ムダとペテンの橋下出直し大阪市長選「都構想はすでに破綻」「大阪都偽装し市民向け行政削る市解体策」 | すくらむ

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 ▼「連合通信・隔日版」(2014年3月15日付No.8823)からの転載です。(※この転載は連合通信社からの許可をいただいています。★連合通信の購読申し込みはこちらへ

 〈大阪・出直し選挙を問う〉
  「都構想はすでに破綻している」
    神戸大学名誉教授 二宮厚美さん


 大阪市長選挙が3月9日に告示(23日投開票)され、橋下徹前市長ら4人が立候補を届け出た。橋下・維新陣営の狙いは行き詰まっている「大阪都構想」の局面打開だが、そこまでこだわる都構想と何か。その狙いについて神戸大学の二宮厚美名誉教授に話を聞いた。

 ●大阪都を偽装した大阪市解体策


 大阪都構想の最大の狙いは、文字どおり大阪市の解体です。世間では、都構想によって「大阪都」が誕生するかのように言われていますが、法律上、名前の上でも「大阪都」は実現できません。大阪府は府のまま残ります。大阪市が持っている財源や権限、施設の一部が大阪府に移るだけで、住民に身近な行政は5つの特別区に分解される、ということです。「大阪都を偽装した大阪市解体策だ」といわれても仕方ありません。

 都構想の発端は、橋下氏が府知事時代に、大阪市を自分の支配下に置こうとしたことにあります。橋下氏は、「大阪府・市の司令官を一人にする」と主張し、府知事から大阪市長に鞍替えしました。この時から大阪市略奪の作戦が始まったのです。このことに気付いた堺市民は、昨年の9月の堺市長選挙を通じて維新の会による解体攻撃から堺を守ることに成功しました。

 ●二重行政解消はまやかし


 大阪都構想の最大のキャッチフレーズは「二重行政の解消」でした。しかし、それ自体は現在の大阪府と大阪市の間でも進められており、大阪都でなければならない理由は全くありません。橋下・維新グループがスローガンにしているのは、ほかに理由がなくなったからです。当初は、大阪都を実現し、「世界の都市間競争に勝てる大阪にする」と主張していましたが、大阪市を解体してもこれまで以上に高い競争力を大阪が持つようになる見通しがなくなってきた、そこで「二重行政の解消」だけが都構想の口実として残ることになったわけです。

 しかし「二重行政の解消」とは、市民からみれば、公共サービスが大きく削られることを意味します。まず公共交通機関や水道事業などの広域的公共サービスは大阪府に吸い上げられ、身近な公共サービスは「ムダ」の名の下で削られます。第二は、現在の市内24区の行政は新たな5つの特別区に統廃合されるため、すでに廃止が進められている市立住吉病院だけでなく、その他の病院や研究所の統廃合が進められます。区民センターや区民プール、生涯学習センターなども同じで、要するに、24区に分散して運営されてきた施設や行政サービスは確実に削減されます。

 ●市民への悪影響、不可避

 都構想は公共サービスを民営化によって減らし、なるべく安上がり行政にしようとするものです。地下鉄・市バス、水道事業、幼稚園・保育園の民営化、最近では小中学校の公設民営化まで打ち出されているほどですから、住民生活に深刻な影響が及ぶことは避けられません。そもそも橋下氏は大阪市長として「バブル絶頂期につくられた贅沢三昧の大阪市を標準レベルに落とさせたい」と述べていました(12年4月)。これまでの大阪市を「贅沢三昧」とののしっていたのですから、市民向け行政を削るというのは「確信犯」だと言わなければなりません。

 ●「橋下主義」に反感拡大へ


 大阪都構想に市議会が反対しているのは、これまでの橋下市政と都構想に疑問を投げかけていることが原因です。その理由の第一は、橋下市政および大阪都そのものに重大な問題があるということです。教育改革や日の丸・君が代条例、職員の思想調査や公務員バッシング、「慰安婦容認」発言など都構想を含む橋下流の政治全体に反対する立場からの意見です。

 第二は、都構想そのものにすでにボロが出ていることです。府市統合による財政削減効果は、全くあてにならないことが明らかになっています。市民生活の影響についても、多くの市民から批判の声が上がっており、市議会でも無視できなくなっています。地下鉄や幼稚園の民営化に一部歯止めがかかっているのは、そのためです。最近の世論調査では、大阪都構想反対派が賛成派を上回るようになっています。

 ●議会批判はでっちあげ


 第三は、今回の出直し市長選に至るまでの手続き上の問題です。橋下氏は、大阪都構想案づくりをする法定協議会が、「構想の設計図を書かせてくれなかった」と言っていますが、これは全く逆です。法定協の審議・検討を蹴ったのは、実は維新側。法定協側は「慎重に審議する必要がある」と主張しましたが、審議が長引くと自分の思い通り進まないからという理由で、法定協を勝手に閉鎖してしまったのです。この一方的なやり方に対して市議会は反対しているのです。市議会に問題があるかのように主張する橋下氏側の言い分こそ「でっちあげ」に過ぎません。

 ●ムダとペテンの選挙


 今回の出直し選挙には全く意味はありません。法定協で大阪都の設計図づくりを放棄したのは、あくまで橋下氏側。市長選で仮に橋下氏が再選されたとしても、事態は1月末となんら変わりません。「壮大なムダ」と言うほかなく、市長選で再勝利し、「都構想を前に進めたい」という理由はペテンです。
 橋下氏は、再選の暁には府議会から選出された法定協のメンバーを維新のメンバーに替えるとし、そのための市長選だと言っていますが、市長が府議会に介入するのはルール違反。昨年9月の堺市長選時には、都構想について「ゼロパーセントの支持率になってもやる」と豪語したにもかかわらず、今さら選挙で民意を問うなどというのは市民を手玉にとる態度にほかなりません。「橋下わがまま選挙」と言いたい。

 ●改憲の動きに歯止めも


 仮に大阪都構想が実現したとしても、同じことが横浜や名古屋、神戸といった他の地域で起こることはありません。これらの政令指定都市はほとんど、市の解体ではなく「特別市」のような形で権限や財源を強化しようとしているからです。むしろ都構想のようなものが残ると、全国的に大阪及び「橋下主義」に反感を持つ地域が増えるでしょう。都構想は全国的にみても異例・異常なのです。

 もし橋下氏が市長選で思うような成果を挙げることができなかった場合、全国的に好影響が広がります。突出した橋下支持という「異常事態」から大阪もやっと脱することになったという評価ができるからです。これは大阪にとって歓迎すべきことです。

 さらに大阪維新、日本維新の会の支持率が一気に凋落し、維新グループの分解、維新を中心にした政界再編の頓挫、安倍政権の右翼的基盤の動揺などを加速させる可能性があります。橋下・維新の会グループは安倍政権の改憲路線を牽引する役割を果たしてきました。改憲の動きを阻止する意味では、市長選の結果や大阪都構想の行方は全国的な影響力を持つことは間違いありません。