クローズアップ現代“助けて”と言えない30代 - 内面化する自己責任回路 | すくらむ

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 10月7日に放送されたNHKクローズアップ現代「“助けて”と言えない~いま30代に何が~」は、同番組では、今年度一番の視聴率(17.9%)を記録したそうです。(※同番組にコメンテーターとして出演していた、作家の平野啓一郎さんのブログ に書かれていました。さらに、放送後の反響が大きく、急遽10月12日に再放送されたとのことです)


 30代の失業者は現在80万人。前年比で31%増。仕事だけでなく住まいまで失い、生活に困窮する働き盛りの30代が急増し、全国各地の“炊き出し”にホームレス状態の30代が行列をつくる姿が多く見られます。番組では、今年4月、福岡県北九州市で餓死してしまった39歳の男性の足跡をたどりながら、生活苦に陥る30代が、命に危険を及ぼしかねない状況になっても、助けを求めようとはしない実態に迫ったものでした。


 平野啓一郎さんのコメントは、示唆に富むものでしたので、以下コメントの断片ですが要旨で紹介します。(※私の勝手な要約です。平野さんの発言そのままではありませんこと御了承ください。文責ノックオン)


 ◇30代の生活苦は、自己責任ではまったくないが、「勝ち組負け組」というような企業について言われていたことが人間にまで言われるようになって、そうした「勝ち負け」を、自分の問題として感じてしまっている。


 ◇団塊ジュニア世代は人数が多いため、子どものときから「受験勉強で点数が悪かったのは自分が悪い」とか、「いい学校に行けなかったのは自分の努力が足りなかったから」とか、自分が経験してきたことが実感として重なってしまった。実際に生活が安定している人たちも、正規雇用者であったとしても、労働条件が悪かったり、様々な矛盾の中でがんばっていて、そういう人たちが「いい生活してますね」と言われると、「いや、そのぶん自分は努力したから」と言いたくなってしまう。それは事実だと思うが、それが逆に裏返って、いま状況の悪い人たちは努力が足りなかったのではないかと悪い方向につながってしまっている。


 ◇「みんな大変だから」と考えてしまったり、「自尊心」が強くはたらいて、「負け組」だと思われたくない。そこでなんとか自分で、もうちょっとがんばればどうにかできるんじゃないかと思ってしまい、それがかえって抜き差しならない状態へと導いてしまう。


 ◇生活苦に陥った場合は、自分の力だけでは解決できない、「当事者だけの力では解決できないものだ」と社会は認識すべきだ。必ず第三者が関与しなければいけなくて、社会的なサービスを受けて状態が安定したところから、当事者が、がんばれるようにすべきだ。


 ◇人生80年とすると30代はまだ3分の1ぐらいだから、残りの3分の2をどう生きるかと考えたときに、今そういう行政的なサービスを利用することは恥ずかしいなどと考えることはない。


 ◇仕事をしているときの自分と、家族や友だちといるときの自分は違うと考える必要がある。仕事上のトラブルを自分の全人格的な問題だとして、自分という人間がダメなのだとは考えずに、仕事上の自分がこういうトラブルを抱えているということを、友だちや家族に客観的に相談すべきだと思う。仕事上の自分がダメ=自分の全人格がダメ、とは決して考えないで、誰かといるときの自分が好きだという自分があれば、その自分をベースに生きていけばいい。


 ◇110番や119番のように、そこに行くとメンタル面や経済的な支援、再就職などをトータルにケアしてくれる行政窓口を一本化して作るべきだ。そこでその人が陥っている状況を社会的に共有しあって、社会復帰に至るまでの道筋をきちんとつけられるようにすべきだ。(※平野啓一郎さんのコメント要旨はここまで)


 やはり、30代に内面化された「自己責任論」がもっとも深刻な問題だと思いますので、以前紹介した、「自己責任回路」について、湯浅誠さんが語ったものを以下再掲しておきます。
 (※過去エントリー 自己責任回路・がんばり地獄を脱する反貧困スパイラルへ(湯浅誠氏「貧困も過労死もない社会へ」) より。文責ノックオン)


 貧困問題をどうしていくかという「問い」に対しても、「自己責任論」というのは、非常に便利な理屈だてです。その「問い」を貧困当事者の自分の中に閉じ込める効果がある。貧困当事者が「自分が悪いんだ」と思ってくれれば、企業や社会からどんなにひどい扱いを受けても、「自分の能力や努力が足らないからこんな扱いを受けるんだ」と自分自身に返ってくるだけで、自分の外=社会には出て来ないのです。結果的に起こるのは、食べていけなくなればなるほど自分を責める、困窮すればするほど「こんなになってしまう自分はなんてダメな奴なんだ」と思う人が増えていく。こうした「自己責任回路」が社会的にできあがっている。この貧困当事者の「自己責任回路」は、日本において様々な運動が低調であることの大きな原因としてあると私は思っています。また、「自己責任回路」は、11年連続で3万人を超える異常な数の自殺が起こり続けている原因だろうとも考えています。


 「もやい」 に相談に来る人たちを見ていても、ほぼ例外がなく、貧困状態におちいったのは、みんな自分が悪いと思っています。それは結局、「自己責任論」という尺度を、自分の中に内面化しているからだと思います。


 逆に言うと、「自己責任論」じゃない価値観というのを、今までの人生の中で、学校でも家庭でも職場でもテレビや新聞でもほとんど見聞きしたことがないんだと思うのです。


 食べられなくなった人も、ちょっと前までは食べていかれていたわけです。食べていかれていたときは、自分が食べていけるのは、自分がそれなりに努力しているからだ、まじめにやっている結果だと思っているわけです。そのときに、食べていけない人に対して、あいつら食べていけないのは、あいつらがちゃんとやっていないからだと思っていたわけです。ですから、いざ自分が食えなくなると、会社が悪いとか社会が悪いとか、そう思えないわけです。少し前までは、ちゃんとやってれば食べていけるはずだと自分も思っていたわけですから。結局、自分が食えなくなっているのは、自分の努力が足りなかったからだという考えが出発点にならざるをえない。相談に来て初めて私たちの考えや仲間の考えと接することで、「自己責任論」じゃない考え方もあるんだということを知るわけです。


 そうすると、現実には社会に問題がたくさんあるのだけれど、貧困当事者が「自己責任論」に縛られているので、声をあげられない。社会的に貧困問題が可視化されないということになっていくわけです。(※湯浅誠さんの話はここまで)


 民主党の衆院選マニフェストの冒頭には、「すべての人が、互いに役に立ち、居場所を見出すことのできる社会をつくりたい」という一文があります。年末年始まであと2カ月半。新政権の真価が問われます。


 ▼関連過去エントリー
 ★20代と30代の死因の1位は自殺 - 若者を自殺へと排除する現実と若者バッシング
 ★39歳以下の自殺者数が増加、40歳以上は減少(2008年対前年比)