【なぜ生きる】 不安を何かでごまかさなくては生きていけないが、ごまかしは続かない | 本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

本好き精神科医の死生学日記 ~ 言葉の力と生きる意味

「こんな苦しみに耐え、なぜ生きるのか…」必死で生きる人の悲しい眼と向き合うためには、何をどう学べばいいんだろう。言葉にできない悩みに寄りそうためにも、哲学、文学、死生学、仏教、心理学などを学び、自分自身の死生観を育んでいきます。

ドストエフスキーと共に有名な、
ロシアの文豪、トルストイ。

トルストイの「懺悔」は、
ロシアでも日本でも、発禁本になったそうです。
あまりに生々しい人生の告白に、
絶望して自殺をしてしまう若者が後を絶たなかったとか・・・。




■なぜ生きる

・「死んだらどうなるか」
 何かでごまかさなくては生きていけない不安だ。
 しかし、ごまかしはつづかない



三日後の大事な試験が、学生の今の心を暗くする。
五日後に大手術をひかえた患者に、
「今日だけでも楽しくやろうじゃないか」といってもムリだろう。

未来が暗いと現在が暗くなる
墜落を知った飛行機の乗客を考えれば、よくわかろう。
どんな食事もおいしくないし、コメディ映画もおもしろくなくなる。
快適な旅どころではない。
不安におびえ、狼狽し、泣き叫ぶ者も出てくるだろう。
乗客の苦悩の元はこの場合、やがておきる墜落なのだが、
墜死だけが恐怖なのではない。
悲劇に近づくフライトそのものが、地獄なのである。

未来が暗いと、現在が暗くなる。
現在が暗いのは、未来が暗いからである。
死後の不安現在の不安は、切り離せないものであることがわかる。
後生暗いままで明るい現在を築こうとしても、できる道理がないのである。

五十歳近くになったトルストイが、気づいたのもこのことだった。
今日や明日にも死がやって来るかもしれないのにどうして、
安楽に生きられるのか。
それに驚いた彼は、仕事も手につかなくなっている。

 こんなことがよくも当初において理解できずにいられたものだ、
 と、ただそれに呆れるばかりだった。
 こんなことはいずれも、とうの昔から、
 誰にでも分かりきった話ではないか
 きょうあすにも病気か死が愛する人たちや私の上に訪れれば
 (すでにいままでもあったことだが)
 死臭と蛆虫のほか何ひとつ残らなくなってしまうのだ。
 私の仕事などは、たとえどんなものであろうと
 すべて早晩わすれさられてしまうだろうし、
 私もなくなってしまうのだ。
 とすれば、なにをあくせくすることがあろう? 
 よくも人間はこれが目に入らずに生きられるものだ
 ──これこそまさに驚くべきことではないか!

 生に酔いしれている間だけは生きてもいけよう、
 が、さめてみれば、これらの一切がごまかしであり、
 それも愚かしいごまかしであることに
 気づかぬわけにはいかないはずだ!

  (トルストイ著、中村白葉・中村融訳 『懺悔』)


愛する家族もいつか、この暗い死にぶつかるのだ。
そう思うと、生き甲斐であった家族や芸術の蜜も、もう甘くはなかった。
作家活動は順調だったが、
確実な未来を凝視した彼の世界は、
無数の破片にひびわれ一切が光を失った

「われわれは断崖(危険)が見えないように、
 何か目かくしをして平気でそのなかへ飛びこむ」
とパスカルはあやぶむ。

思えば私たちは、真っ暗がりの中を、突っ走っているようなもの。
「死んだらどうなるか」未知の世界に入ってゆく底知れぬ不安を、
何かでごまかさなくては生きてはゆけない
文明文化の進歩といっても、
後生暗い心が晴れない限り、
このごまかし方の変化に過ぎない
といえよう。

しかし、ごまかしは続かないし、
なんら問題の解決にはならない
何を手に入れても束の間で、心からの安心も満足もない、
火宅のような人生にならざるをえないのである。




なぜ生きる/1万年堂出版

¥1,575
Amazon.co.jp


トルストイは、何に驚いたのか?

確実な未来か?

それを誤魔化している自分か?



死という未来は、やはり怖い。

病気になったら病院に行くのも、

原発問題に必死になるのも、

政治や経済の動向に関心が向くのも、

根っこには、「死」の問題がある。

「死んだら死んだ時」とは言えない。

そんな楽観的には思えない未来が待っているとおもうと、

確かに、今の心が暗くなる。不安になる。

でも、どうしようもないから、

やっぱり「死んだら死んだときだろう」と開き直りたくもなる。

でも、それはやはり誤魔化しだ。

なにも解決していないし、向き合ってもいない。


現実と向き合った先には真っ暗な絶望があるのかもしれないけど、

絶望するために生れてきたわけではないはず。

そこをもう一歩進めば、きっと光は見えてくるはず。


ドラえもんに、こんな名言がある。

「君は勘違いしてるんだ。
 道を選ぶということは、必ずしも
 歩きやすい安全な道を選ぶって事じゃないんだぞ」



今さえ、楽して安全、簡単な道を選んでも、

いつかそのしっぺ返しを食らうときが来る。

悔いのない道を選びたいと思っています。



【なぜ生きる】
「老後のことは老後になってみにゃわからん、つまらんこと」とは誰も言わないのに・・・


【国民の道徳】
 「死ねば精神もなくなるから考えても致し方ない」だなんてとても思えない


【病院で死ぬということ 山崎章郎】
 真実を伝える努力を放棄することは、相手の人生を侮辱することに


【パスカル パンセ】
 「未来に光がない」から、いま「何の幸福も存在しない」ということになる