【朝コラ】ロボット研究バブルの終わり | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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ロボット研究バブルの終わり-市場創出に向けて
(三菱総合研究所 経営コンサルティング本部 研究員 三治信一朗)


 2010年10月13日付日経産業新聞が「日本のロボ研究、岐路に」(※1)とのタイトルで、「ロボット研究バブルが崩壊した」とロボット研究の窮状を伝えている。私自身のコメントも交えて紹介しているので、機会があれば一読いただきたい。ここで言うロボットとは、産業用ロボット以外を指している。

 振り返ればロボット研究は、いくつかの波があった。一次ブームは、二足歩行ロボットである。人間の型を追究して、早稲田大学が世界で初めて実現した WABOT、それからホンダのASIMOと続き、これらの研究が産業技術総合研究所のHRP開発に影響を与え、ヒューマノイド型の研究が続いている。これらの機運からロボットが身近なものになるというムードが高まった。二次ブームとしては2005年の愛・地球博(愛知万博)でのロボットプロジェクトであった。万博内で掃除・警備・接客などのサービスを実際に提供し、すぐにでも身の回りにロボットが増えていく印象を受けた方も多いのではないだろうか。ここまでがロボット研究の花盛りであった。しかし、実際に現在まで普及が進んだロボットは、数えるほどしかないのが実情である。当初期待されていたほどのスピード感でロボットの市場が立ち上がってこないことから、足元のロボット研究が理系ものづくり人材の育成の視点以外で取り上げられることが少なくなってきた。これで、ロボット研究のバブルが終わったとみる者も少なくない。

 ロボット市場が立ち上がらないジレンマもあるのか、身の回りの研究者たちの言葉を集めると、「ロボットが実用化しないのは、技術が難しいから」、「いいものを作っているのに使ってもらえないので、使ってもらえれば自然に用途が広がる」、「安全の基準がないから、ロボットを売り出せない」といった文句が並ぶ。これは、本当だろうか。

 海外に目を移すと、アメリカではiRobotがルンバというお掃除ロボットを発売しすでに数百万台の実績があり、自律移動型の乗り物のSegwayが世界中に市場を広げている。この事実を重く受け止める必要がある。日本でも、お掃除ロボット、自律移動型のロボットは、企業、大学を問わず広く研究されてきたものであり、研究してきた年月は長い。ロボットの研究開発に投資してきた金額規模も積み上げれば相当なものになると考えられる。日本では、富士重工業のお掃除ロボットが業務用で販売、売り上げおよび利益を伸ばしているが、このような成功事例はわずかしかなく規模も小さい。

 私たちが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託調査を受けて、実際にロボットの市場性を評価したところ、2035年までに最大10兆円、周辺産業まで含めれば20兆円程度の期待規模になると試算した。この市場性評価の前提としてあるのは、既存産業の置き換え、産業の構造の転換が進んだとした場合を考慮してのものであるが、期待規模としては、このぐらいの市場が拓ける可能性がある。本当に市場を拡大しうるかどうかは、実際にロボットがどのような形で実現されるかをイメージしてもらいながら、進めていくほかない。過度に少子高齢化が進むなかで、現実的に自動化・高機能化に取り組まざるをえない業種もある。たとえば、介護、農業、インフラメンテナンスなどである。このような業種にいっそう注力して、ロボット技術がどのような形で貢献できるかを示しながら、具体的に話を進めることが必要となる。具体的に話を進めるためには、これまでの技術者中心のロボット研究を脱し、ビジネスモデルや社会デザインを意識した、社会・ユーザー中心のロボット市場創生へと軸足を移すことが重要である。併せて、ロボットの用途拡大・普及にあたって障害となる安全規制・認証について、官と民が一体的に検討を進めていくことが、世界一のロボット技術・研究をロボット市場でも世界一にしていくために不可欠である。


※1:2010年10月13日付日経産業新聞「日本のロボ研究、岐路に、ヒト型より実用重視を、今ある市場開拓が急務。」


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