ベーシックインカム・40歳定年・解雇自由・最賃カットはセーフティーネット破り多くを路頭に迷わせる | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 今週、和光大学教授の竹信三恵子さんにインタビューする機会があって、総選挙にかかわってのお話も一部ありましたので、総選挙前に紹介しないと意味がないということで、そこの部分だけですが以下紹介します。(※「――」部分は私の問いです。by文責ノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


 ――いま日本維新の会などは、政策(維新八策各論)の中にベーシックインカムを打ち出すようになっています。一部にはベーシックインカムを導入すれば、今の公務員はもうほとんどいらなくなるので、財政にも寄与して、非正規の問題や貧困問題も解決できるかのような論調も強まっています。


 ベーシックインカムの発想そのものは、すべての人に対して生きていけるお金を出して生存権保障を実現しようということで、考え方自体はすばらしいと思います。ベーシックインカムの考え方は、雇用の世界に入らない限り大変な目にあうという今の社会へのアンチテーゼという意味では、とても意味がある指摘だと思います。


 しかし、ベーシックインカムを現実のものにしたときに、実際の日本社会がどうなっていくかを具体的に考えてみた場合に問題点が多いということです。


 たとえば、生活保護ではミーンズテスト(資力調査)という振り分けがないからいいと言うけれど、ケースワーカーがおこなっているその人たちへのいろいろな指導や援助などを無くしてしまって、お金だけあげて、そのお金をどうやって使ってどうやっていくかという指導を誰がやるのか?ということにもなります。


 確かにケースワーカーが劣化しているという問題もありますが、そこはきちんと建て直すことが必要であって、ケースワーカーを無くしてお金だけあげればいいということにはなりません。


 それは他のところでもそうで、バウチャー出せばいいとか言うけれど、バウチャーをいくら出しても、もともとの公務サービスがなければ、バウチャーを使えないでしょということです。


 日本はもともと公務サービスが薄くて、そこは“女性が家でやればいい”ということでやってきましたから、日本は福祉の面ではもともと「小さな政府」なのです。この福祉の「小さな政府」で、ほとんどを家庭で女性にやらせておいて、これに加えて雇用の場では女性を低賃金で使ってきたわけです。この問題を放置したままでのベーシックインカムの導入という話にはならないわけです。


 それに今のように財源がないと言われているときに、ベーシックインカムだけでやっていけとなると、みんなぎりぎりに絞られて涙金もらって路頭に迷うだけです。こうした時期にベーシックインカムを主張するということは、要するに、公務サービスを減らしたいということです。


 ですから、本来、ベーシックインカムが持っている、いい意味でのアンチテーゼとしての問題提起というのが、こうした状況の中ではいい方向には働かずに、公務サービスだけ切り捨てられて、みんなが路頭に迷うことになってしまうということを読めなくてどうする、というのが私の意見です。


 ――政府の国家戦略会議フロンティア分科会報告で、40歳定年制や有期雇用を基本にするようなことが出され、日本維新の会の政権公約には「解雇規制の緩和」や最低賃金の引き下げなどが出されています。


 40歳定年制というのは定年の意味が全然わかっていないと思います。定年というのはそこで雇用を一斉に打ち切るということですから、打ち切られても他の仕事を探せる人もいますけども探せない人もいますよね。その人たちをどうするかということに何も答えていません。


 みんなも60歳とか65歳までいたくないでしょうから40歳定年制にすれば、自分で技能を蓄積したりして、次の人生を選び直せるようになるでしょうと言うのですが、今の日本の企業ではそんなことはできません。長時間労働でものすごく会社から高い拘束を受けているので、そんな技能を蓄積したり勉強したりなどできないのです。40歳定年制を主張するのなら、まず先に過労死防止基本法をきちんとつくるべきです。


 解雇規制の緩和も同じです。解雇規制を緩和して、解雇されても自由に他のところで働ける人ってどれだけいますか? そんなことしたら、結局、多くの人の行き先がなくなりますから、生活保護のセーフティーネットが壊れてしまいます。


 そもそもすでに4割近くが非正規雇用にされてしまい、すでに雇用がボロボロになってしまっていて、日本のセーフティーネットは破れつつあります。それなのに、これ以上の解雇規制緩和をまだ言うかという感じですね。


 ――日本維新の会のブレーンになっている竹中平蔵氏は解雇自由のオランダモデルにすれば労働市場が柔軟になると言っています。


 オランダは同一労働同一賃金でパートの均等待遇が非常にしっかりした社会です。正社員と同じ権利を確保しつつパートで働いているので流動化しやすいのです。パートから正社員へ移ることも賃金は同じで時間だけ伸ばしてあげればいいだけなのです。だから、雇用者の負担もあまりないので、行き来ができ、しかも、解雇して行き来するのではなくて、そのまま行き来できるので、負担がかからない。同一労働同一賃金でパートの均等待遇をきちんとつくって行き来できるように設計しているのです。日本のいちばん大きな問題は、同一労働同一賃金、パートの均等待遇がないことなのです。日本の労働市場が流動化しないのは、解雇規制の問題などではなく、同一労働同一賃金、均等待遇がきちんとできていないからです。


 私はオランダにもデンマークにも行って調べてきました。オランダはパートの均等待遇がきちんとあって、デンマークでは日本の整理解雇の4要件に値するものが満たされていて、それだったらあまり理由も言わないで解雇してもいいとなっていますが、デンマークには労働組合の組織率が80数パーセントもありますから、法律で解雇規制を緩和しても、きちんと労働組合による規制があるのです。組織率が80数パーセントの労働組合がきちんと規制しているのです。


 労働組合が会社が出してくる解雇の理由を全部労働者と一緒に妥当性があるかどうかを点検するのです。ですから言ってみれば法律で規制することを、労働組合の規制で行っているので、法的な解雇規制がないというわけです。


 それからデンマークは正社員が原則ですから、労働市場を流動化させるために、食べられない産業から食べられる産業へと移すための職業訓練をきちんとやっているのです。大手の企業で体力がある場合は、労使交渉をして、大手企業からその職業訓練費を企業の方から労働組合が引いてくるのです。それでそこの企業の解雇の期限が来るまでの間にちゃんと会社が時間を与えて、そこで新しい資格を取らせるんです。


 私が取材したところは現業の人が多くて、やはり身体を使う仕事の方が転職しやすいということで、100人ぐらい解雇になったうちのかなりの部分が、大型免許の資格を社内でとって、会社の中の構内でトラックの運転の練習をしていて、解雇の期限が来たときには、ほぼ次の仕事が決まっていました。馬の調教師をやりたいという人が1人いて、それもきちんと訓練のお金を出してくれて、馬の調教師の資格を取っていました。こういう労働組合と企業とがきちんと職業訓練の手当てをして労働者を次に移れるようにしていくのが大手の企業の場合で、中小の企業の場合は、ハローワークに相当する職業安定機関が公務サービスとしてきちんと職業訓練を行っていきます。ここでも労働組合もガードをするので、公務の職業安定機関と労働組合が1人の労働者にきちんと関わり合って次の仕事に就けるまでずっと付き添っていくわけです。私が取材した中には、どうやって会社の面接を受けさせるとかいうことなどからいろいろなサポートを公務の職業安定機関と労働組合が行って3カ月かけてやっと次の仕事が決まったという人もいました。その方は、やっぱり公務の職業安定機関がすごく助けになったと言っていました。


 オランダモデルを引いて日本の解雇自由をまず主張して労働市場の流動化だと言う人というのは、ただ労働者の首を切りたいという目的だけでしょう。オランダやデンマークの目的は食べられない産業から食べられる産業へと労働者をきちんと移すための労働市場の流動化なのです。そういう意味では目的の問題というか、志の問題になるわけです。


 ――スウェーデンなどには最低賃金がないから、日本にも無くてもいいというような論調もあります。


 スウェーデンには同一労働同一賃金があるからです。最低賃金はありませんが、同一労働同一賃金がすごくしっかりしているので、同じ仕事だったら同じ賃金ですから最低賃金で歯止めをかける必要はないわけです。


 ところが、日本には同一労働同一賃金がなく、企業の好きなように決められてしまう社会だから、最低賃金しか歯止めがないのです。最低賃金が最後のセーフティーネットになっているので、最低賃金をなくしてしまったら、とめどなく落ちるのです。


 グローバル化で賃金がみんな下がっているから日本もしょうがないとよく言われます。でも主要先進国で90年代後半から賃金が下がり続けているのは日本だけなのです。なぜ日本だけ下がるかと言うと、非正規雇用の入り口規制が物凄く弱く、しかも、同一労働同一賃金がないからです。どんどん賃金は下がってしまってデフレになってしまう。こんなに雇用がめちゃくちゃになっているのに、その上に、最低賃金がなくなってもいいとか、解雇規制を緩和してもいいとかいう意見が大手を振って、それも選挙公約にあがってくる。ということは、ある種の人たちの間ではもう雇用の役割というものについての認識が壊滅状態になっているとしか思えないのですが、しかし、雇用がきちんとしていないとそもそも税金を払えないような人が多くなってしまうなどデフレも脱出できませんし、社会保障も持ちませんし、日本社会そのものが壊滅的な状況に陥ってしまうのです。