五千の蛙、ミーハー気分、満喫する小郡系サンデー | エキセントリックギャラクシーハードボイルドロマンス         

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〜文学、お笑い、オートバイを愛する気高く孤独な三十路独身男の魂の軌跡〜 by久留米の爪切り

その日曜日、僕が西鉄三沢駅から歩いて向かったのは「かえる寺」として名高い如意輪寺 だった。境内、堂内に五千を超えるかえるの石像、置物、おもちゃが並んでおり圧巻の光景に驚愕を禁じ得なかった。若がえる、すぐかえる、幸せかえる、金運かえる、ふりかえる、無事かえる、みちがえる、未来をかえる、笑顔がかえる、初心にかえる、優しさかえる、自分をかえる、家がさかえる、ケロッと治って健康かえる、良くかんがえる、心を入れかえる、良い方向にかえる、世界を平和にかえる、社会を明るくかえる、街に活気がよみがえる、エコ生活に切りかえる、気持ちを新たに切りかえる、円をドルにかえる、論点をすりかえる、延長したい気持ちは山々だけど金が無いのでもうかえる、延長するけど指名をかえる、ぽっちゃり、ぽっちゃり、ヤンキーと選択の余地が無い合コンで自分だけ先にかえる、そんな“かえるパワー”を存分に充填した僕は、健康で楽しく心豊かな人生を送れる気がしたんだ。良かった。


左手首に装着した柿色、百均で買った非防水腕時計「TIME SPARK」は漸く、11:30を表示する。

よし「麺屋我ガ」さんの開店時間だ。実の所、僕は時間を調整していた。「かえる寺」はラーメンまでの暇潰しに過ぎなかった。そのラーメン店は寺の北側、小郡市横隈1586-6に位置する。既に入り口前に人だかりがしている。早速、待ちの状態らしい。ボードに名前を記さねばならない。


「ミツサワ…1名」


僕は偽名を記載した。受付を担当していたすらっとした美貌の女性店員(地元ローカル番組に出演していた。或る若い一般人男性がラーメン屋で働く彼女に一目惚れしてしまい番組を通して告白したい、という企画だった。婦人に冷淡な方では無い僕は美貌家な彼女を一目見たいという疾しい邪な気持ちを持ち合わせていた事を此処で正直に白状せねばなるまい…)に対して、わざわざ三沢駅から歩いてきたことをアピールしたかったのかも知れないし、面白い名前を書こうとして女性店員の関心、興味を惹こうと試みるも、結局いい案が思い浮かばず、単純に滑っただけかも知れない。カウンターはまだ空いているそうで、煙草に火を点ける寸前、直ぐに偽名ミツサワたる僕は店内へ案内される。



コチラの暖簾には、超有名店「一蘭 」の初代「中原貞之、圭子」氏の名前が刻まれていた。小郡系ラーメンの特徴たる辛味タレを開発したレジェンドらしい。


眼光鋭く、長袖シャツを腕まくり、ぴったりした素材の黒いバンダナを巻いた筋骨隆々たる店主が、鮮やかな手捌きで麺の湯切りをしていた。周囲にバイトらしき黒装束の若者が群がり、具材をトッピングしている様子だ。



「らーめん」590円を注文した。



木の台の上に器を載せて、僕はラーメンを食べた。


ラーメンの味がした。紛うかたなきラーメンだった。


スープ表面に透明な膜が張っている。麺が細い。スープは濃厚で飲み口は割とあっさりまろやかだが、辛味タレのお蔭で徐々に味が変わってくる。チャーシューはしっとりした噛み応えだ。


殆ど埋まった客席のあちこちから「替え玉かためーん」の声が飛ぶ。僕もつられそうになるけど、ぐっと堪える。ラーメン590円プラス替え玉100円、合計690円の出費は痛いだろう。スープを飲み干したら、器の底に辛味タレの赤い粒々、ごく少量の骨粉が残存していて、結構辛かった。


食べ終わって、僕は歩いて三沢駅まで行き電車に乗って、アパートメントハウスに帰った。かえる。



我ガラーメン / 三沢駅三国が丘駅
昼総合点★★★☆☆ 3.9