国家公務員給与10%削減でGDP3兆円減少しデフレ加速する | くろすろーど

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 ※本日、公務員給与を削減した場合の日本経済へのマイナス影響についての試算を記者発表しました。さっそく、共同通信が配信してくれていますので冒頭紹介しておきます。


 ▼10%削減でGDP3兆円減 公務員給与めぐり試算
  2011/05/19 17:45【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051901000833.html

 政府が国家公務員給与の10%削減方針を打ち出したことを受け、労働運動総合研究所(東京)は19日、削減が国家公務員以外の地方公務員や民間の人件費も押し下げ、国内総生産(GDP)を約3兆円減少させるとの試算結果を公表した。「国内賃金の低下を招き、デフレを加速させる」と指摘した。


 同研究所は、公務員のほか従来、人事院勧告に人件費を連動させてきた社会福祉施設や私立学校などの職員も含め、計約625万人に影響が及ぶと想定。削減が10%の場合、年約3兆4700億円の家計収入が減り、国と地方の税収も約5400億円減ると試算した。


 20%の場合は、GDPを約4兆5800億円減少させるとした。


 記者会見に同席した日本国家公務員労働組合連合会の宮垣忠委員長は「公務員は復興のために頑張っており、なぜ賃下げをするのか明確な理由がない。むしろ公務員の人数を増やすべきだ」と訴えた。


 ――以上が共同通信の配信記事です。それでは以下が、公務員給与削減をめぐる試算の全文です。



 公務員人件費を「2割削減」した場合の
 経済へのマイナス影響と、その特徴について


                        2011年5月19日 労働運動総合研究所


 はじめに


 政府は、東日本大震災の復興財源に充てるため、国家公務員の給与を2013年度まで1割引き下げる方針を表明して、関係労働組合に提示した。地方公務員の給与についても引き下げを検討すると伝えられている。


 公務員人件費削減問題は、そもそも民主党が『マニフェスト』で「2割削減」を掲げ、この間、政府内で検討してきたものである。それは地域主権改革の推進をはかり、福祉や国民サービスの切り捨てなど「小さな政府」につながるものである。今回、「復興財源」を口実に公務員人件費削減を迫ろうとしているが、それは到底許すことのできないものである。


 公務員の人件費を削って復興財源に充てるという方法には、以下のような大きな問題点がある。


 第1に、労働基本権を奪ったまま賃金の大幅引き下げを強要することは、公務員の「基本的人権」を否定するものであり、明らかな憲法違反である。また、ILOの精神である「奴隷的労働の禁止」にも該当する。


 第2に、復興財源の捻出は、公務・公共業務と公務労働者がどのような役割を果たしていくかとの関連で考える必要がある。被災地の岩手県、宮城県、福島県などの被害状況から言えることは、この間の広域合併、庁舎や病院・消防署などの統廃合と人員整理、さらにはハローワークや気象庁職員などの人べらしが、被災地・住民の生活を守るうえでも再建をはかっていくうえでも大きな障害になっていることである。あわせて、自らも被災しながら避難所などで献身的に活動する公務員の姿が浮き彫りにされた。いま必要なのは、公務員人件費の削減ではなくて、公務員の大幅増員と、公的就労事業の拡大である。


 第3に、復興財源はまた、日本経済をどのように再建していくかとの関係でも考える必要がある。公務員賃金の削減は、国内労働者全体の賃金引き下げを招き、国内需要(家計消費)の大幅な縮小を招き、20年来続いてきた内需不足・デフレをさらに深化させる。労働総研は過日(4月22日)、「雇用と就業の確保を基軸にした、住民本位の復興――東日本大震災の被災者に勇気と展望を」を緊急提言 し、復興事業費15兆円の財源には、資本金1億円以上の中堅・大企業の内部留保317兆円の4.7%を充てるよう提言し、その資金として99兆円の換金性資産があることも明らかにしてきた。内部留保を財源に活用すれば、日本経済は「内需中心の拡大」が見込まれ、国民的再生につながるものである。


 1.本調査・試算の目的と経緯について


 ① 労働総研は、全労連や国公労連、自治労連などと協力して、民主党が『マニフェスト』に掲げ菅政権が具体化しようとしている「国家公務員人件費の2割削減」を実施した場合の日本経済への影響(消費減、生産減、税収減などのマイナス面)を明らかにすべく、その基礎データの収集に努めてきた。これは、賃金カットに反対する運動や民主的公務員制度を確立するたたかいに資するためのもので、国家公務員だけでなく人事院勧告の影響を受ける官民各産業・業種の職員数や給与の平均年収、支給総額、20%削減額などの基礎データにもとづき、家計消費の変化が日本経済にどのように影響するかについて、総務省2005年「産業連関表」(確報)を用いて試算しようというものである。このほど、消費減少額、生産減少額、付加価値減少額、税収減少額などマイナス面の影響が明らかになったので、ここに報告する。


 ② 基礎データの収集にあたっては、10年前の2001年に国公労連が総務省・人事院交渉などを経てまとめた「人勧の影響を受ける約750万人の内訳」にもとづき、その後の変化について、国公労連、自治労連、特殊法人労連などの公務単産より職員数・給与水準に関する資料の提供を受けた。同時に、全労連の調査政策担当者会議や純中立の関係単産に協力要請し、民間ながら「人勧準拠」(主として秋に賃金改定)・「人勧横にらみ」(翌年春に賃金改定)などで影響を受けている産業・業種についても情報や資料の提供を受けた。具体的な職員数・年間収入については関係省庁がホームページ等で発表している数値を採用した。


 2.経済へのマイナス影響と特徴について


 ① 公務員人件費20%削減の場合


 基礎データの集計で得られた、①職員総数625.8万人、②平均年収=正規職員(581.4万人)582万6400円、非常勤・臨時職員(44.4万人)188万0300円にもとづいて、家計消費の減少による消費性向の変化を明らかにし、産業連関表を用いて計算した結果、つぎのような影響が明らかになった。

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 上表のように、人事院勧告の影響を受ける625.8万人の年間収入の累計額は34兆7098億円に達する。その経済的なマイナスの影響は、①家計収入の減少総額が6兆9420億円、②家計消費の減少額が5兆1874億円、③国内生産の減少額が10兆7010億円、④付加価値(≒GDP)の減少額が4兆5818億円、⑤国と地方の税収の減少額が8133億円という巨額な数値になった。また、付加価値の減少額から推計すると、わが国の年間のGDP(500兆円弱)を0.9%押し下げることも明らかである。


 ② 民間労働者への悪影響


 「人勧準拠」や「人勧横にらみ」という賃金決定方式によって人事院勧告の影響を直接・間接に受けている、私立学校や民営病院、社会福祉施設などの民間労働者については本調査に折り込み済みである。


 加えて、公務員の人件費が20%もの大幅な削減になった時、民間企業の経営者が黙って見過ごすはずがない。とりわけ、経営基盤の脆弱な地方の中小企業の多くは公務員賃金の動向を参考に給与改定をしており、また、国・自治体から委託・公契約の仕事を扱う企業などでは毎年の賃金改定ができず、経営者・従業員の賃下げや人員整理、非正規化でしのいでいる企業が少なくない。公務員の人件費が大幅にカットされたとなれば、「右へならえ」とばかりに賃下げに走ると思われる。こうしたことは、周辺の中堅・大企業にも波及することも予想される。


 このように、公務員賃金の大幅削減が引き金になって、日本の労働者全体の賃金水準が今以上に引き下げられたら、日本経済へのマイナス影響は計り知れない規模になるであろう。日本経済がかつて経験したことのない深刻なデフレ(極端な縮小再生産)に陥ることになるし、東日本大震災からの復旧・復興計画にも甚大な悪影響を及ぼすことになる。


 ③ 公務員人件費10%削減、5%削減の場合⇒(表1)



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 本調査では、労働運動の反対闘争や、前述した消費・生産・税収などへの悪影響を受けての国民世論の反撃などによって削減幅が縮小されることも想定した。その場合、①家計収入の減少総額は、10%削減では3兆4710億円、5%削減では1兆7355億円に圧縮される。以下、10%削減の場合の経済的なマイナス影響は、②家計消費の減少額が2兆5937億円、③国内生産の減少額が5兆8472億円、④付加価値(≒GDP)の減少額が3兆0431億円、⑤国と地方の税収の減少額が5401億円となる。5%削減の場合を含め各々のマイナス影響は別表1のとおりである。


 なお、削減率が20%から10%になると、正規職員の消費性向が上昇し家計消費十分位該当区分がⅦ→ⅤからⅦ→Ⅵに変わるので、10%の影響は20%の二分の一にはならない。非常勤・臨時職員の10%削減は家計消費十分位該当区分が変わらないので20%の二分の一である。5%の場合はすべてが10%の二分の一となる。


 3.基礎データの集計結果と特徴について


 本調査・試算をすすめるに当たっては、人事院勧告の影響を直接・間接に受ける職員数とそれぞれの年間収入・給付額を正確に掴むことからスタートした。その集計結果と特徴は以下のとおりである。


 ① 職員数・平均年収について⇒(表2)


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 人事院勧告の影響を受ける職員数については、今日時点で20の産業・業種があり、その合計は625.8万人となった。


 この調査は、2001年に国公労連が総務省・人事院交渉などを経てまとめた「人勧の影響を受ける約750万人の内訳」(当時は23業種)をもとに、その後の公務員制度「改革」や全国的な「平成の大合併」によって変化・減員となり、それが民間にも波及していることも含め、各単産・団体の情報提供と関係省庁発表の資料などから精査し、差引したものである。


 個別には、国家公務員が一般職・特別職、検察官を含め64.1万人(2001年は83万人)、地方公務員が一般職・特別職、地方公営企業を含め286.2万人(同330.9万人)に各々大幅に減少している。2001年当時の特殊法人は独立行政法人となり、認可法人・公益法人は人勧準拠ではなくなっている。民間の農業協同組合もこの間の広域合併によって人勧準拠ではなくなった。一方で高齢化社会の進展とともに、民間病院96.4万人(同42.1万人)、社会福祉施設63.9万人(同39.5万人)などが大きく増えている。(なお、恩給受給者84.2万人(同162.3万人)と外国人留学生1.0万人(同0.9万人)については、今回の「2割削減」が特例措置であることから、本集計からは除外した。)


 この件については、2009年5月21日の衆議院総務委員会において、政府参考人より580万人という答弁がある。内訳は、国家公務員60万人、地方公務員300万人、独立行政法人・国立大学法人等80万人、学校・病院等140万人と紹介された(質問者:塩川鉄也議員・共産)。今回の調査結果との差45.8万人は、民営病院・社会福祉施設などのカウントの仕方によるものと思われる。


 平均年収については、625.8万人全体では554万6700円となった。うち正規職員581.4万人に限ると582万6400円になる。


 個別には、国家公務員が633万9000円、地方公務員(一般職)が625万3100円、国立大学法人801万0600円、地方公営企業761万2000円など、民間では政府系金融機関が834万5900円、私立学校598万8700円、民営病院473万9600円、社会福祉施設346万7300円などとなった。


 これらのデータの出典は、各産業・職種とも「データの出典」欄に記載したとおりである。複数のデータがある場合には関係省庁発表のものを優先した。データによっては、人件費総額や年間収入の発表、月例給与と年間賞与とを発表しているものがあり、月例給与のみの発表については類似する産業・業種の年間賞与支給月数を乗じて加算した。これらの産業・業種ごとの職員数と年間収入をどのように精査・算出したかについては、別紙表4に紹介したとおりである。


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 臨時・非常勤職員については、この間の民間における非正規化の影響や「公務員バッシング」などによって急増しており、国家公務員の職場で14.8万人(非正規率19%)、地方公務員の職場で49.9万人(同15%)が総務省の資料によって確認された。うち、カウントしたのはフルタイム労働者の人数に限定し、短時間パートと在宅や期間限定の任用などは除いた。年収の計算にあたっては、時間額または日額(7時間45分)をベースに×20日×12カ月で計算した。


 ② 支給総額(累計)と削減額について⇒(表3)


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 給与や給付の支給総額は、各産業・職種ごとの人数×年間収入で加重集計し、その累計を求めた。625.8万人全体の総額は34兆7098億円に達した。


 削減額については、全体の支給総額×削減率の単純計算で、20%削減の合計額は6兆9420億円となった。これは、「2割削減の方法」(人件費中心、人件費と人数の組み合わせ、人数中心)に関係なく、総額人件費ととらえて単純計算した。10%削減、5%削減の計算も同様である。


 4.本調査の担当者

 本調査は、以下の者が担当した。
 労働総研・理事     中島康浩
 全労連・調査局長    伊藤圭一
 国公労連・中央執行委員 上田宗一

                                             (以上)