浮きづくり。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 午から演武会。
 結局、演武をやることになり、両手掴み和術的合気上げからの呼吸投げ、片手を両手で押さえ込まれての和術崩しでんぐり投げ、片手掴み和術小手返し固着呼吸投げから、後は合気道らしい正面打ちの投げを適当にバシバシやり、和術浮きづくり張り詰めた四方投げで床に落とし脳天割りで締め。またまた腰に響いた。まあ、和術を知っている人にはお楽しみいただけただろう。
 演武後、喫煙所で一服していたら、私の演武に惚れてしまったらしいお嬢さんが潤んだ目でやって来てサインをねだる。あ、違った。体験したいんですけどぉ、と来たのだった。疲れたので、つい嘘をついてしまった。
 象徴としての演武に過ぎないが、接触した瞬間の受けの体の浮きと、仕手受けの間に張り詰めた関係があり、最後まで途切れない辺りを観察してもらえれば本望だが。それが、重さの力。重さがわかっていないと、ああいう張り詰めた関係性にはならない。

 午後四時前に演武会は終わり、浮きづくりしたがっている他支部の先輩や仲間と緊急浮きづくり特訓会。他道場の方々も何組か和気藹々とやっていた。合気道のような型稽古武道は、こういう時間が面白い。もうそこにいる必要はないけど、いても良いので好きな者は居残り、ああでもないこうでもないとやる。真っ当に本気の人しかいないので、こんなひと時が、もっとも充実している。今日の方々はブログを知らないと思うが、面白かったので分解解説しておこう。

 打ち突きはかなり難しいため、稽古はほとんど掴みでやる。
 片手を掴まれる。
 仕手は自分から動かない、反射しない。先を取ろうとしない。
 体重心は常に真下へ落下させておく。これを絶対傾けてはいけない。
 受けの掛けてくる力を受け止める。
 力を受け止めるのは腕ではない。接地点で。
 立っているなら後の足底。座っているなら体重心。
 力は骨格を通して、接地点に落下していく。そのためには、骨格の姿勢が肝心になる。特に、仙骨と言って良いかもしれない。関節はすべて重要だが、腰椎、仙骨の意識が肝心要だろう。これは、その部位の問題ではなく、背骨の問題。
 受け止めるといっても、止めない。相手が停まる刹那に、超過させ、相手の前腕が内旋外旋して僅かにねじれるようにする。
 この際、力でやらない。
 接合部に意識を持たない。必ず、体幹に近い部分で稼動させる。
 重さがわかってくれば、力は不要。重さを接合部に乗せて丸く滑り落とさせればいい。
 と、相手の肘が勝手に止まる。
 それ以上捻らない、回さない。
 すると、自然に相手の重さが、やや多くこちらの腕に乗ってくる。
 これを、しっかり捉えて離さない。
 離さないといっても掴むのではなく、重さをこちらの体に貼りつけておく。密着させておく。
 密着したら、ほんの少しだけ、小さく、丸く、重さを落下させる。
 と、重さがさらに増す。この瞬間、相手の腰がピクッと僅かに浮く。これを捉え損なうと失敗する。自分の力でやれば、ほぼ失敗する。重さでやれば、ほぼ百発百中。
 重さがのし掛かってきたなら、相手の腕の中の筋を手繰って背筋を釣り上げるように操作する。動作としては、最初の浮きより若干大きな円を描いて落下させつつ、少し持ち上げる。ただし、自分の力で持ち上げようとしない。相手が自分の力で身を浮き上がらせる。ここを、よく研究したい。
 この際、相手の体の緊張が緩まないように、ほんのちょっと間を詰める。
 そして、相手の浮上が止まれば、浮きづくりの完成。

 もちろんこれは浮きだけなので、崩れはしない。浮きの瞬間、相手の体はバランスを失うようにしないと技には展開できない。単純に左右を不均衡にさせるだけでも、あっさりバランスを失う。バランスを失ったところに、関節技を極めたり入り身すれば、型が描く技になる。
 入り身もちょっと和術的に解説したが、これも私は自分から入るのだとは考えていない。浮いてバランスを失った相手がこちらに寄ってくる。これは浮きづくりできれば、簡単にわかる事実だ。よってくる相手に対して間を詰めるのが、たぶん本来の入り身だろうと思う。おそらく大東流の外無双のような技もそうではないかと想像している。なぜなら、これならば受けと仕手は互いに寄っていくので速度が倍加するから。ゆっくり動いたとしても、受けにとっては避けがたい速度になる。
 それこそ和術の要点。手先を捏ねたり自分でせっせと体捌きなどしない。ほぼ相手にやってもらう。だから、力は要らない。必要なのは、体感覚と物理的理論と度胸だけ。

 和やかに稽古して、気がつけば周りは皆消え、われわれだけ。日も暮れていた。