「なぜ世界は不況に陥ったのか」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

★★★★☆

対談形式で読みやすい。ブログとは違って腰の低い感じの池田信夫さんが新鮮だった。


内容的には、アメリカの1985年頃からの約20年がグレートモデレーション(大平穏期)と呼ばれ、長期の平穏期によってリスクに対する感度が低下し、金融危機の背景になった、という見方が自分にとっては新鮮だった。


さて。とはいえ、金融危機の震源地であるアメリカより日本のほうが株価の下落率が大きかったりする。これは産業構造的な問題であるとよく指摘されているが、本書を参考に自分なりに整理してみる。

アメリカはIT産業が強い。80年代に高まった産業界の危機感が新興企業の勃興を促し、マイクロソフトやインテルが誕生した。当時アメリカのアナリストでさえIBMがナンバー1であり続けると信じていたが、IBMにとってはおもちゃのような信頼性の低いPC・インターネット産業がその後のアメリカ経済の原動力の一つになった。衰退産業から成長産業への資金シフトを推進した投資銀行の役割も大きかった。

一方、日本経済は輸出型産業へ依存し続けており、サービス産業の生産性は国際的に見て30%も非効率のままである(つまり、ビジネスチャンス、投資機会が残されたまま)。日本のアナリストはトヨタが今後10年20年ナンバー1であると信じているだろう。しかし、おもちゃのような自動車や家電を作っている中国やインドが、高級志向の「持続的イノベーション」に依存し続けている日本を「革新的イノベーション」で凌駕しないとも限らない。と、これは飛躍しすぎだが、コモディティ化した価格勝負の製品では太刀打ちできなくなる可能性は高い。

池田信夫さんがよく指摘しているように、日本に求められる構造改革は、投資機会の拡大、起業の促進、リスクテイクできる・チャレンジできる環境の整備、ということになるであろう。


ところで、麻生政権は景気対策に大盤振る舞いだ。しかし現代の経済学では、財政政策はむしろ有害だというのがコンセンサス。かといって、政府としては、この大不況の中で何もしないわけにもいかない。支持率の低い政権ほど、一般市民にわかりやすい政策をとるのだろう。おそらく、内閣支持率と財政赤字増加額には相関性があるのではないかと思う。(景気対策が必要なくらい)景気が悪い時期は内閣支持率が低くなる、ということも言えそうだが。

(参照)内閣支持率



なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学/池尾 和人

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