【BLACK JACK】 Dr.キリコの信念 命の重みを知る“死の医師” | 本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

「こんな苦しみに耐え、なぜ生きるのか…」必死で生きる人の悲しい眼と向き合うためには、何をどう学べばいいんだろう。言葉にできない悩みに寄りそうためにも、哲学、文学、死生学、仏教、心理学などを学び、自分自身の死生観を育んでいきます。


アメリカで、安楽死が問題になっています。

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米29歳女性をめぐる「安楽死」大論争:「尊厳をもって生きる」こと
http://www.huffingtonpost.jp/foresight/euthanasia_b_6039600.html



「尊厳をもって生きる」とは、どういうことか。

本当に、死ぬ事が尊厳なのでしょうか。

苦しくとも、なぜ生きるのでしょうか。



■BLACK JACK

・ブラックジャックの医学観は必ずしも正しいのか?

医師は誰よりも命を大切にしなければならない。
そういう意味では、天才的な手術の腕で命を救ってきた
ブラックジャックは正しいのだろう。

しかし不治の病に冒された時、
精神的苦痛を伴いながら延命措置を受けることは、
患者、そして家族にとって幸せなことなのか。

手塚治虫はブラックジャックと対立するライバル医師を登場させることで、
読者に問いかけている。

そんなブラックジャックのライバルの代表的な存在が、ドクター・キリコだ。
ともに医師でありながら、患者から大金を取り、非合法の世界で生きている2人・・・。
だが2人には決定的な違いがある。

「また人を殺すんだな?」
ブラックジャックの問いかけに対し、キリコはこう答えた。
「おいおい、道端で人聞き悪い言葉使うなよ。
 おれは人助けをやっているんだ。
 死にたい、死にたい、という人間を法律に触れずに、
 ラクにあの世へ送ってやるんだ。」


医の本道から離れ、
苦しむ人を救う道=死を与える、といった方法論で、
己の医師としてのアイデンティティを確立しているのがキリコである。



・キリコの人生観を変えた軍医時代の経験

キリコは元はBJ同様、患者に生を与えることを考えていた。
しかも戦場で自らの危険も顧みずに、
兵隊の命を救うために軍医として働いていたほど。
しかし皮肉にも、この軍医としての経験が、
BJとは袂を分ちあう“死を与える医師”へと変貌させてしまったのだ。

「おれはな、戦場で手足をもがれ、胸や腹をつぶされて、
 それでもまだ死ねないでいる悲惨なけが人をゴマンと見たんだ。
 おれが毒を注射してやると、心から喜んで死んでいったもんだ」

自ら死を求めてくる患者たちを目の当たりにして、
苦しみから解放されたことで感謝して死んでいった患者たちの姿が、
キリコの医者としての信念を
「助からない病人を救う道は、楽に死なせてやること」
というように、180度変えさせてしまった。

延命措置を施すことで患者の苦痛を長引かせるよりも、
楽に息を引き取らせてやる。
これこそが、彼の信じる“負”の医学の道なのである。

だが、これだけは言っておきたい。
キリコは断じて命を軽んじているわけではない
キリコはBJに対し、ふとこんな本音を漏らしたことがある。

おれも医者のはしくれだ。
 いのちが助かるにこしたことは無いさ・・・


キリコは患者を助けたいのだ。
安楽死という手段は、
死よりも辛い苦しみが患者を襲ったときに
患者を救うための“治療”なのだ。
そういう命の重みを知る“死を与える医師”だからこそ、
生を与える正義の医師、ブラックジャックに
「無理に延命措置を施すことが、本当に正義なのか」
という医学の永遠の問題を、正面から突きつけられたのだろう。


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幸せを願って死を選ぶ人もいる。

死こそ安楽だと信じて。



幸せを願って生きる道を選ぶ人もいる。

生きていればこその幸せだと信じて。



尊厳な死か。

生命の尊厳か。



誰もが幸せを願っています。

尊厳とは、幸せになるための命だと信じる事。

その「幸せ」のカタチの違いが、意見の相違を生み出します。



でも、何か釈然としないものが残ります。

本当に死が安楽ならば、みんな、苦しくなったら早く・・・。

でも、それでいいはずがない。


本当に生が尊厳ならば、

もっと「生きててよかった」「生まれてよかった」と喜べるはず。


何かが足りない。。。



「死ねばどうなるのか」という問題と、

「人はなぜ生きるのか」という問題は、

「死生観の裏と表」の関係。
本質的には一つの問題のようです。


生きている方が幸せだから、死より生を望むはず。

生きてこそ幸せになれるから、生命は尊厳だと言われているはず。


その「生命の尊厳」とは何かがハッキリしない限り、

安楽死は止められないし、

自殺を止める明確な根拠も示せない。


「生きていてよかった」と患者さんが喜べてこそ、

医療も本当の意味で生かされるはずです。