子どもに貧困と孤独と絶望を与え未来奪う新自由主義は人間の最も醜悪な部分を濃縮させたもの | すくらむ

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 ※「連合通信・隔日版」(2010年7月29日付No.8354)と、みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」 からの転載です。(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)


 「連合通信・隔日版」(2010年7月29日付No.8354)
 「子どもの貧困」を考える/埼玉弁護士会がシンポ/高校生らが実情訴える


 「子どもの貧困」について考えようと埼玉弁護士会は7月24日、埼玉県川口市内でシンポジウムを開き、市民や弁護士など300人が参加した。


 日本弁護士連合会(日弁連)は今年の人権擁護大会のテーマの一つに「子どもの貧困」を掲げている。今回は、そのプレ企画として開かれたもの。


 埼玉弁護士会の加村啓二会長はあいさつで「労働者の格差と貧困拡大を背景に子どもの貧困が拡大している」と指摘。さらに、貧困が世代間で連鎖していると述べ「社会全体で対応策を模索してきたい」とした。


 シンポでは、生活保護を受けている高校生や親などが発言し、進学や部活動の費用などに悩んでいる実情を語った。


 パネルディスカッションで日本テレビの水島宏明解説委員は、取材で出会ったネットカフェ難民の青年などを紹介しながら「親の不安定な雇用が子どもに影響を与えていることは明らか。世の中から不安定な雇用をなくしていかなければならない」と発言した。


 子どもの貧困に対しては、学校や児童相談所、福祉事務所などの関係機関が横断的に対応することが必要であり、若者の失業対策として注目され始めているパーソナル・サポート・システムは「子どもにこそ必要」と指摘した。


 ●〈当事者の発言から〉/「部活をやめろ」と…/高校3年生の男子


 母親と弟2人の4人暮らし。生活保護を受給中。野球部の活動に打ち込んでいるが、母親が市役所で「生活保護の受給額のなかで部活をやっているので苦しい」と話したら「部活をやめさせればいい」と言われた。自分が部活をやめることで生活が楽になるなら、やめた方がいいと思っている。


 部活の費用をアルバイトで補えればいいが、バイトで稼いだ分は受給額から引かれてしまう。こうしたことに疑問を感じる。


 ●水道止められたことも/高校3年生の男子


 母子家庭で、高校1年の弟との3人暮らし。小学4年の時に父親がいなくなり、生活保護を受けている。生活は苦しく、ガスや電気、水道代を滞納することも多い。水道を止められた時は体も洗えず、きつかった。近くの公園でペットボトルに水を詰めて家に運んだことも。


 進路を決める時期で、溶接などの資格試験を受けたいが、検定料が高くて申し込めない。普通の生活を送るために、早く正社員として働きたい。


 これからの子どもが自分のような思いをしなくてすむよう、学費や資格の検定料を無料にしてほしい。


 ●孤立している子を救って/21歳女性


 高校中退の経験がある。現在は定時制高校に通いながら、夜は100円ショップに勤務。小学3年の時に両親が離婚し、母親との2人暮らし。


 母親はダブルワークをしていたが、体を壊してからはそれもできなくなり、月収は12万~13万円。食費は2人で1日1,000円。納豆とご飯だけという日が3日続いたこともある。


 小学3年の頃から勉強についていけなくなった。小数や分数がほとんど分からない。母親はずっと仕事だったため夜は一人。宿題が分からなくても教えてくれる人がいなかった。


 子どもが夜、一人で過ごすのは大変なこと。中学で同じ境遇の子と出会い、夜遊びするように。孤独感はなくなったが、生活が乱れ退学につながった。


 高校中退に手を打つには、高校生になってからでは遅い。小学校の時から孤立している子どもを見つけることが必要。孤立している子どもを見つけたら手をさしのべてほしい。


 ●教育費が足りない/シングルマザー


 離婚して11年。中学3年生と小学5年生の子どもを育てている。離婚後、派遣社員として働いたが生活は苦しかった。現在は正社員として7年目。しかし、昨年は10%の賃下げでボーナスもなし。昇給もほとんどない。


 中3の息子は公立高校以外の進学が厳しいことを理解しているが、(公立の中の)進学校に通いたいと言い出した。


 公立高校無償化で公立高校の競争は激しくなっている。進学のためには進学塾に通う方がいいが、年間50万円を超える費用が必要。とても払えない。


 勉強したいという意志を尊重したいが、親の事情で通わせてあげられない。これが自己責任なのか。子どもたちが自由に進路を選べる社会にしてほしい。


 ●「派遣切り」で生活困窮/いすゞの元派遣社員男性


 青森県で17年間、正社員として働いてきたが、経営不振でリストラされ、派遣社員としていすゞで働いていた。家族を置いて栃木県で一人暮らし。


 同社で2008年12月に1,400人が中途解雇され、自分もその一人に。いま裁判でたたかっている。


 長男はバイトで家計を助けている。地元で就職活動もしているが、仕事は見つからない。派遣や期間社員の求人は多くあるが、それは嫌だと言っている。


 来年、高校を卒業する長女は、本当は大学に行きたいが生活のことを考え、就職活動をしている。


 次男は中学で卓球部に入っているが、部活で一番金がかかるのはシューズ代。2カ月で履きつぶしてしまう。その分の費用は長男と長女がみてくれた。


 親の貧困を解決することなしに子どものすこやかな成長も未来もない。


 ※以上が、「連合通信・隔日版」(2010年7月29日付No.8354)からの転載ですが、みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」 で、このシンポがレポート されていて、上記の連合通信の配信記事には無い、シンポ冒頭で行われた「基調報告」の概要が紹介されています。とても大事な内容だと思いますので、以下、みどりさんのブログから転載させていただきます。


 ▼みどりさんのブログ「労働組合ってなにするところ?」 より「日弁連人権擁護大会プレシンポジウム『子どもの貧困』・前半」の「基調報告」部分 の転載


 基調報告として、さいたま教育文化研究所事務局長の白鳥勲さんが子どもの貧困の現状を報告しました。


 白鳥さんは高校教師として主に困難校で40年間教え、その時々で最も困難な状態にある子どもの現状を見てきた方です。


 その国の状態、その社会の本当の状態を示す目安とは、その国、社会が子どもに対してどれほどの関心をもっているかにあると白鳥さんは指摘されました。日本はGDPに対する教育費が先進国で最低であり、自分が孤独だと感じる子どもが日本では30%であり、世界的に見て突出しています。2位はアイスランドで10%だそうです。子どもの貧困率は14.7%で、高校中退者は10万人に上っています。その背景には親の貧困、半失業状態があります。しかも、日本は税金による所得の再分配を行なった後に貧困率が高まる唯一の先進国なのだそうです。学力の底抜けも深刻であり、15歳の20%が算数を目安にして小学校3年生程度の学力しかなく、そのほとんどが貧困層の子どもだそうです。小学校2年生と4年生を比較すると、4年生では好成績の層と成績の悪い層がはっきり分かれてしまうという川口市のデータが示されました。小学校3年生頃に勉強が急に難しくなり、家で勉強を見てくれる人がいない貧困層の子どもは勉強が苦痛になってしまい、自分に絶望してしまうようになります。そして、若者の2人に1人が非正規労働者になるという現状があります。


 絶望の連鎖は貧困の連鎖でもあります。不登校は全国的に発生し、13.9万人に達し、いじめ、校内暴力、学級崩壊といった問題も起こっています。


 そうした日本の子どもの現状が「外」から見るとどう見えるかは、国連の子どもの権利委員会最終報告・勧告に表れています。子どもの権利委員会は、日本の子どもが「過度に競争的な教育制度・環境」による否定的な結果によっていじめ、精神的障害、不登校、登校拒否、中退、および自殺につながる懸念があると指摘し、子どもの貧困の増加、子どものための包括的な国家行動計画がないこと、財政政策および経済政策が賃金削減、男女の賃金格差を生み出し、子どものケアおよび教育費の負担を増し、親やシングルマザーに悪影響を及ぼしていること、子どもの権利侵害を受ける恐れのある子どものデータが不足していることなども指摘し、国が子どもの貧困を根絶するために適切な資源を配分するよう勧告しています。


 白鳥さんは、このような状況に子どもが置かれているのには、学校の中と校門の外の2方向からの荒波によって子どもの生育環境が大きく変化したためであると指摘しています。


 学校の中の荒波とは、教育が「ビジネス」用語で語られるようになり、成果主義、市場原理、競争によって評価されるようになったことです。教師は校長や教育委員会からの支配と、数値目標によって縛られるようになりました。そして、数値目標に基づく行動と評価され、それによって賞罰を受けるようになりました。学校も、成果を挙げた学校には多くの予算が配分されるようになりました。教育は社会の再生産ではなく、格差の再生産の場となりました。


 1999年、教育課程審議会会長の三浦朱門氏は、次のように発言しているそうです。「逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。つまり、できん者はできんままで結構。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。100人に1人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才にはせめて実直な精神だけと養っておいてもらえばいいんです。」


 ここで言われている「実直な精神」を養う教育というのが、いわゆる”道徳教育”だそうです。


 しかし、こうした優れた人間と非才、無才な人間が生まれながらに決まっているという考え方は、OECD教育局指標分析課長であるアンドレア・シュライヒャー氏によって、「高い学力は、生まれながらではなく、教育環境を整えることで保障される」という調査結果で否定されています。


 校門の外からの荒波とは、親の貧困化、社会の貧困化です。非正規雇用が3人に1人、20代では2人に1人となり、生活保護世帯は2010年には138万世帯に達し、貯蓄ゼロ世帯も2005年以降は24%に、高校中退も10%に増大しています。


 大阪の教師は、大阪の子どもの学力が低いことで圧力、攻撃にさらされ、教師のうつ病が増加しているそうですが、大阪は失業率が高く、教育の予算が低く、1学級の人数が多いという状態で、学力の高い福井県はその逆の状態にあるそうです。つまり、学力の低下は個々の教師の問題ではないのです。


 このような現状で何をなすべきかについては、白鳥さんは貧困の放置は社会が「損」をし続けることだという指摘をまず挙げました。厚労省のナショナルミニマム研究会が試算し、青年に生活費給付付き就労支援を行なうことによる費用はその青年が平均的に働いて税金や社会保障を納付する額よりも何倍も小さいことを示しました。教育、福祉、社会保障は「コスト」ではなく、未来への再生産の投資であり、社会を今よりよくするための費用だということを認識することが必要です。その費用を生み出すためには、大企業に集中している富を再分配することが必要です。消費税による増税はもっての他で、消費税を上げれば今食費を切り詰めて何とか生活している子ども達が大変なことになるということも指摘されました。


 そして、子どもの貧困の解決のためには親の貧困の解決が必要であり、成果主義賃金から「再生産費用」としての賃金とするために、最低賃金を増額し、同一価値労働同一賃金を実現し、過労死しない働き方や安定雇用の確保が保障されなくてはなりません。社会保障の充実も必要です。


 教育分野で、少なくともこれだけはやらなければならないこととしては、給食費、教材費、修学旅行などの教育活動費用の無償化、家庭の経済力の差が学力の差につながらない「補償」教育の充実、家庭環境に起因する問題で学校教育への「参加」が妨げられない支援体制の充実、経済的理由で高等学校に入学・修学できない子どもをなくすこと、学力と希望がありながら経済的理由で高等教育にすすめない生徒をなくすこと、外国ですごした後、日本に居住する子どもの教育機会の保障、希望する教育機関で授業を受けるのが困難なしょう害をもった子ども・生徒への支援、不登校となっている子どもが経済的理由でさまざまな教育機関に参加できないことをなくすことが挙げられました。


 最後に白鳥さんは、新自由主義は人間の最も醜悪な部分を濃縮させたものであり、それが子どもから連帯する力を奪ったと指摘し、そうした考え方から脱却する必要があることを示唆しました。