「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」とする城繁幸氏のウソ | すくらむ

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 「解雇規制緩和は若者も非正規労働者も救わない-「解雇自由」のデンマークより首切り自由な日本」というエントリー に対して、城繁幸氏が「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」と題したブログ を書いています。


 城氏はブログで、「基本的に一から十まで鼎談部は全部間違い」「トータルの調査結果のみを引用するのは、確信犯的な詐欺だ。」「都合のいいデータだけつまみ食いして、弱者を出口の無い迷路に追い立てつつ、自らは既得権の上にあぐらをかくだけ。これが、この国の“左翼”の現実である。」「リベラルの皆さんは、本気で若い世代に好かれたいと思うんだったら、まず「嘘をつかない」という人として当たり前のことから始めたらいいんじゃないかね。」と書いています。


 さて、「都合のいいデータだけつまみ食い」をしているのは、いったいどちらなのか? 「確信犯的な詐欺」は、いったいどちらなのか? ウソをついているのは、いったいどちらなのか? 実際に、OECDの生データを見てみましょう。


 まずは、OECDの正規労働者の解雇規制ランキングのグラフです。
http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm


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 上のグラフのように、日本の正規労働者の解雇規制は、弱い方から10番目です。非正規労働者の解雇規制ランキングのグラフは以下のように、日本は弱い方から9番目です。

http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm

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 正規労働者の解雇規制を数字で見ると以下のようになります。Individual dismissals は、正規労働者の個々の解雇規制で、日本は34カ国中、弱い方から9番目、強い方から26番目です。Collective dismissals は、正規労働者の集団解雇規制で、日本は34カ国中、弱い方から20番目、強い方から13番目です。

http://www.oecd.org/els/emp/EPL-Figure2013.xlsx



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 ここで、城氏はブログで次のように書いています。


 この「正規雇用の解雇」はさらに細かなデータをミックスしたもので、それらは以下の3つだ。
 1.手続きの煩雑さ
 2.普通解雇における告知期間と補償額
 3.解雇の難しさ
 3番において日本は30カ国中第一位


 城氏は上記のように書いているのですが、実際のOECDによる正規労働者の解雇規制の詳細を見ると、下記の13項目に渡っていて、それぞれの日本の順位は34カ国の中で次のようになっています。
http://www.oecd.org/els/emp/EPL-Figure2013.xlsx


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(※以下は上の表から日本の順位を書いたものです)


▼REG1 Notification procedures 解雇の通知手順
 日本は弱い方から2番目


▼REG2 Delay involved before notice can start 解雇予告の前に関係する遅延が起動することができる
 日本は弱い方から1番目


▼REG3A Length of the notice period at 9 months tenure 9カ月の任期での解雇通知期間の長さ
 日本は弱い方から15番目


▼REG3B Length of the notice period at 4 years tenure 4年間の任期での解雇通知期間の長さ
 日本は弱い方から8番目


▼REG3C Length of the notice period at 20 years tenure 20年の在職期間での解雇通知期間の長さ
 日本は弱い方から5番目


▼REG4A Severance pay at 9 months tenure 9カ月の任期の退職金
 日本は弱い方から1番目


▼REG4B Severance pay at 4 years tenure 4年間の任期の退職金
 日本は弱い方から1番目


▼REG4C Severance pay at 20 years tenure 20年の在職期間での退職金
 日本は弱い方から1番目


▼REG5 Definition of justified or unfair dismissal 解雇の正当化や不当解雇の定義
 日本は弱い方から1番目


▼REG6 Length of trial period 試用期間の長さ
 日本は弱い方から12番目


▼REG7 Compensation following unfair dismissal 不当解雇の補償
 日本は弱い方から4番目


▼REG8 Possibility of reinstatement following unfair dismissal 不当解雇後の復職の可能性
 日本は弱い方から13番目


▼REG9 Maximum time to make a claim of unfair dismissal 不当解雇の主張をする最大時間
 日本は強い方から1番目


 以上が、「都合のいいデータだけつまみ食い」したものではないOECDの生データのすべてです。城氏は正規労働者の「解雇の難しさ」が問題なのだと書いているわけですが、その「解雇の難しさ」に直接かかわるのは上記の「REG5」から「REG9」の5項目にあたりますが、最後の「REG9」の1項目だけは日本は1番強くなっていますが、他の4項目は34カ国中で弱い方から数えた方が早いのです。


 結論は、トータルのデータを見ても、詳細にすべてのデータを見ても、「日本の正社員をクビにするのは世界でも容易な方」であるということです。


 城氏には、これらのOECDの生データのいったいどこから「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」と言えるのかをぜひ説明いただきたいと思います。


 ちなみに「左翼」でもなんでもない濱口桂一郎さん(労働政策研究・研修機構労使関係部門統括研究員)もブログで次のように指摘しています。


 「日本の正社員の解雇規制は決して一番厳しくはない」「OECDが日本の正社員が一番厳しいと言っているというのはウソです。」
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/oecd-d7a0.html


(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


※追記

 ↓2008年のOECDのデータでも同様の結果です。(濱口桂一郎さんも2008年のOECDのデータでの指摘です)

http://www.oecd.org/els/emp/Updated%20time%20series.xls