迫性障害系の人たちで良さそうに見える人には若くても処方することがある。ジェイゾロフトはパキシルほどプレッシャーはないが、あまりその機会がない。おそらくジェイゾロフトも若い人には処方がないような気がしている。

そういう風に考えていくと、年齢を考慮しなくてもうつ状態~パニック系の人たちにパキシルを処方する機会がどうしても減少する。うちの病院はたぶんパキシルをさほど使っていない病院になるのだろうと思う。

SSRIの中でもパキシルは「焦燥感みたいなもの」が出やすく、一見、活動性が増しているように見えることもあるので、躁転しているように感じることもあるようである。もちろん本人は意識できず、周囲からしかわからない場合もある。

果たして、躁うつ病でもない人が薬物で躁転しうるのであろうか?

という問題がある。薬では躁転はありえないという人も、ありうるという人もいるが、双方、間違ってはいないような気がする。個々の症状をどう判断するかが関係するから。つまり診断学的なことだ。もちろん本物の躁転かどうかは時間が経たないとわからない。

僕はかつては薬で躁転はしないように思っていた。なぜなら、3環系抗うつ剤のような強力な抗うつ剤でも、躁うつ病でない人たちは本当に躁転がないから。だいたい、躁転がありそうな病前性格の人たちには警戒して薬物治療をしていた。そうでなさそうな人は、わりあい警戒も緩むが、そう人たちには躁転がほぼないし、躁転した時はその後の経過が躁うつ病ということがほとんどすべてなのである。

しかし、SSRIに関してはちょっと違う。薬物的な焦燥、気分の持ち上げ感、空回り風の過活動など、あれを躁状態と言うなら、躁状態といえなくはないと思うから。しかし、ああいう症状を躁状態としてしまうのは、ちょっと精神科医っぽくないと思ったりする。SSRIなどの薬物の躁転?は少なくともスカッとしたものではなくて、人工的な風味は確かにある。躁うつ混合みたいに見えるところもそうだ。

「SSRIによる躁転はない」という考え方に僕は近いのだが、あると言い張るなら、それを強く反対する気持ちはあまりない。SSRIはそういう変な状態で、自傷行為や時に他害も起こりうる。

とにかく、SSRIは旧来の3環系抗うつ剤に比べ若い人に使いにくいことには変わりはない。若い人に限らず、うつ状態に誰も彼もSSRIを処方するのはたぶん間違っていると思う。