子どもの命を危険にさらす猪瀬直樹都副知事vs子どもにやさしい東京をつくる宇都宮けんじさん | すくらむ

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 11月22日のフジテレビ「とくダネ!」の「都知事選スペシャル」の中で、保育所の待機児童問題について議論になり、宇都宮けんじさん(前日弁連会長、反貧困ネットワーク代表) は予算を拡充して保育所を増やす必要があると主張したのに対し、猪瀬直樹都副知事は、保育士1人あたり0歳児なら3人という今の最低基準を規制緩和して、4人、5人と0歳児を保育所に詰め込めば解決するかのような発言をしました。


 この猪瀬氏の発言に対して、ジャーナリストの猪熊弘子さん(@hirokoinokuma)は次のようにツイートしています。


 ギャン泣きしてる0歳児3人を、1人の保育士さんが、おんぶ1人+抱っこ2人して緊急時に避難できると思う? 「0歳児5人に保育士1人でなんとかなる」っていう猪瀬なら、きっと、ギャン泣き0歳児抱っこ3人+おんぶ2人で都庁の最上階から1階まで階段で避難することができるんだろうね(怒)
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271493140328873985


 (前略)現場を知らなさすぎます。震災の被災地の保育所に行って、話を聞いていれば、絶対にそんなコメントは出て来ないはず!
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271492007438983168


 震災その他の危機的状況の中、ギャン泣きしてる子どもを、1人の保育士さんだけで何人の子どもを無事に避難させられるか。それこそが保育所の人数の「最低基準」ですよ。今の最低基準では、保育士さん1人で、0歳児なら3人、1~2歳児だと6人、3歳児20人、4~5歳児30人。これで命を守れる?
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271591056724856833


 認可保育所の最低基準は「0歳の子ども3人につき保育士1人」っていうように決まっていて、それは本当に最低の最低の、命を守るためのレベルなんだけど、東京などの待機児が多い地域では、自治体ごとに基準をゆるめてもいい、っていうことにされちゃっています。「知らなかった」じゃすまされない!
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271488437004152832


 だから、子育てしている人は特に、政治に最も近いところにいるの。選挙しない、政治なんか遠い世界のもの…って言ってるうちに、自分の子どもの命が守られないような法律が通っちゃうことだってあるんだから。ちゃんとそこんとこ、見ておかなきゃ。
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271486689803894784


 私は支持政党もないし、普段、政治活動とは全然縁のない暮らしをしているけれど、保育園に関わって取材をするようになって16年以上経った今だから言えるのは、「子育ては政治にいちばん近い」っていうこと。保育園のお部屋の面積だって先生の配置だって、すべて法律で決められる。つまりは政治。
https://twitter.com/hirokoinokuma/status/271485993092272128


 ――以上がジャーナリストの猪熊弘子さんのツイートです。「子育ては政治にいちばん近い」という猪熊弘子さんの指摘は、以下の猪瀬氏のオフィシャルサイトを見ていくと、とてもよく分かります。


▼2009年9月10日の猪瀬氏のオフィシャルサイトから
http://www.inose.gr.jp/news/post857/


 9月7日月曜日、地方分権改革推進委員会は全国一律の法令で国が地方自治体の仕事内容や方法を縛る「義務付け・枠付け」のうち、保育所の設置基準など全体の7割超に当たる881項目を廃止・緩和する第3次勧告の原案をまとめました。


 国が定める義務付け・枠付けには具体的にどのような項目があるのでしょうか。(中略)義務付け・枠付けの中には、保育所の設置基準についてハイハイする「ほふく室」は乳児1人あたり3.3平方メートル以上などの基準がありますが、地価の高い都市ではこの基準が高いハードルとなり、保育所不足の一員となっているのです。分権委員会は月内に勧告案を決定し、新首相へ提出する予定です。


▼2009年10月8日の猪瀬氏のオフィシャルサイトから
http://www.inose.gr.jp/news/post849/


 本日、10月8日木曜日14時半、地方分権改革推進委員会は国が自治体の仕事を細かく縛る「義務付け・枠付け」の廃止・縮小を求める第3次勧告を鳩山首相に提出しました。


 すでに昨年12月の2次勧告で、4076項目の「義務付け・枠付け」を見直すように指摘していましたが、今回はとくに問題のある892項目について、規制の廃止や地域の実情にあった基準づくりを進められるよう求めています。


 「義務付け・枠付け」によって具体的にどのような規制が生じているのでしょうか?


 たとえば地方自治体が保育所の施設をつくる際には、赤ちゃんがハイハイするための部屋(ほふく室)の面積は1人あたり3.3平方メートル以上と定められています。


 なぜ3.3平方メートルか。ちょうど「1坪」だから、ということにすぎません。戦後、すぐに決めたので、単位が旧式だったのをメートル法で換算しただけなのです。科学的な根拠があるわけではないのに、この基準を満たしていなければ、国は「保育所」として認めず、補助金を出しません。


 このため、地価が高い東京のような都心では、用地の確保ができず保育所不足の大きな原因のひとつになっているのです。


 保育所の待機児童は全国に2万5000人、東京都だけで8000人にのぼります。東京は独自に基準を緩和した「認証保育所制度」を創設しています。国の補助金が出ないので、東京都が補助金をだしているのです。そもそも「義務付け・枠付け」がなければ、もっと自由に保育所をつくれるはずです。


 ――以上が猪瀬氏のオフィシャルサイトからですが、「とくに問題のある」規制として「科学的な根拠があるわけではない」保育所の面積基準を槍玉にあげ引き下げることで待機児童問題が解決できると猪瀬氏が得意気であることが分かります。フジテレビ「とくダネ!」での保育所に子どもを詰め込めば解決するかのような発言が出たのは、猪瀬氏自らが昔からずっと取り組んできたことで当然のことだったわけです。


 こうした猪瀬氏や橋下徹大阪市長らの「尽力」によって、東京都と大阪市は今年の3月議会で、保育所の面積基準を引き下げる条例を制定しました。東京都は、0~1歳児1人あたり3.3平方メートル以上という基準を、年度途中から2.5平方メートルに引き下げることができるようにし、大阪市は、「0歳児5平方メートル、1歳児3.3平方メートル」というこれまでの基準を、0~5歳まですべて1人あたり1.65平方メートルに引き下げることができるようにしてしまいました。


 猪瀬氏は、これまでの保育所の面積基準に「科学的な根拠があるわけではない」から、切り下げてもいいんだと言っているわけですが、本当でしょうか?


 2009年に厚生労働省が保育所の最低基準のあり方について全国社会福祉協議会に委託調査を依頼しています。(※その調査結果はPDFで読むことができます→
http://www.shakyo.or.jp/research/2009_pdf/gaiyou.pdf  )


 この「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業――研究結果の概要」(2009年3月)の「科学的な根拠」にもとづく結論は、「2歳未満児に必要な面積基準は4.11平方メートル/人以上」「2歳以上児に必要な面積基準は2.43平方メートル/人以上」です。そして、この調査に掲載されている国際比較のグラフは以下です。


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 上のグラフを見て分かるように、日本は猪瀬氏と橋下氏に引き下げられる前の時点でも世界最低だったのです。上のグラフは3歳以上児ですが2歳児以下でも世界最低です。そして、職員配置基準とグループ規模についても諸外国と比較すると日本は職員の配置基準が低く、改善が必要だと調査報告で結論づけています。


 さらに驚くべきことに、「保育の質の評価に関する研究」(『保育科学研究』第1巻、2010年度)によると(※これもPDFで読むことができます→
http://www.nippo.or.jp/laboratory/pdfs/kenkyu/vol1/03.pdf  )、上のグラフの日本について、「基準設定方法が子どもの使用・活動スペース等として諸室に加え廊下を含むことも可能になっているにもかかわらず、子ども一人あたりの面積基準も、児童の年齢層を問わず下位ないし最下位に位置している」とも指摘されています。日本は基準設定に諸外国には含まれない「廊下」まで入っているのに最下位だということで、いかに日本の保育環境が劣悪なものであるかがよく分かります。


 2歳未満児の1人あたりの保育所の面積基準は4.11平方メートル以上は必要であるにもかかわらず、猪瀬氏は2.5平方メートルに、橋下氏は1.65平方メートル(なんと半分以下です)に切り下げてしまったわけです。


 こうした問題に対して、「保育園を考える親の会」は次のように指摘してます。(※これもPDFで読むことができます→
http://www.eqg.org/oyanokai/opinion_091126houkoku.pdf  )


 既存研究としては、1945年にR・スピッツのホスピタリズムの研究(看護師対子どもが1:9の乳児院での死亡率の高さ、発達の遅れを示したもの)や、1951年にJ・ボウルビーが、施設の子どもの心身の発達の遅れは、愛情のこもった養育ができなかったためとしたものがあり、これを踏まえて、厚生省(当時)は、1960年代に保育士の配置基準を大幅に改善しています。さらに、1995年にハイスコープ・ペリーブスクール調査では、貧困層の子どもたちを追跡調査して、幼児期の保育の質が成人後の学歴、所得、犯罪率などに影響することを明らかにし、2006年にアメリカの国立小児保健・人間発達研究所が発表した長期追跡調査「保育の質と子どもの発達」は、保育者の配置人数、グループの大きさ、保育者の専門教育の有無などのガイドラインを満たした保育であるかどうかで、子どもの就学への準備状態や言語理解能力、問題行動に差異があることを示しました。(※「保育園を考える親の会」の指摘はここまで)


 それから、上記と同じPDFの中で、寺町東子弁護士は次のように指摘しています。


 規制緩和で激増した子どもの死亡事故

 ゼロ年代の死亡が90年代の4倍近くに急増


 「赤ちゃんの急死を考える会」では、保育施設で1962年以降に起きた240件の死亡事故を調査しました。


 その結果、認可外保育施設で、死亡事故の85%が起きているということがわかりました。認可外保育施設と認可保育所の利用児童数は約1対10なので、認可外保育所における死亡事故の発生率は、認可保育所の54倍にも上ります。


 例えば、2001年、2人の赤ちゃんを1つのベビーベッドに寝かせていたあるちびっこ園では、8カ月の赤ちゃんが4カ月の赤ちゃんに覆いかぶさり、窒息死させてしまいました。ちびっこ園では、経営者が、入園申込を断ることを厳禁し、組織的に詰め込み保育を行っていました。全国66カ所のチェーン店で、20年間に21人の子どもたちが亡くなっています。


 こうした劣悪な認可外保育施設をみると、認可保育所を作って待機児をなくさなくちゃいけない!ということがわかります。


 しかし、認可保育所なら何でもいいかというと、そうとは言えません。認可保育所の死亡事故が2001年の規制緩和以降、激増していることもわかったのです。


 ◆81年~90年の10年間で、認可0件、認可外17件
 ◆91年~00年の10年間で、認可6件、認可外29件
 ◆01年~08年の8年間で、認可22件、認可外41件


 2001年は、年度途中25%まで、という定員の弾力化の上限が撤廃され、しかも、この定員増に伴う保育士配置増は、非常勤短時間保育士で充てればよいこととされたため、事実上、常勤保育士の配置比率80%以上という規制がなし崩しにされました。その結果、50~60%が非常勤保育士となっている園もあります。これらの規制緩和の影響を検証することなく、更なる緩和は許されません。「安全な認可保育所」を作って欲しい!ということです。(※寺町東子弁護士の指摘はここまで)


 厚生労働省自身も「保育施設における死亡事例について」(2009年12月7日発表) で、2004年4月から2009年11月の死亡を、認可保育所19件、認可外保育施設30件と公表していて、規制緩和で子どもの死亡が増加していることを認めています。


 そして、『毎日新聞』2011年7月21日付の「記者の目:保育所の最低基準面積緩和(山崎友記子)」では次のように指摘されています。


 「大人数詰め込んでいたため目が届かなかったのでは」


 昨年12月に長男の寛也ちゃん(当時1歳)を認可保育所での事故で亡くした愛知県碧南市の栗並秀行さん(32)と妻えみさん(32)はそう訴える。


 寛也ちゃんは昨年6月に市内の認可保育所の0歳児クラスに入り、人数が増えてきたため10月に1歳児クラスに移った。そして10月29日、おやつのカステラをのどに詰まらせて意識不明となり、約40日後に死亡した。


 1歳児クラス(45.1平方メートル)は寛也ちゃんら0歳児クラスから移った4人を含む17人。1人当たり面積は2.65平方メートルだ。「はいはいを始めたら(ほふく室基準の)3.3平方メートルが原則」(厚労省)で、よちよち歩きを始めた寛也ちゃんはこちらに該当しそうだが、保育所や市は、乳児室基準の1.65平方メートル以上なら問題ないと認識していた。


 さらに事故当時は隣の2歳児クラスとの仕切りが外され、寛也ちゃんがおやつを食べている間、周りを歩き回っている子もいた。保育所側は「ごったがえした状況もあった」と言い、担当保育士が寛也ちゃんから一時目を離していたことも認めている。


 認可保育所での死亡事故は超過定員を認める「弾力化」導入の01年度以降、増えている。遺族や弁護士らでつくる「赤ちゃんの急死を考える会」によると、1961~00年度の40年間で15件なのに01年度以降の8年間で22件。厚労省の調査では04年4月~10年12月の6年9カ月で24件だ。


 「自治体が詰め込みの危険性を理解せず、面積まで緩和すれば、同じことが繰り返されるのではないか」。栗並さんはそう訴える。保育所での死亡事例に詳しい寺町東子弁護士は「大部屋に詰め込めば子供は落ち着かずトラブルも増え、保育士の目も行き届かなくなる」と指摘する。(※毎日新聞からの引用はここまで)


 以上見てきたように、子どもの死亡事故を激増させているのが、猪瀬氏が得意気に誇る「全国一律の法令で国が地方自治体の仕事内容や方法を縛る『義務付け・枠付け』」の「廃止」「規制緩和」、そして、猪瀬氏や橋下氏が熱心な「地域主権改革」「地方分権改革」の現実です。


 詰め込み保育などの規制緩和を強めることによって、子どもの死亡事故が大幅に増加するなど、子どもの命を危険にさらし、子どもの成長発達権を侵害する、こうした動きに対して、宇都宮けんじさん は日弁連の会長時代に以下の声明を発表していますので、最後に紹介しておきます。


 子どもの成長発達権を侵害する保育所面積基準の

 緩和を行わないよう求める会長声明


 2011年5月2日に施行された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」により改正された児童福祉法は、同改正附則4条において、保育の実施への需要その他の条件を考慮して厚生労働省令で定める基準に照らして厚生労働大臣が指定する地域にあっては、保育所に関わる居室の床面積については厚生労働省令で定める基準を標準として定めるものとするとして、「指定地域」においては、条例によって保育所の面積基準を緩和し得るという重大な例外を設けている。


 指定地域たる24区市を抱える東京都は、0~1歳児を年度途中に定員を超えて入所させる場合、保育室の面積基準を1人当たり3.3平方メートルから2.5平方メートルに緩和することを認める条例(東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に関する条例)を制定した。また、指定地域の一つである大阪市でも、これまで「0歳児5平方メートル、1歳児3.3平方メートル」を基準としてきたところ、この基準を0~5歳まで全て、1人当たり1.65平方メートル(畳約1枚分に相当)に引き下げることができるように基準を緩和する条例(大阪市児童福祉施設最低基準条例)を制定した。


 これらの基準の緩和は、従来の保育所最低基準における「0~1歳児は3.3平方メートル、2歳以上は1.98平方メートル」という基準を大幅に下回るものであり、児童福祉法45条1項の「児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するもの」とは到底いい難い。待機児童解消を名目としながら、子どもの安全・安心な成長発達を大きな危険にさらすことと引き換えに、保育所の居室面積基準の緩和をすることを許容するものである。


 これまで当連合会は、「児童福祉法改正に関する意見書」(1996年9月20日)等で児童福祉施設最低基準の見直しを求めてきた。また、「地域主権改革に関し、保育、教育の保障の観点から、慎重かつ徹底した審議等を求める意見書」(2010年12月17日)においては、保育所最低基準、中でも、保育所における子どもの居室(保育室)の床面積にかかる基準が子どもの成長発達権保障に果たす極めて大きな役割を具体的に明らかにした上で、上記のような例外を認めて国の統一基準に反する状況を是認するとすれば、子どもの健全な成長発達や安全を犠牲にし、保育の質を無視して単に量的に受入れ児童を増やすことになり、子どもが安全・安心に成長発達する権利を侵害するものといわざるを得ないと指摘し、懸念を表明した。


 上記のような保育所面積基準を緩和する条例制定の動きは、当連合会の懸念が現実化しつつあることを示す実例であり、条例が制定され、保育所面積基準の緩和が現実化すれば、子どもの成長発達権が著しく侵害されてしまうことはいうまでもない。


 当連合会は、子どもの成長発達権を保障する観点から、改めて、改正児童福祉法附則4条が保育所面積基準の緩和を認めていること自体の再考を求めるとともに、これによって許容されている保育所面積基準の緩和が現実化し、子どもの成長発達権が侵害されるような事態を避けるべく、指定地域を含む都道府県もしくは指定地域の市区町村に対し、子どもの成長発達権を侵害する保育所面積基準を緩和する条例の制定を行わないこと、また、たとえ緩和することを認める条例が制定されてもそれに沿った保育所面積基準の緩和を現実に行わないことを求める。


2012年4月4日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児


(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)