βエンドルフィンと摂食障害 | kyupinの日記 気が向けば更新

βエンドルフィンと摂食障害

統合失調症と痛みの感覚」の続き。(最初のあたりは個人的推測)

βエンドルフィンであるが、例えば、体重30kgになるような摂食障害の女性患者では「ダイエットをすること」でβエンドルフィンが出ているように見える。これはだんだん強化されて、更なる体重減少を確認した瞬間に出続けるのであろう。これは普通の人よりその量もずっと多い可能性もある。彼女たちは生命が危険な時でさえ、ダイエットによるユーフォリアがある。これは「ダイエット中毒」と言えるのかもしれない。

しかし同じ摂食障害でも、過食症の人の過食発作は「果たして、βエンドルフィンが関与しているのか?」と疑問に思うところはある。彼女たちの過食行動は決して快感には見えないから。過食している瞬間は多少は出ているのかもしれないけどね。彼女たちは、悔やみながら過食していることもあるし、過食行動の後、必ず、自己嫌悪に陥り「うつ」になっていることもある。(いったん放出された反動と言う見方もできる。)少なくとも、彼女たちの過食行動は本人にとっても苦痛なことのように見えるからである。

摂食障害でも古典的な著しい体重減少を来たす人たちと過食・嘔吐の人たちとでは、「食行動に対する構え」の違いがある。ピュアな拒食型の人は食行動異常に対し全くと言って良いほど病識がない。それに対し過食型の人では最低限の病感、場合によれば病識といってよいほどの構えがあり、常に過食に対し悔やみや自己嫌悪を感じている。

同じ摂食障害でも、この点が決定的な相違点だと思っている。

他の緩やかな相違点として、拒食型はわりあい過活動の人が多いように感じるが、過食型の人は、いろいろとやりたい願望があるが、うつ状態や倦怠感で思うように動けないというのが多い。結果的にさほど過活動には見えない。こんな風に考えていくと、本質的に拒食型の人々の方がより生物学的背景が大きいように思われる。過食・嘔吐型の人たちは生物学的背景はあれど、機能的要素も大きいように感じる。

摂食障害でも過食型の場合は、その重さになだらかな段階があり、ある程度の症状があっても就労できている人もけっこういる。たぶん、精神科にかかっていない過食型の患者さんはアンダーグラウンドに相当いるような気がしている。うちの市の最も大きなデパートでは、職員専用トイレや洗面所で吐いている人が多いので、時々詰まるのだそうだ。これは、あれほど多くのデパートメントガールがいれば、そういう問題を持つ人たちが潜在的にそこそこの数いることを示している。

たまにうちの病院に診察に来る若い患者さんは、過食型だが、しっかり仕事はこなしている。たまに、うつが入ったと言って来院して、ベンゾジアゼピンくらいをもらって帰る。彼女は年に1回か2回くらいしか来院しない。だからSSRIを処方するのもほぼ意味がない。いつだったか、酷いうつ状態だったので入院させたら、3日くらい寝てばかりだった。突然、4日目に起き上がり退院していった。この人は、まあ病気はあるものの、この程度の社会適応は可能になっている。治療もしていないに近い。

過食・嘔吐の美容上の問題点だが、嘔吐の際に胃酸で歯を失うというのがある。彼女の場合も、過去に歯科治療に車1台分のお金を遣っていた。なぜうちの病院に来たのか、もう忘れてしまったのであるが、友人のクリニックから紹介されてきたような気がする。「うつ状態なのでお願いします」くらいだったように思う。

過食型の人で他の症状がない人たち(ボーダーライン的要素が乏しいという意味)では、最も実施しやすい治療はSSRIの投与だと思われる。それも、デプロメールが良い。というのは、彼女らはなんだかんだいって強迫的な人たちが多いからだ。デプロメールはできれば200mg以上は投与したい。最高300mgまで。一見、デプロメールは嘔気を起こさせるので向かないように見えるが、なんとか服用できるように努力する。デプロメールは最初は服用できそうになくても、いろいろやっていると服用できるようになることもある。

過食型の人にエビリファイを使うことは微妙だ。本来エビリファイは統合失調症でも何でもない人に処方してもそこまでの副作用が出ない。また、食欲を落とし体重を減少させる傾向があるので、彼女たちに歓迎される副作用を持つ。エビリファイは過食症に伴う抑うつ気分は改善するが、強迫は悪化する場合もあるので、やはり良いかどうかは人による。

(他の治療としては認知行動療法があるが、これは施設的にどこでもできるものではない。)

もう少し他の症状が絡んでいる場合は、セロクエルなどを併用せざるを得ない。セロクエルは体重増加を来たすため、彼女たちが薬に詳しい場合は不評だ。しかし、セロクエルはジプレキサのように過食発作まではほとんど来たさないし、精神面をある程度まとめるので、効果的にも副作用的にもまだマシに思える。

恐慌状態になり大過食をするくらいなら、セロクエルを服用してそんな状態にならないようにしたほうが良い。

参考
女性の理想像と幻想
現代の摂食障害(後半)