教育の無償化への動きをさらにすすめるための緊急提言 - 公立高校授業料不徴収実施後の課題 | すくらむ

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 ※日高教の緊急提言を紹介します。


 教育の無償化への動きをさらにすすめるための緊急提言
 ~公立高校授業料不徴収実施後の課題~
             2010年10月6日 日本高等学校教職員組合


 「社会全体であなたの学びを支えます」。文部科学省は高らかに宣言して、この4月から公立高校授業料不徴収を開始しました。これは、従来の「教育は個人の投資」という受益者負担主義の立場から大きく転換し、教育費の無償化に向けた大きな一歩を踏み出したものであり高く評価します。しかしながら、すでに授業料の減免措置を受けていた生徒や、授業料が低く設定されていた定時制・通信制高校の生徒への実質的な負担減にはつながらず、2011年1月より特定扶養控除が縮小されることにより、保護者の税負担が増加して逆に負担増となることが懸念されています。また、授業料に倍する保護者の教育費負担は依然として残っています。貧困・格差の拡大とともに、定時制高校への受験生が急増し、不合格者が大量に出て社会問題化しています。


 9月7日に発表されたOECDの「図表でみる教育2010年版」によれば、2007年の国内総生産(GDP)に占める、日本の教育機関に対する公的支出の割合は3.3%と、比較可能な28カ国中最下位となっています。子ども1人あたりの公費・私費あわせた教育支出はOECD平均を上回っているものの、家計の私費負担の割合が33.3%で、加盟国平均の17.4%を大きく上回っています。


 文部科学省が『平成21年度文部科学白書』で指摘しているように、「所得格差は緩やかに増大」しており、両親の所得が低いほど4年生大学への進学率が低くなっています。そして、「どのような学校段階に進んだかは、卒業後の就業状態や所得に影響を与える」というのが日本社会の現実です。


 4月以降、公立高校授業料が不徴収となったものの、学校納付金の滞納者は減っていないという現場からの報告が相次いでいます。親から子への貧困の連鎖を断ち、卒業クライシス問題や経済的理由による高校中退を防ぐことは、義務教育だけで就業することが困難となった我が国における喫緊の課題です。「経済格差は教育格差」という状態から脱却するため、教育費の無償化に向けた次の一歩を踏み出すことが何よりも強く求められています。


 教育機関への公的支出をOECD平均の対GDP比5%となるように増額すれば、就学前から大学までの教育の無償化がただちに実現します。しかし、長年続いた自民党政権が、受益者負担主義の立場から保護者負担を増大させてきたため、教育の無償化は短期間には達成できません。こうした状況のなか、「授業料不徴収」によってようやく前に進み始めた教育の無償化の動きをもう一歩すすめるため、緊急に必要な以下の政策を提言し、関係各機関の努力を要請するとともに、教育の無償化へ向けた国民的議論が行なわれることを呼びかけるものです。


 《提言1》給付型奨学金事業(概算要求122億円)の本予算化と「高校版就学援助制度」を実現する


 2009年10月の厚生労働省発表によれば、子どもの貧困率は年々増加し、2007年には14.2%と7人に1人が貧困に苦しんでいます。義務教育段階での就学援助受給者は急増しており、1997年には6.6%だった就学援助受給率は、2008年には13.9%となっています(要保護者率1.3%+準要保護者率12.6%)。子どもの貧困率と同様に、子どもの7人に1人が就学援助を受給していることになります。こうした子どもたちは、高校に入学したら就学援助が受けられなくなり、ただちに教育費の支払いが困難となります。高校生にも義務教育と同様の就学援助制度が必要です。


 文部科学省は2011年度概算要求で、高校生に対する給付型奨学金事業の創設に122億円を「特別枠」で計上しました。これは、年収350万円未満の低所得世帯の生徒に対して教科書等図書費相当額1万8300円や、特定扶養控除見直しに伴って負担増となる定時制・通信制生徒、特別支援学校高等部の生徒に対して給付をするというものです。経済的な困難を抱える生徒の修学を保障するうえで歓迎すべき一歩といえますが、この給付型奨学金は、「政策コンテスト」にかけて他の政策と競わせる「特別枠」での要望となっています。憲法26条で保障された教育を受ける権利を保障するための予算は、「政策コンテスト」にかけて他の政策と競わせるべきものではありません。直ちに政府原案にすべきです。そして、その金額と対象品目を順次拡充していくことによって「高校版就学援助制度」へと発展させていくことも可能となります。


 《提言2》全国一律の基準で授業料完全無償化を実現する


 4月から公立高校授業料の不徴収がスタートしましたが、文部科学省自身は「原則不徴収」の立場を取り、既卒者や標準修業年限を超過して在学する者などに適用するかどうかは自治体任せにしました。そのため、自治体によって「完全不徴収」から「徴収」まで大きなばらつきが生じています。自治体の財政力や教育委員会の判断の違いによって、子どもたちの教育条件に大きな違いがあることは、教育の機会均等を保障する上であってはならないことです。


 いわゆる「高校授業料無償化法」の趣旨が「すべての意志ある高校生が安心して教育を受けることができる」ことにあることを文部科学省自身が述べています。私学も含めたすべての高校の授業料を「完全不徴収」とし、国の責任で授業料無償化を実現するときです。


 《提言3》入学検定料・入学金を無償化する


 高校への進学率は98%に達し、事実上の準義務教育となっていることは国民的な常識です。中卒で就ける職業はきわめて限られ、中卒・高校中退者の就業状況が悪化している現状においては、高校卒業までの学習条件を整備することは、国民の支持も高く、特に優先すべき課題です。


 地方自治体は、授業料・入学検定料・入学料について「使用料・手数料」という名目で徴収していましたが、今年度から授業料が不徴収となりました。授業料を不徴収としながら、入学検定料・入学金を「使用料・手数料」として徴収し続けることには矛盾が生じます。入学検定料と入学金についても直ちに不徴収として無償化すべきです。


 《提言4》教科書代を公費負担とし、夜間定時制の給食費を無料化する


 提言3で述べたとおり、高校は準義務教育化しており、高校卒業の資格は、日本という社会の中で自立して生活していくためのスタートラインというべきものになっています。そして、生徒たちは、自らが選択することのできない制服・教科書・副教材などを購入し、PTA会費・生徒会費・修学旅行積立金・各種検定料など、授業料の2~3倍もの学校納付金を支払い続けなければなりません。


 生徒本人及び保護者に購入するかどうか選択の余地のない学校必需品については無償にすべきです。特に緊急に実現すべきは、小中学校でも無償となっている教科書代の無償化です。


 また、夜間定時制高校の生徒たちが学校に通い続けるなかで、学校給食の果たす役割は極めて大きいものがあります。しかし、2005年度より国庫補助が廃止されて地方交付税化されたために、給食代を値上げしたり、給食そのものを廃止する学校も出ています。国庫補助の復活と無料化の実現は切実な要求となっています。