日本はすでに解雇規制が弱い国(30カ国中7位)、1位のアメリカめざした経済財政諮問会議は消滅 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 鳩山内閣発足の影で、構造改革、新自由主義改革の司令塔として、「貧困と格差」を拡大してきた経済財政諮問会議が消滅しました。


 2001年から8年半もの間、小泉純一郎氏、竹中平蔵氏、御手洗冨士夫氏、八代尚宏氏など政・財・御用学者が、経済財政諮問会議の中心となり、やりたい放題でした。


 経済財政諮問会議が進めた労働法制の規制緩和、「雇用の流動化」はこの間どうなったのか。政府白書のデータで見てみたいと思います。(※貧困の広がりについては、先日の社会保障学校での都留文科大学・後藤道夫教授の講義要旨を近々エントリーしたいと思っています)


 厚生労働省の「労働経済白書」(2009年) によると、非正規労働者は下の表のように、2001年27.2%から2008年34.0%に増加し、派遣労働者は45万人から145万人と100万人も増えています。経済財政諮問会議に言わせると、「雇用の多様化」が実現したということでしょう。

すくらむ-雇用者数


 年齢階層別に見ても、下のグラフのように、すべての階層で、非正規労働者が増加しています。(※同じく「労働経済白書」2009年から)

すくらむ-年齢別


 賃金面を見ても、下のグラフのように、日本の労働者の賃金は低くなっています。(※「労働経済白書」2009年)


すくらむ-賃金


 そして、この間、ブログへのコメントで、「日本の強すぎる解雇規制が様々な問題を引き起こしている原因だ」という趣旨の意見が寄せられているのですが、下のグラフにあるように、日本はOECD30カ国の中で7番目に雇用保護規制が弱い国です。(※内閣府の「経済財政白書」2009年 、214ページ)


すくらむ-解雇規制


 経済財政諮問会議が、日本の労働市場の硬直性を改善するとして、「雇用の多様化」や「雇用の流動化」、「労働市場の柔軟性」を高めた結果、労働者の3人に1人が非正規雇用となり、日本はOECD30カ国の中で7番目に解雇規制が弱い国になっていて、すでに「雇用が流動化」した国になっているのです。


 加えて、「経済財政白書」(2009年)では、「常用雇用と臨時雇用の保護度合いの差による影響は不明確」という項目で、次のように指摘しています。


 「正規雇用は守り、非正規雇用は守らない」という制度の二極化がある場合、非正規雇用者に失業リスクがしわ寄せされる可能性がある。こうした可能性の存否を調べるため、ここでは、雇用保護指標の常用雇用要因と臨時雇用要因がそれぞれ平均以上にあるか、それとも平均以下に位置するかという点に着目し、OECD諸国を4つのグループに分ける。その上で、若年失業率や平均失業期間にグループによる差があるかを見よう(第3-1-15図 ※下図参照)。

すくらむ-正規非正規


 第一に、若年失業率については、ドイツやオランダという両要素に差がある諸国において顕著に高いという関係は認められない。むしろ、単に雇用保護指標全体や臨時雇用要因が高い諸国において、若年失業率が相対的に高くなるという傾向が見られる。


 第二に、平均失業期間を見ても、両要素に差がある諸国で特定の傾向があるわけではない。むしろ、両要素ともが低い諸国、すなわちアングロサクソン諸国を中心に、顕著に平均失業期間が低くなっている傾向が見られる。これらの国では、失業給付などが手厚くないケースが多く、長期失業の状態を続けることが困難なことが反映されている面もあろう。


 以上の検証からは、正規と非正規雇用者の間の法的保護の差が、非正規雇用者の失業リスクを高めているという証拠は不明確であることが分かる。(※内閣府「経済財政白書」2009年、216~218ページから)


 以上、見てきたように、すでに日本は「解雇規制が弱い国」です。それでももっと「雇用の流動化」が必要だとなると、7位から1位の「解雇自由」なアメリカをめざすことになりますが、それはすでに先日のエントリー「解雇規制撤廃論者があこがれるアメリカの『大搾取!』」 で指摘したようなことになります。7位から1位へと「解雇を自由」にして、一体何の問題が解決するというのでしょうか? かえって事態は悪くなるばかりであることを、小倉秀夫弁護士がブログで、「『解雇自由』な米国での解雇の実例」 として紹介してくれていますので、解雇規制のない社会の現実を最後に確認しておきましょう。


 ▼「解雇自由」な米国での解雇の実例(小倉秀夫弁護士のブログより)


 労働契約法を改廃して「解雇自由」としたとしても,「整理解雇」が容易になるだけで,不当な解雇がなされることはないと信じている方が、経済学愛好家の中にはおられるようです。何をもって「不当」と考えるかはその人の正義感によるところもあるので、「解雇自由」な米国で実際に報道された解雇例を示すことにより、そこで行われる解雇が「不当」なものかを見てみることにしましょう。


 ●肥満を理由とする解雇
 ●自宅で喫煙したことを理由とする解雇
 ●ゲイであることをカミングアウトしたことによる解雇
 ●「香水の付けすぎ」という理由での解雇
 ●地元の高校で開かれた演説会で、ブッシュ大統領が対イラク戦争と大量破壊兵器の捜索について話している時に「同意出来ない」と叫んだことを理由とする解雇。
 ●『MySpace』で経営者への不満を漏らしたことを理由とする解雇
 ●自分の妻に交際を迫ったが拒絶された上司から、その報復として、「仕事の成績が悪い」と上位の管理者に報告されたことに基づく解雇
 ●新興教会の信者だった雇用主から、その新興宗教団体の提供する性格テストを受け、プログラムに参加するよう求められたのにこれを断ったことを理由とする解雇
 ●共和党政治家たちから昨秋の選挙前に対立民主党候補の起訴などを強要されたがこれを拒否したことでの「職務怠慢」を理由とする解雇
 ●アフガニスタン空爆に反対したとの理由で、米国立平和研究所職員の解雇
 ●大衆に人気のある資料を重視した等の理由での図書館長の解雇
 ●別の部門チームがミーティングを終えた部屋にあった食べ残しのピザを食べたことを理由とする解雇
 ●女性飼育員が、手話で会話すると世界的に有名なゴリラに胸を見せろと強要され、これを拒否したことを理由とする解雇
 ●コカ・コーラを配達していた同社トラック運転手が勤務中にペプシ・コーラを飲んだことを理由とする解雇
 ●負傷した背中の痛みを和らげるために医師の薦めでマリファナを使用していたことを理由とする解雇
 ●ウエイターが南米からの客にメニューをスペイン語に通訳したことを理由とする解雇


(byノックオン)