週刊誌の差止め方法 ~出版禁止の仮処分~ | 弁護士 河西邦剛のブログ

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週刊誌の出版差止についてオリコンニュースから取材を受けた記事が公開されました メモ記事はコチラ
 
 
 
 

 
最近は、週刊誌の出版差止についてタレントさんからの相談も多いのですが、週刊誌差止を専門にしている弁護士はあまり多くないようですね。ネット上の情報もあまり多くないようです。なので、もう少し詳しくお話しようかと思います
 
 
 

1. 週刊誌発売までの流れ

 

 
質問状(3~4日前) FAX

記事案 メモ

編集(3~2日前) 本

輪転機印刷(2日前夕方) 

店頭配送(前日) 

店頭販売(発売日) コンビニ

 
一例ではありますが週刊誌が発売されるまでは大体このようなタイムスケジュールとなります
 

 
ちなみに輪転機印刷とはコレです
引用元:https://www.lifcom.co.jp/printing/point.html (㈱リフコム)

 

 
輪転機印刷が始まってしまうと現実的に記事の差替えはほぼ不可能となります。なので、輪転機印刷までに、どんなに遅くとも発売2日前の朝までに裁判所に申立を行い交渉開始することが必須条件です
 
 
 

2. 質問状と両論併記の原則

 
 
質問状(3~4日前) FAX

記事案 メモ
 
 
まず週刊誌の記事に掲載される場合、このように記者の質問状からの記事化という流れになります。なぜ質問状が送られるかというと両論併記の原則が関係しています
 

両論併記の原則 メモ

両論併記の原則とは、対立する2者間の意見をメディアが掲載する場合には、片方の主張のみならず両者の主張を掲載するという原則です
 
週刊誌メディアにも両論併記の原則が適用されますので、週刊誌も必ず事前に質問状を送ってきます。タレント記事の場合には所属芸能事務所にFAXが送られてくることが多いですが、電話やメールのケースもあったりはします
 

質問状の内容 FAX 

 質問状は例えば
 
  1 ~という事実はありましたか
  2 ~とした場合、その理由はなんでしょうか
  3 ・・・
 
という内容になっており、質問状の文面のみ見ると結構丁寧な記載になっていることがあります
 


3. 質問状掲載事項はそのまま記事化される可能性濃厚 

 
 
質問状記載事項=週刊誌がまさに記事にしたいこと
 
 
です。なので、質問に対する回答書に
 
 
『~という事実はありません。全くの事実無根です』
 
 
と回答したところでほぼ確実に
 

「~氏に~疑惑!?」
 
 
という記事になります。
もちろん記事には「本人は疑惑を否定した」とは記載されますが、否定したとしても記事になることを防げるわけではありません 
 


4. 週刊誌側のテクニック 


さらに週刊誌側も自分たちの法的責任を回避するために様々なテクニックを使います

 
例えば今回の記事(2019.7.26発売Friday)をよく見ると
 
  「宮迫さんが5~10万受け取っているのを見ました
 
と掲載されているわけです。
 
厳密には
 ① 宮迫さんが5~10万受け取っているのを見ました
 ② という話を記者に話している人がいた

という内容になっており
 

ストレートに
 
  宮迫さんが5~10万受取っていた
 
とは掲載していないのです。
 

当然ながら
 

・『宮迫さんが5~10万受け取っているのを見ました』という話をしている人がいた

・宮迫さんが5~10万受け取っていた
 
 
という記事内容では全く真実味が異なるのですが、タイトルの付け方や表現方法によっては前者の記載であっても、まるで宮迫さんが5~10万受け取っていることが真実のように感じる人もいます。ただオリコンニュースの取材でも指摘しましたが「氏名不詳者」のこの「証言」がどこまで信用できるかはかなり疑問です
 

なので、読者としても内容を鵜呑みにするのではなく記事の信用性をよくよく吟味することが重要です
 
 

 
5. 出版差止の仮処分

 
再度確認すると週刊誌発売までは
 
 
質問状(3~4日前) FAX

記事案 メモ

編集(3~2日前) 本

輪転機印刷(2日前夕方) 

店頭配送(前日) 

店頭販売(発売日) コンビニ 
 

という流れになりますが、遅くとも輪転機印刷の日の朝すなわち発売2日前の朝一で裁判所に出版禁止の仮処分を申立てる必要があります


 
【申立当日の流れ】

 
申立(9:00)
債権者審尋(午前中~正午)
双方審尋(午後~夕方)

 
あくまで一例ではありますが仮処分手続きはこのようなペースで進みます。週刊誌側はいつ申立てを知るのかというと、裁判所の書記官が早ければ債権者審尋直後に出版社に電話し、仮処分申立てがあったことを伝え知ることとなります。そして、裁判所からの連絡で一旦編集がストップする可能性があるので、早期の申立てに意味があるのです
 
 
 

6. 仮処分の戦略 


このように週刊誌の差止は、とにかく時間がありません。質問状から申立てまでどれだけスピーディーに行うかが勝負です。どのような戦略で進めるかは、質問状の内容から掲載される記事内容や証拠との関係で変わってきますが、重要なことはとにかく早く申立をすることです。申立をしなければ現実的に交渉すら始まらず、週刊誌側の出方すらわかりません。裁判所を通さない電話交渉では居留守を使われたりしてノラリクラリ交わされ、気付けば印刷終了となりかねません。とにかく早く弁護士に相談することです
 

 
7. 週刊誌本体の差止以外にも

 
 
・ネット記事対応(ヤフーニュース等への対応)
・週刊誌を取扱う2次的メディア(テレビワイドショーへの対応)
 
 
出版社以外へのウェブやテレビ番組対応も必要になるます。これについても出版差止と並行して進める必要がありますが、誰に対してどのような方法で交渉や法的措置を進めるかは、経験のある法律事務所でないとスピーディーな対応は困難です。さらには発売されることを覚悟して、その後のメディア戦略を検討していくことも必要です
 
 
今回は週刊誌差止のほんの触り部分になりますが、参考になれば幸いです