精神科医が危険な目に遭うこと | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医が危険な目に遭うこと

2000年頃の日記過去ログから。

121投稿者:kyupin  投稿日:08月08日(火)23時39分40秒
精神科医が危険な目に遭うことは一般の人が考えている程多くはない。しかし時に突発的な事件に遭う事がある。これは4年目頃の話。比較的危険だった事件は、ある覚醒剤中毒の夫婦が救急車で連れて来られた時のこと。救外の経験のある人ならわかるが、救急隊員は患者を連れて来た際、「先生、病名を教えて下さい」とか訊く。書類に書き込まねばならないのだ。

ところが、その時は今考えても変な話なんだが、その2人を降ろしてさっさと帰ってしまった。ナンダロナ?と思い行ってみると、精神科外来に来た2人のうち、女性は著しい興奮状態で、男性の方も女性を怒鳴りつけるような状態だった。男性はあきらかにヤクザかチンピラで、言葉使いも酷かった。

122投稿者:kyupin  投稿日:08月08日(火)23時41分51秒
とりあえず、いろいろと診察後、ここでは入院はできないが、別の病院を紹介しましょう、という内容を伝えた。(総合病院でこじんまりとした精神科病棟しかなかった。覚醒剤がらみは原則入院させないことになっていたため)

その紹介病院が覚醒剤専門の、泣く子も黙る、あるいはヤクザも沈黙する精神病院で、激昂したその男は胸からドスを取り出し僕を刺そうとした。(たぶん入院したことがあったのだろうと思う)

結局刺されなかったのは偶然に過ぎないというか、逃げていたら逆に刺されていたような気がする。相手は小さい男なので、僕が椅子から立って仁王立ちなんてすると発作的に刺しそうであった。じっと座っていた方がこういう場合は良いのだ。

キミたちドスを持って救急車で来たらいかんなぁ、来るならパトカーで来てね。

と思ったものだ。こういう人は普通、救急車では運ばない。当時僕はまだぺーぺーでその場を収拾できず、ボスに来てもらってなんとか収拾した。結局入院させざるを得なかったのである。今考えてみると、どうせ入院させるしかないのなら、別にリスクを取らずに良かったのだが。つまり「原則入院させない」というのを柔軟に捉えて、もう少し医師の裁量を効かせれば良かった。本当に、こんな人に刺されて死んだら、意味ないと思う。

123投稿者:kyupin  投稿日:08月08日(火)23時43分21秒
専門外のDRが精神科患者に刺されるのと、精神科DRが刺されるのでは意味が違う。精神科医は精神症状を把握し、今後に起こりうることをある程度、予測しなくてはならない。

だから精神科医が怪我をした場合、一部は本人の責任と思う。だから自分の患者に刺されたら、これは仕方がない。しかし、上記のような新患の場合のように偶発的で避けられないケースもある。まさか救急車で運ばれてきた人が刃物を持っているなんて思わないでしょ。(笑)

ところで、この事件が起こったあとも精神科を辞めようとかは思わなかった。僕が辞めようかと真剣に悩んだのはこの2年後ぐらい経った時。 30歳を過ぎてからは、辞める、辞めないでは悩まなくなった。精神科って、けっこう面白いしね。

参考
精神病院の住み分けについて