誰もが。 | 境界線型録

境界線型録

I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 いつまでも混乱が続くので、しかたなく独裁体制に入った。もう他の意見はシャットアウトして、ガガガッと一存で決定。一気に儀式の手配を終わらせた。他の意見さえ反映しようとしなければ一時間くらいで終わってしまう。仕事とほぼ同じかな。
 政治団体の会長がお見えになるというので、弔辞をお願いした。なにしろ父の人生の十分の九くらいはそこに注力されたので、われわれ身内も知らない顔がある。で、お願いしたら、「でも、政治的な面にはあまり触れないようにしますよ。先生に教わったこと、楽しい思い出など語らせてもらいます」とありがたいお返事をいただいた。私は政治的発言でもかまいはしないが、気を使ってくださる。
 ケチな私が最終的に仕切ったせいで、だいぶリーズナブルになった。総額を知ると母は、そんなもんで大丈夫か?と応えた。そんなもんといっても生半な額ではなく、すでに父の金は底をつき、母も破産に近づいているのだから大丈夫もなにもない。私はとうに破産ギリギリの境界線上を綱渡りしているのだから、あんな業者も使うなといったのだが、プール金があったからしかたない。端から私が仕切れば、半額以下で同等以上にしたものを。無知というものは、まったくムダを呼ぶものだ。
 儀式が終われば、布施問題と建墓事業に手をつけなければならないが、まあ、これはたいしたことない。もう予算配分も決めたので、四十九日ですべて片がつく。そうしたら、ようやく静かに弔いができることだろう。この無意味な風習は、ぜひとも合理的にソリューションしたいものだ。次の世代のためにも。

 以前、私の冠婚葬祭非営利事業の陰謀についてちょっと書いた気がするが、これはやるつもりではある。少し調査しないと詳しいことは書けないが、狙いは貧困層でも満足のゆく葬儀ができるほんものの葬祭サービスを実現して遊ぼうということ。基本的には職にありつけずにいる人々が、自分たちの力で事業を興し、自分の生活を自分で賄えるようにするための事業フォーマットづくり。雇用など無用で、みんな起業家にしてしまえという無謀な魂胆。ポイントは営利を捨て、真の相互扶助の関係から、従業者の生活に必要なだけの謝礼を分けていただくという形。その事業体には営利拡大の必要がないので、会計は完全オープンにする。これを実現してしまったら、既存の儲け主義業者さんはかなりびびるだろう。
 婚礼もぜひ実現したい。なにしろ次の時代を作る若者には、幸福な結婚をしてもらいたい。が、貧しい状況でちゃんとした結婚式などできないと悩んでいる人々のために、サービスを生みだしたい。なにせ、結婚に金などかかる必要はないので、ちっぽけだけど精神的に盛大な祭儀ができる環境を用意したい。
 すべて儲かることなどない、従事するものもわずかな報酬しか得られない事業だが、なにも労働はひとつである必要はない。そういう非営利事業に複数参加して、とりあえず食いつなげる程度の収入が得られればそれで良いだろう。儲けるなどと考えるから、人間は頭がいかれ心が歪みヘンな顔になる。余分な儲けなど捨てて、愉しく生きて死ねばそれで良い。

 いま営利事業として展開されているものは、進化、発展、競争などのキーワードを外してしまうと、ほぼすべて非営利事業として成立する。営利と非営利の境界線は、欲を優先するか相互扶助を優先するかという狭間に引かれる。その境界線を初期的に明確化するのは、事業会計の公開と第三者による評価だろうか。
 20世紀後半からの政治は、ほとんど経済の隷属機関になっているので、まず経済に対する認識を変えることが、社会的ソリューションに不可欠といって良い。政治はすでに二次的機能になってしまっているので、ほんとうの戦場は経済だろう。
 安倍内閣は性懲りもなく成長戦略とかいって例の経済学者も主たるメンバーに指名されたが、それを続けていけば、日本人は間違いなく分断される。得て施すものと、施しを受け感謝するものに。それは、ソフトな奴隷社会。西洋もそのプロセスでモヤモヤと悩んでいるのだろう。
 もちろん、あれほど聡明なシッダールタ青年でも解決し得なかった難問なのでことは複雑怪奇だが、少なくとも日本がそんな地獄への第一歩を踏みだすべきではない。世界でいちばん大衆的な社会が日本だったはずなのだから。

 という意味では、やはり冠婚葬祭のフラットサービス化は必要だろう。誰もが自分の身の丈にあった婚礼をして満足し、誰もが見栄や驕りとは別世界の葬儀によって冥土の旅へと送りだしてもらえる時代が。
 早く手をつけたくてうずうずするが、とりあえずはわが家の破産を回避させないとまずいし、娘どもを巣立たせないとならないからまだ先だが。相互扶助経済に目を向けないと奴隷になっちゃうし。
 でも、私は闘いによってそれが実現するとは考えていない。もっと、巧妙な手口の方が面白い。幾つか構想はあるので、機会創出を狙っているが、なかなか世は世知辛く想像力も貧しいので難しいが、どうせいずれそうなりはするから焦ることもないだろう。原発みたいなやばすぎるものにさえ手をつけなければ、人間は必ず種族保存を優先するはずだし。