国家公務員給与カットは民間給与カットの連鎖へ-公務員バッシングのツケは結局国民が負うことになる | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 5月19日のエントリー「国家公務員は民間より給与が低い上に一人当たりの仕事の負荷が世界で最も大きい」 について、コメントやツイッターでさまざまな意見が飛び交っています。


 なかには、「超大企業だけと比べるのはおかしい」とか、「数字はデタラメだ」などというものもありますので、この際、厚生労働省統計情報部編『賃金センサス――平成21年賃金構造基本統計調査』(※最新の統計)の全産業・企業規模別のデータを紹介しておきます。


 ちなみに、人事院が企業規模50人以上かつ事業者規模50人以上を調査して、民間給与と国家公務員給与との較差を埋めることを基本にしているのが人事院勧告です。給与を比較する際は、仕事の種類、役職段階、勤務地域、学歴、年齢を同じくする者同士の給与を比較するラスパイレス方式というのをとっています。このラスパイレス方式については、人事院のホームページを見ていただくとして(→「給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」参照 )、このブログでは、私(ノックオン)の問題意識が、みんなの党などが持ち出してくるパート・アルバイトなど非正規雇用労働者を含む国税庁の「民間給与実態統計調査」にありましたので、それなら全産業の正規雇用労働者を対象にしている厚生労働省の調査と比較したらどうなるのかなと思って比較してみただけです。(※このすくらむブログは、国公一般の正式見解を発表しているところではなく、国公一般の執行委員がそれぞれの考えを自由に発信している場ですので御了承ください)

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 上の表は、前回紹介したもので、国家公務員と民間全産業正規雇用労働者の2009年の年間給与を比較したものです。


 注意していただきたいのは、国家公務員も民間労働者も、ボーナス、一時金はもちろんすべての各種手当が含まれた額ということです。「一時金や各種手当が含まれていない」などという間違ったコメントなどが寄せられていますので強調しておきます。


 それから、国家公務員の方は、『人事院月報』(2010年9月号No.733)の111ページに掲載されている国家公務員[行政職(一)]の2009年の年間給与ですが、年齢が飛んでいて数字が無いところがあるのは、表で紹介している年齢の数字しか『人事院月報』に掲載されていないだけで、こちらが恣意的に選んでいるわけではありません。


 民間正規労働者の年間給与は、厚生労働省統計情報部編『賃金センサス――平成21年賃金構造基本統計調査』(※最新の統計)の4~5ページに掲載されている2009年の民間企業(全産業)の正規労働者の残業代を一切含まない年間の所定内給与額です。これは「超大企業だけの数字」などではなく、「全産業」「全企業規模計」の数字です。ただし、厚労省の「全企業規模計」は、「企業規模10人以上の計であり、企業規模5~9人は含まない」(利用上の一般的注意14ページ)となっていて、給与額は、上表の「全企業規模計」のほかに、「企業規模1000人以上」と「企業規模100~999人」と「企業規模10~99人」の3つの分類で公表されています。以下、順番に紹介しておきます。


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 以上が、国家公務員と民間労働者の年間給与額の比較でした。あわせて、「国家公務員給与10%削減でGDP3兆円減少しデフレ加速する」 をぜひお読みください。


 最後に、今回の国家公務員給与10%削減に疑問を投げかけている論評の一部を紹介しておきます。


 ▼ニッセイ基礎研究所「研究員の眼(2011年5月16日)」


 「国家公務員の給与カット表明に熟慮と覚悟があるか」(松浦民恵氏)から一部抜粋 →※全文はこちら (※私の敬愛する本田由紀東京大学教授がツイッターで教えてくれた論評です)


 公務員だけが二重、三重に重荷を背負うことになる
 拙速な労働条件切り下げのツケは、結局国民が負うことになる


 「この動きに違和感を覚えるのは筆者だけだろうか。例年、国家公務員の給与は、民間企業の賃金水準の調査に基づいて行われる人事院勧告を受けて、民間企業の労働条件とのバランスを考慮のうえ決定される。このような仕組みがとられている大きな理由の一つとして、公務員には労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)のうち、団体行動権(ストライキ等をおこなう権利)が認められていないことがある。しかしながら、今回の1割カットは、労働三権の制約に関する議論が収斂しないまま、人事院勧告を経ず、労使協議によって検討が進められようとしている。」


 「さらに納得がいかないのは、東日本大震災の対応が理由としてあげられている点である。もし労使協議の結果、国家公務員の給与がカットされたとしても、それで復興財源全体を賄いきれるはずはないので、早晩、増税の議論が出てくる可能性が高い。震災によって業務量が増大している公務員が少なくないなかで、給与カットが行われ、さらに増税ということになると、公務員だけが二重、三重に重荷を背負うことになる。」


 「労働条件の変更は、対象となる人の人生のみならず、家族の生活にも関わってくる。人事管理の観点からみると、拙速な労働条件切り下げは働く人のモチベーションの低下につながり、中長期的に優秀な人材を確保し、定着させることも難しくする。一方で、公務員は国の方向性の検討に関わるプロフェッショナル集団であり、公的サービスの担い手であることから、彼・彼女らの働きぶりは、国民の生活に多大な影響を与える。拙速な労働条件切り下げのツケは、結局国民が負うことになる。冒頭紹介した人事の実務家は、労働条件変更の恐ろしさ、根深さを理解し、肝に銘じていたのだと思う。」



 ▼週刊ポスト(2011年6月3日号)からの一部抜粋 →※全文はこちら


 公務員の給与カットに「ザマアミロ」というと

 しっぺ返し来る


 公務員の給与カットに胸のすく思いの国民は多いはずだ。が、「ザマアミロ」ではすまない。この震災賃下げが契機となって、民間にも減給の波が押し寄せ、「給与カットの連鎖」が起きる危険性があるからだ。


 経済評論家・奥村宏氏がこう指摘する。


 「企業はいま、とにかく人件費削減を進めたい。日本経団連が2007年にホワイトカラーの残業代をゼロにできる制度の導入を働きかけたように、人件費削減を狙ってきた。今回の公務員の賃下げは、経営者が組合や社員に震災後の業績悪化を補うための賃金カットを求める口実になる」


 (中略)「国が範を示したからやりやすくなった」(中略)製造業も震災による部品不足や夏の節電目標などで工場の操業率が低下しており、今期の業績大幅悪化が予測されている。大手から中小、零細企業まで広範囲に人件費削減が行なわれることを警戒しなければならない。


(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)