この話は、魔人様宅の企画
☆魔人ブログ3周年記念投網的リク罠☆
30行脱出企画 への参加作品です
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超大型台風が関東に上陸したその日。一人の女性がLMEを訪れた。
カツカツとヒールを響かせて歩くその姿はまさに出来る女性そのものだが、一方で冷たい雰囲気ゆえか近寄りがたい印象があるのは否めなかった。
エレベーターが最上階に着くと、ローリィの秘書兼付き人がその女性を出迎えた。
「お待ちしておりました。最上冴菜様。こちらへどうぞ。」
冴菜は、ローリィが待っている部屋に案内された。ちなみに、今日のローリィの出で立ちは、仕立ての良いスーツ姿である。
日頃のローリィのコスプレを見慣れている社員たちが見たら、度肝を抜かれること請け合いである。
「初めまして、最上冴菜と申します。お時間を作って頂きありがとうございます。」
そつなく挨拶するその女性を見て、ローリィは(似てねぇ母娘だな。)と感想を抱いた。それをおくびにも出さず、しれっと挨拶をした。
「こちらこそ、ご丁寧に。ローリィ・宝田と申します。」
自己紹介と名刺交換を終えると、普段のおちゃらけた言動
「どうぞ、お掛け下さい。本日はどう言ったご用件でしょうか?」
「時間がありませんので、単刀直入に申し上げます。娘の芸能活動を辞めさせていただきます。」
ローリィは驚かなかった。むしろ、やはりそう来たかと内心ごちた。
「ほう?それはそれは、急ですな。お嬢さんとは話し合われた結果ですか?」
「話し合う?何をです?あの娘は未成年で、私の保護下にあります。親の私の意向に沿うのが筋と言う物じゃございませんか?」
一見、論理的な物言いのようだが、よくよく聞くと自分のことしか頭にないことは丸分かりである。
普通の親子なら、冴菜の言う通りなのだが、目の前の女性が育児放棄していたことをローリィは知っていた。
と言うのも、かつて母親のことを訊ねた際に、キョーコがひどく傷付いた顔をしていたことが気になり、信頼できる興信所にキョーコのことについて調べ上げていたのだ。
「娘には地に足の着いた職業を就かせた後に、しかるべき相手と婚姻させる事にしていますので。」
「地に足の就いた職業と申しますと?」
ローリィが訊ねると、そんなことも分からないのか、大きな会社のトップの癖にと顔に書いてある。
「国家公務員とか弁護士とか医者とかそんなところです。あとは、大企業の会社員でもまあ良いでしょう。」
あまりにキョーコの意向を無視した挙句、上から目線で話すこの女性にローリィは苛立ちを覚えた。
「お話は分かりました。が、こちらとしては、お嬢さんの意向を無視する訳には参りません。」
そう言うと、ローリィは内線でタレントセクションを呼び出した。
「おお、椹くんか。最上君の今日の予定はどうなってる?今日から5日間、ロケ?そうか分かった。」
内線を切り、ローリィは改めて冴菜に向き直った。
「あいにく、お嬢さんは今日からロケで東京にはいません。5日後には戻ってくる予定ですので、それ以後で、改めてお嬢さんを交えて話をしましょう。」
己の言い分が通らなかった冴菜は一瞬顔を顰めたが、頷いた。そして手帳を開いて、
「私の方は、1週間後の19時が時間が空いてますが如何ですか?」
ローリィが無言で付き人の方を振り返ると、付き人も頷き返した。
「分かりました。では、1週間後の19日に、もう一度ここまで来ていただけますかな。」
冴菜が頷くのを確認して、ローリィは再び口を開いた。
「ご存じないようですから一つ教えて差し上げましょう。お嬢さんは、女優として今非常に大きな転換期を迎えております。つい数日前にハリウッドから直々にオファーが入って来たところなのです。
私としては、ぜひお嬢さんにはこの大きなチャンスを物にして頂きたいと思っております。」
ローリィがそう話すと、冴菜は小さく下打ちをし、
「一体どこまで、私の顔に泥を塗れば気が済むのかしら。こんな根無し草稼業なんて。」
冴菜は腕時計に目を落とすと、「お話がそれだけなら、失礼しますわ。」とおざなりに頭を下げて扉から出て行った。
「あの娘が必死の思いで掴もうとしているものを。どこまで邪魔すれば気が済むんだ!」
冴菜の出て行った扉を睨み付けながら、ローリィは吐き捨てた。
《つづく》
コメディにするはずが、冴菜ママンだ出て来た途端にシリアスになっちゃった。
シリアスが苦手なので、しばらく難産になりそうな予感・・・・m(_ _ )m