アスペルガー症候群 (前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

アスペルガー症候群 (前半)

アスペルガー症候群については、現在は情報も増えて、インターネットで検索してもすいぶんとヒットするようになった。興味のある人は調べてみてほしい。ここではアスペルガー症候群の細かい説明は省略したい。ここ2~3年に限れば、うちの入院患者でアスペルガー症候群の診断をした人は2名いた。2人とも未成年の男の子で同じような年齢だった。先日、「プレコックス感」の項で書いた子は、当初は統合失調症と見間違うような感じだったが、治療を進めるうちにアスペルガー症候群ぽさがはっきりとしてきた。

別の子はちょっと感じが違う。
うちの病院に来たのは偶然で、紹介されてきたわけではなかった。数軒の精神科や心療内科で治療を受けていたが、どこでも診断は曖昧にされて、明確にアスペルガー症候群といわれたことはなかったという。僕は、初診時に「どうみても統合失調症とは違う」と断言できるほどは自信はなかったが、「極めてアスペルガー症候群が疑わしい」と家族に伝えた。僕は、統合失調症の時はまず告知しないが、そうでない可能性が高い時は、診断について積極的に自分の考えを伝えることが多い。場合によれば、本人のみ来院していても言うこともある。結局、2人とも入院治療になったのだが、時期は重複していない。

こういう子って共通点があると思うんだな。問題となっている精神症状によるが、入院の際に個室を強く希望するすることが多い。テレビゲームが好きで、ずっと携帯型のテレビゲームで遊んでいる。統合失調症なら、あれほどの凝り方で遊ぶだろうか?と思えるほどだ。仔細にみるとテレビゲームの好みでも、もう少し特徴がある。アスペルガーの子は運動神経が鈍く、あるいは動くものを追う視力の良さに欠けているので、アクション系のゲームは苦手なのだ。機敏にコントローラーの操作ができずに前に進めないでいる。だからパズル系だとか、運動神経に関係ないゲームを好むところはある。しかし決してアクション系を最初から毛嫌いしているわけでもない。スーパーマリオなんかは、わりとアクション系の要素があるが、彼らはそんなゲームが好きなんだけど下手なんだ。

あと、場の空気が読めない上、わりと暴力的なので、つまらない理由で他患者を殴ったりする。これは幻聴や被害妄想が活発な子はそういう傾向が強い。洞察は極めて乏しいのである。客観的に見て、そんな風に食って掛かったら、かえってやられるのがわかりきっているのにそれができない。彼らには5分先が予測できない。暴力的な患者さんの場合、病棟生活には大きなハンディキャップではある。それと、そういう人を殴るなどの行動異常がある子も、外見からはそう見えない。ひ弱なイメージがあるから感覚的なギャップはある。

ある時、ある年配の男性入院患者を突然殴った。何か注意されたので、かっとしたらしい。後で、その人に一緒に謝りに行ったのだが、最初はどうしても謝らないなどと訴えていた。相手が怒っているという感情をイメージできないのだ。こういう非社会的、触法的な問題は、アスペルガーの子に時に見られることがあり、社会的にはようやく認知されてきたような気がする。例えば社会復帰施設などに馴染まないのは、治療、社会復帰の面で大きな問題だと思う。

2人ともわずかに独り言があった。これは目立たないんだけど。統合失調症の独語との違いは、彼らの場合、他人との心の接触を避けて自閉的な生活をしていることから来る感覚があること。2人の場合、幻覚妄想はあったが、独り言はそれに起因していない。2人とも独り言はあったが空笑はなかった。

後者の子は昨年半ばに初診して、2ヶ月くらい入院治療をしていた。当初はオーラップやセレネースでなんとかしようしたが、うまくいかなかった。こういう子は直感的にはオーラップなのである。あんがい薬に弱いので、古いタイプの薬は服用できたとしても、その後が良くない。非定型抗精神病薬もうまくはいかないものの方が多かった。それでも試行錯誤の後にジプレキサ2.5mgで落ち着いて来たのである。今はベンゾジアゼピン系の抗不安薬とジプレキサだけ処方している。眠剤も少し。ベンゾジアゼピンは攻撃性を抑えるので、このようなケースでは併用していた方が良いような気がしている。SSRIも含め抗うつ剤はどうしても合わなかった。うつ状態に関してはジプレキサに任せた形になった。


参考
プレコックス感
オーラップ