「佐和子ですが」
と言われた気がしたので僕は、阿川?と思った。微笑みながら声を発した女性は顔が四角くて肌が浅黒く、なんだか甘ったるい香りが漂っていた。
テーブル席と畳の小上がり席が店内を半分に区切っている。至る所に掲げられた赤、白、紺の三色旗。見慣れない三角形の座布団や飾られた小物類が異国情緒を演出している。タイ語らしき言語にのせた軽やかなポップソングが僕の鼓膜をずっと震わせていた。
其処は久留米市日吉町15-58、六ツ門バス停正面に真新しい外観で聳える「サワッディー」さんだった。
これまでの人生で一度も発音した試しの無いカタカナ表記のメニューが数多く表記されている。なんとかカー、クワップクワップタップタップアッチアッツアッチャアーシゴトヤメチャイターイ、とかそんな響きの品々だ。多分店の人が撮ったと思われる写真付きのメニュー表なので大体のイメージは描ける。ただ、どうも写真の向きが上下逆な気がする。ふにゃふにゃした字体がキュート過ぎて、少し読み辛い。
僕はランチタイムメニュー「トムヤムラーメン」780円を注文した。理由は美味しそうだったからであり、またラーメンの響きに安心感があったからだ。
まず、王族御用達みたいな(知らないけど)重厚な銀のでっかいグラスで水が提供され、胡麻ドレッシングがかかったサラダと、グミ的な食感の丸い粒々とコーンをココナッツミルクで甘く絡めました、といった謎の料理が配膳された。これは所謂リンゴサラダのような立ち位置なのだろうか。
まず、王族御用達みたいな(知らないけど)重厚な銀のでっかいグラスで水が提供され、胡麻ドレッシングがかかったサラダと、グミ的な食感の丸い粒々とコーンをココナッツミルクで甘く絡めました、といった謎の料理が配膳された。これは所謂リンゴサラダのような立ち位置なのだろうか。
そしていよいよトムヤムラーメンがその姿を現した。おお、赤い。二尾の海老は想定の範疇でのぷりっとした歯応えだった。キクラゲみたいなもの、もやしからは異国的な匂いがした。青々しい茎のようなものを噛むと熱帯雨林の味がした。平べったい麺自体には特に味は無い。メンマと思って噛み砕いた食材は、実はざく切りされた生姜であり、僕は頭皮を裏側からべりりと剥がされるような刺激に晒された。で色々書いた挙句、僕が食べた感想はたった一点しかない。
「すっぺー!」
ただそれだけだ。最初から最後までずっと一定に酸っぱかった。辛さもあるのだろうが、酸味が突出していた。
「オープンカー」と女性店員から言われて店を出た。雑居ビルの立ち並ぶ真昼間の文化街はまるで熱帯雨林のように暑かった。そして、僕の腹も熱かった。