67年間も隠され続ける内部被曝-「黒い雨」被曝者切り捨てる野田政権に福島原発事故の実相は見えない | すくらむ

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 NHKスペシャル「黒い雨~活かされなかった被爆者調査」(8月6日放送)は、広島・長崎の被曝問題だけでなく福島原発事故における被曝問題にもつながる「67年間も隠され続ける内部被曝」を告発していて衝撃的でした。


 ことの発端は、全国保険医団体連合会(保団連)の理事で、長崎県保険医協会副会長の本田孝也医師が突き止めた「黒い雨」を浴びた1万3千人分のデータの存在。(詳しいいきさつは、保団連のホームページにアップされていますので、ぜひご覧ください。【※→被爆地の「黒い雨」1万3000人分のデータ存在――直ちに公開を】)


 広島・長崎での原爆投下直後のアメリカのABCC(原爆傷害調査委員会)の報告書に、「黒い雨」を浴びた人に、被爆者特有の出血斑や脱毛などの急性症状が出たことが集計されたデータとともに書かれていました。本田医師は、ABCCを引き継いだ放射線影響研究所(放影研)に問い合わせますが、放影研は「確かに『黒い雨』の調査は行ったが、詳細は個人情報であり公開できない」と回答。これに対し本田医師は記者会見を開き、「黒い雨」のデータの公開を求めます。この本田医師の行動によって放影研が隠してきたデータの存在が原爆投下後66年目にして明らかになります。


 この「黒い雨」のデータのもとは、1950年代、ABCCが放射線の人体への影響を調べるため、広島と長崎の被爆者9万3千人に行った聞き取り調査でした。この聞き取り調査には、「原発直後に雨にあいましたか?」という「黒い雨」に関する項目も含まれており、これに1万3千人が「黒い雨」にあったと回答していたのです。


 こんな膨大なデータをなぜこれまで公開しなかったのかという理由について、放影研は「隠してきたわけではなく、データの重要度が低いと判断したからだ」としています。


 それでは、データの重要度が低いと判断した根拠は何だったのでしょうか? 放影研は原爆投下直後の初期放射線については調べていましたが、「黒い雨」(広島の「黒い雨」の放射線量は10~30ミリシーベルト)や地上に残された残留放射線については、「無視していい程度の影響だった」「『黒い雨』は大きな影響のものではなかった」としていたのです。


 しかし、「黒い雨」のデータには、初期放射線の影響がないとされている爆心地から5キロ離れた地点で「黒い雨」を浴び、発熱や下痢など複数の急性症状が強く出ていたという記録がしるされているのです。(初期放射線の影響は爆心地から2キロ以内と放影研はしています)


 放影研に引き継ぐ前に実際に調査を行ったABCCはなぜ調査を眠らせていたのでしょうか? それは、残留放射線による内部被曝が人体にとって危険だとなると、アメリカにおける核兵器と原発の開発推進、核戦略と原子力政策に支障が出ると同時に、ビキニ環礁での第五福竜丸の被曝などで日本において当時急速に台頭していた原水爆禁止運動もおさえることが困難になるからでした。番組に登場したアメリカ原子力委員会の幹部(当時)は、「放射線被害について人々が主張すればするほどそれを根拠に原子力に反対する人が増えてきます。少なくとも混乱は生じ、核はこれまで言われてきた以上に危険だという考えが広がります。原子力開発にとって妨げとなるものは何であれ問題だったのです」と証言し、意図的に「黒い雨」による残留放射線の内部被曝問題を葬り去ったのです。さらに番組では、当時のABCCの調査に加わっていたアメリカの研究者が、「黒い雨」による内部被曝が人体に悪影響を及ぼすことに気づき、論文などで警鐘を鳴らしていた事実を紹介。しかし、そのアメリカの研究者は途中で辞めさせられていた事実も告発しています。


 こうして葬り去られた「黒い雨」のデータは、日本において原爆症の認定に悪影響を与えます。原爆症の認定にあたって、残留放射線は考慮されず、爆心地から2キロ以内の初期放射線だけが考慮されることになってしまったのです。国は原爆症の認定制度をいまだに見直さず「黒い雨」を認めようとしていません。


 広島市の福島生協病院で被爆者の治療にあたり、被爆者の医療に詳しい斎藤紀医師(福島医療生協わたり病院医師)は、「きちんと調べもせずに『黒い雨』の影響をないものとしてきた国こそ責任を問われるべきです。国は初期放射線でその被害の説明がつかないから被ばくはなかったとしていますが、その説明がつかない被害をこそ、国の責任できちんと調べる必要があったのです。被害について調べもせず、つきつめないでおいて、被害がなかったというのは、科学の常道ではありません」と語ります。


 番組では、国が直接の初期被爆以外を軽視し調べようとしないなか、研究者が独自に進めている研究調査を紹介しました。


 広島大学の大瀧慈教授は、被爆者が癌で死亡するリスクについて研究してきました。大瀧教授が被爆した場所によって癌による死亡のリスクがどう変わるかを調べていたところ、意外な結果が得られたのです。初期放射線の量は爆心地からの距離とともに少なくなるため、死亡のリスクは同心円上に減っていくはずです。しかし、研究の結果は爆心地の西から北西方向でリスクが下がらないいびつな形を示しました。初期放射線だけでは説明できないリスクが浮かび上がってきたのです。そして、このリスクは「黒い雨」が降った地域と重なったのです。直接の初期被爆以外を無視した誤りが事実として浮かび上がったのです。いま福島原発事故による放射線被害が広がるなか、被曝の実相に向き合う必要があるのです。


 ――以上がNHKスペシャル「黒い雨~活かされなかった被爆者調査」の主な内容ですが、これを見て「黒い雨」についての直近のマスコミ報道を検索してみたのですが、野田政権が「黒い雨」による内部被曝を認めようとしないことが報道され、毎日新聞広島支局の加藤小夜記者が「記者の目:『黒い雨』被害者切り捨て」(『毎日新聞』8月7日付)という記事の中で、「国は核被害の実相を見よ」、「核被害の実相に向き合わない政府に『被爆国』を名乗ってほしくない」と指摘し、被害者に「科学的な立証を求める理不尽さ」を批判しています。


 この広島・長崎の「黒い雨」で「活かされなかった被爆者調査」の問題と同様のことは、福島原発事故でも繰り返される危険性があります。広島・長崎の内部被曝の実相を葬り去り、「黒い雨」の被曝者を切り捨てる野田政権が、福島原発事故での内部被曝の実相に向き合えるとは思えないからです。原発を再稼働し、ヒロシマ・ナガサキ・フクシマの内部被曝の実相を見ようとしない政府は日本に必要ありません。


(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)