リーマン・ショック後のEUの景気・雇用情勢について 4/5 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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リーマン・ショック後のEUの景気・雇用情勢について
-景気は緩やかに回復、ギリシャ危機で先行き不透明-

(田中 友義 駿河台大学経済学部 教授 兼 財団法人 国際貿易投資研究所 客員研究員)


第5節 財政赤字問題

1.深刻化する財政赤字

 欧州主要国の財政赤字が拡大している。EUとユーロ圏の主要国の財政赤字の対国内総生産(GDP)比が「安定・成長協定」(財政協定)で定める3.0%の上限を大きく上回る見通しである。景気対策・雇用対策や景気減速に伴う税収減が財政悪化の要因と考えられる。

 欧州委員会は、安定・成長協定に基づいて2009年中に9回(同年2月2回、3月、5月、6月、7月、9月、10月、11月)も財政状況に関するアセスメントと財政赤字是正のための勧告を行ってきた。

 これは欧州各国が景気の悪化や金融機関の救済策などを通じて公的債務を膨らませていることへの懸念が金融市場で高まっていること、景気対策に伴う大幅な財政出動や減税による過度の赤字拡大で財政規律の緩みが欧州全体に広がるのを回避したいという強い意思表示である。

 事実、前述したように、ギリシャなど財政基盤の弱い加盟国は長期国債の格下げや信用不安に直面しており、財政悪化がユーロ圏の大きなリスクとなっている。

 2010年4月に欧州委員会統計局(EUROSTAT)が発表した2009年の財政赤字の対GDP比の数値によると、現在信用不安が高まっているギリシャは、2009年秋の予想値の12.7%から13.6%に、ポルトガルはそれぞれ8.0%から9.4%に悪化している。

 2010年春季経済見通しによると、2009年、2010年、2011年の財政赤字の対GDP比は、EU(ユーロ圏)が6.8%(同6.3%)、7.2%(同6.6%)、6.5%(同6.1%)と、いずれも大幅に悪化する見通しであり、大幅な財政赤字から政府債務残高の対GDP比もEU( ユーロ圏)が73.6%(78.7%)、79.6%(84.7%)、83.8%(88.5%)と、今後も膨らむ見通しで財政問題が深刻化する(表2)

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2.本格的な財政再建に着手

 欧州委員会は景気対策の実行のため今後2年間は協定違反を容認する考えであったが、財政赤字の急拡大で将来的にユーロ圏が財政規律を維持できなくなる恐れが出てきており、ギリシャ危機を契機にして、財政協定違反国への制裁強化に着手する予定である。

 2009年10月のEU財務相理事会は、EU加盟国は早ければ2011年から財政再建に着手すべきだという認識で一致、2011年以降の毎年GDP比で0.5%以上の財政赤字削減を進める方針を固めた。

 欧州委員会は2009年10月、オーストリア、ベルギー、チェコ、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スロバキア、スロベニアの9カ国に、安定・成長協定に違反したと通告した。

 フランス、英国もすでに2009年3月に欧州委員会から2008年時点で協定違反の通告を受けており、EU27カ国中20カ国が大幅な財政悪化を指摘されるという異例の事態となった。

 欧州委員会は2010年5月、ユーロ圏の景気回復は日米を大きく下回り、財政赤字も拡大するとの予測をまとめた。2010年はユーロ圏16カ国全てがEUの安定・成長協定違反という異例の事態となることを指摘した。欧州委員会はギリシャ危機の再発防止策の中で安定成長協定違反国への制裁強化などを検討しているが、これまでも違反国への制裁は一度も発動されたことがなく、どこまで実効が上がるか疑問視する向きもある。


3.信用不安連鎖の防止

 ギリシャの巨額の財政赤字に端を発した信用不安の波及が懸念されるポルトガルとスペインが相次いで財政再建策を打ち出した。ギリシャより財政規模の大きい両国にまで信用不安が広がると、さらなる信用不安の連鎖によって、影響は格段に大きくなる。

 2009年12月にギリシャは、抜本的な財政再建策を講じるよう欧州委員会から警告を受けていた。2010年5月のギリシャの中期財政再建計画は、同年3月の付加価値税引き上げなどの48億ユーロの財政赤字削減策に次ぐもので、年金制度改革や給付水準の実質削減、付加価値税の再引き上げ、公務員の賃上げ凍結や諸手当削減、電力や交通事業の自由化など今後3年間で300億ユーロの財政赤字削減策を決定、財政赤字のGDP比を2009年の13.6%から2014年に2.6%に低下させるという内容である。

 ポルトガルの2009年の財政赤字は、GDP比で9.4%と高水準である。同国政府は2013年には、EUが求める3%を下回る2.8%まで圧縮する目標を掲げて、超高速鉄道の建設などの公共事業の一部凍結、公務員の削減や昇給の凍結、銀行・電力・航空・製紙などの国営企業の民営化、税制優遇措置の一部廃止などの計画をEUに報告した。

 一方、スペインは、2009年にはGDP比で11.2%であった財政赤字を、2013年に3%までに下げる目標を示した。同国政府は2010年4月、その具体策として、国営企業の民営化や公的機関の整理統合と人員削減、年金支給開始年齢の引き上げ、付加価値税の引き上げなどで今後500億ユーロの歳出削減策を発表した。さらに5月に追加的な歳出削減策として、公務員の給与削減や公共事業の凍結などを通じて2010年と2011年の歳出を総額で150億ユーロ削減することを発表した。

 いずれも、ムーディーズ・インベスターズ、フィッチ・レーティング、スタンダード・アンド・プアーズなどの欧米格付け会社が格付けを相次いで引き下げる中で、積極的な財政再建策を示して金融市場における信用不安の波及を防ぐことを狙ったものである。