いい加減でいい感じの基礎。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 このところ営業不振で粘らざるを得ず帰宅が遅いため、睡眠不足が翌日に尾を引き、隔日記もままならない。昨日など最悪で、午後六時まで一万円も売れなかった。十二時間働いて一万円も無しということは、仮に八千円だとすると、時間当たり六百六十六円の売り上げということになる。666とは縁起が悪く、なんと労働対価である時給に換算すると、ほぼ三百円ちょっと。今どき時給三百円の非正規労働も探すのが難しいくらいだろう。しかし、大丈夫。売り上げの悪い車夫ならば、できるのだ。
 なんてことでは生活できないので、仕方なく生活可能なレベルまで粘らざるを得ず、深夜二時帰宅の日々が続いているのである。面白いもので、夜中のバーなどへお迎えに行くと、気の良い酔っ払いがいて、ちょっと長めの依頼を提供してくれ、何とか、もう閉店しても良いだろうという状況にしてくださる。酔っ払い様々である。できれば、深酒するときは、家から遠い土地で呑んでもらいたい。もちろん終電など気にしてはいけないが、終電では私には遅いので、終電の小一時間前には帰りたくなってもらい、私を呼ぶべきだな、と思う。できれば、午後十時半前が良いな。片道三十分くらいだとなお宜しい。そうすると、日々最低ノルマくらいまで達成でき、午後十一時半ころには店じまいして、いろいろ面倒な始末を付けて午前一時前に帰宅できるから。いつも帰宅して一時間半くらい焼酎をがぶ飲みして眠るが、就寝が午前二時半と午前三時半では隔絶した相違があり、後者だと翌日の睡眠不足感が激しくてなにもやる気にならない。といって早く眠れるわけではなく、生活リズムを壊さないように翌日午前四時半起床に合わせて眠らなければならない。そうしないと、リズムが狂って体調不良になり頭がいかれてしまうので。

 まあ、それは仕方ないとして、本日も著しい寝不足だったが、午後四時前に合気道の稽古に行った。主夫でもあり多忙であり、稽古場もいつもと違ってやりにくいところだったが、そういうときこそやるのが健康維持の秘訣である。たまに、体は動かしたいが、気分がのらないというときがあるけれど、そういうときこそやるべきで、体は動きを欲している。その肉体の欲望を気分が邪魔しようとしているのである。という場合、邪魔する方が悪いので、気分が悪いのである。悪い気分の言いなりになると肉体に悪いから、肉体の欲望に従い肉欲耽るべきなのだ。肉体の不健康を誘引するのは、いつだって悪い気分なのだ。ところが、そんなときこそ、肉欲に任せて行動すると、気分もすっきりする。ああ、肉欲って健全だッと感動する。

 それもどうでも良いが、稽古場では、また天地投げブームになっていて、好き者から問われた。
 「どうしたら、相手が浮くんですか」と。
 「ん?ああ、立った状態では難しいよ。座った状態で呼吸法(合気上げ)ができない限り、無理だね。それっぽい型ならできるけど、浮かすのは無理。できないから、やってもムダだ」
 いつものことだが、問いかけた人は項垂れる。
 けれど、真実である。座位で合気上げできないのに、立位でなど絶対にできない、と断言しよう。やることは同じようなことだけど、立位は少なくとも百倍は困難だから。
 と、懲りない相手は、手を変えて食い下がった。
 「んじゃ、終末動作の二なんですけど、教えてもらえませんか。ほら、掴んだ手が離せなくなってくっついていっちゃうやつ」
 「おっ、上手いところに目を付けたね。そうなんだよね、天地投げも同じことで、終末動作の二でひっつき動作ができないとできないんだね。良いね、目の付け所が」
 そのように褒めちぎっておだて上げ、終末動作二のひっつきバージョンをご案内した。
 もっとも、これは一も同じで、相手の肘固着と体重心を感覚していれば、どちらも相手は掴んだ手を離せなくなる。たまにやって遊ぶが、やっていると相手はいつの間にか手を離せなくなり、私が腰を沈めると転けてキョトンとする。
 「なんすか、これはッ」
 と問われると、すまして応える。
 「肘ロックンロールだぜ、ベイビー」

 本日は真面目にやったのでそんなことは口にしなかったが、だんだん人が集まってきたので、超基礎講座をやった。なにかというと、脊柱と重心感覚についての武系調体ようなことである。
 ほとんどの現代人は腰椎が後方に反った状態なので、押される力に弱いため、久しぶりに立位での押し相撲をやりこの問題を指摘した。やり方は簡単で、養神館でいう構えの状態で相対した相手の肩に両手を当て、二人で押し相撲をするだけ。
 試してみると良いが、百パーセント近い人は上半身が勝ちに行って、重心を前のめりにする。そうなると、相手が引けば、ヨヨヨッと崩れる。押さずに崩れまいとすると、相手の押圧で腰が沿ってしまい後方に崩れる。
 いつも言うのは、構えの姿勢のまま体重を前へ進めれば崩れないよ、ということ。もちろん、言うは易く行うは難しの類いだけど、膝行がちゃんとできれば簡単なことである。
 結局誰もできなかったので、仕方なく、膝行講座に移った。二十年くらい同じことを繰り返している気がするが、まあ愉しいから良い。口にすることもやることも、ずっと同じである。姿勢を崩さず、腰を上下動させず、揺さぶらず、体を捻らず、右左右左と交互に体重を前方へ滑り落とせば、あら不思議、スルスルとナメクジみたいに床を滑るごとく前進してしまう。で、これを立った状態でやると、いわゆるナンバになるんだよねぇ、と解説する。それでも尚わからないとまずいので、合気道も古武術とか剣術も同じだと思うけど、動作の基本は筋肉運動じゃなくて、体重移動だと思うよ、と。
 皆さんそのときは納得し、熱心に稽古する。が、どうしたことか、なかなかできないらしい。私には理由がわからない。
 超基礎のことなので、こういう点無しに、どうやって技ができるのだろうか?と不思議に思う。どう考えても、絶対必要不可欠の超々々基礎的お稽古のはずだから。もしかして、超々々基礎の部分が消えてしまったのが現代なのかな、とも思ったり。日本語も似たようなものと感じるが。国語じゃなくて、日本の語だが。古今的いい加減ないい感じの感覚というか。ま、止めとこう。

 もう就寝時間を過ぎてしまったから、これくらいにしておこう。
 第二の孫はまだ顕れず、なんかの誘発をやることなったらしく、次女は今夜もうすぐ入院かな。一両日中にポコッと出てくるはずだが、自然のままに出現させてやりたくはあった。けれど母体の安全的には、その方が良いのだろう。問題なく、今ひとつの生命がこの世に混ざりこむことを祈るばかり。
 明日はあまり営業不振ではないことも祈りつつ、床入りしよう。