米国「貧困ビジネス」と日本の格差・貧困拡大で大企業へ富が集中 - 貧困なくし経済危機克服を | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 「第17回パート・派遣など非正規ではたらくなかまの全国交流集会」が、23~24日に500人の参加で開催されました。主催は全労連の非正規雇用労働者全国センターです。


 神戸大学・二宮厚美教授による「『雇用破壊と貧困』の打開に向けて」と題した講演が行われましたので、その要旨を紹介します。(※いつもの私の勝手なまとめであること、ご了承ください。byノックオン)


 いま、「派遣切り」をはじめとする雇用破壊の嵐が吹き荒れ、貧困の拡大が急速に進んでいます。このまま、雇用破壊が進行すると、もともと内需が冷え込んでいた日本経済は、一層危機的な状況に陥ってしまいます。


 現在の経済危機の原因をつきつめていくと、格差と貧困の問題にいきあたります。アメリカの「貧困ビジネス」の典型であったサブプライムローンを起点にした証券バブル・住宅バブルの膨張とカジノ経済の横行。そして、そのアメリカの「貧困ビジネス」に依存してきたのが、日本の大企業だったわけです。サブプライムローンに踊らされたアメリカの貧困層が、日本の大企業の商品を買うことで、日本企業は外需を拡大させてきたわけです。


 国の上層部への富の集中、すなわち大企業と一部の富裕層へ膨大な富が集中し、その一方で、労働者側は貧困にあえぐ、これが格差社会の最も重大な側面です。一方の極への過剰資金の集中と、他方の極への貧困の蓄積、これが現在進行中の経済危機の原因です。この格差と貧困の問題を克服していかないと、経済危機は克服できません。


 経済危機の主犯となったアメリカと日本の状況はどうなっているのか。OECD諸国の中で、貧困率はアメリカがトップで、日本が2番目です。21世紀の先進国において、最も貧困が広がったのがアメリカと日本なわけです。貧困が広がるということは、国内で労働者の賃金が上がらないわけですから、国内の市場は広がるわけがありません。実際、この10年間は、一貫して日本国内のマーケットは冷え込んだままです。


     ▼企業の経常利益・内部留保は史上最高額
      一方で労働者には貧困が広がる
       (1997~2007年、財務省、国税庁、総務省の統計から)

すくらむ-各種数字



すくらむ-グラフ


 上の図と表にあるように、民間給与所得者(1年を通じて勤務したもの)の平均年収は、1997年の467.3万円から2007年の437.2万円へと10年間で30万円も減っています。一方で、企業の経常利益は、1997年の278億円から2007年の534億円へと1.9倍も増加。企業の内部留保も、1997年の222兆円から2007年の403兆円へと1.8倍も増加しています。そして、非正規労働者は、1997年の1,152万人から2007年の1,677万人へ525万人も増え、正規労働者は、1997年の3,812万人から2007年の3,393万人へと419万人も減っているのです。企業の立場からの主張に、様々の理屈をつけて内部留保は、「派遣切り」をストップさせたり、賃金を上げたりすることには一切回すことはできないなどとするものがあります。しかし、上の数字に見るように、史上最長の好景気にかかわらず、この10年間の賃下げと非正規化で、労働者から搾り取って2倍近くにふくらませたのが内部留保なのです。もともと労働者に回すべきものが、この10年間の好景気のときに回らず、企業に溜め込まれ、内需が冷え、労働者、庶民は好景気であることすら実感できなかった。この内需が冷えた格差社会であるがために経済危機は一層深刻になっている。なのに、好景気のときも労働者を犠牲にして大企業は溜め込み、不況になったら今度はその溜め込みは一切使えないからと言ってまたしても労働者に犠牲を押しつけて乗り切ろうとしている。こんなことがさも正当であるかのように理屈を立てて主張する方は、どんなことがあろうと大企業中心社会、格差社会が一番であることを願っているにすぎません。


     ▼労働分配率(財務省「法人企業統計」より)

すくらむ-労働分配率


     ▼先進国の労働分配率(国際通貨基金IMFの調査より)

すくらむ-国際比較


 上の図のように、資本金10億円以上の大企業の労働分配率は、1997年の61.6%から2007年の51.8%へ10ポイント近く減り、日本の労働分配率はヨーロッパと比較すると5ポイントも低くなっています。


 アメリカは憲法9条と25条を持たない国です。そういう国で貧困が広がっていくとどうなるか。ホームレスが夜露をしのぐためにはどうすればいいか。軍隊に入って貧困をしのぐことになっていくのです。ホームレスで軍隊を編成して、イラク、アフガニスタンなどの戦場へ送り込むことになるわけです。


 また、アメリカには医療保障もありません。4700万人の無保険者がいます。こうした医療難民はどうすればいいか。これも軍隊に入ればいいというふうになってきます。憲法9条がないアメリカは、軍事優先の国ですから、全国いたるところに軍人用の病院があるのです。家族のうちの誰かが軍隊に入れば、家族みんなが医療を受けられるようになるのです。


 そして憲法25条がなく生存権が保障されないアメリカでは、軍隊以外では、「貧困ビジネス」に依存するしかありません。これが今回の経済危機の原因になった、いわゆるサブプライムローンがはびこっていった背景です。そして、日本の銀行に23兆円、世界には保険証券だけで6,000兆円が出回ることになったのです。格差社会の産物、貧困社会の産物であったわけです。


 こんな格差社会の産物によって、証券バブルと住宅バブルによる資産効果でアメリカの個人消費が大きく拡大し、個人消費がGDPの7割を占めるアメリカ経済は、好景気を謳歌することになったわけです。


 そして、日本はアメリカの好景気に依存して対米輸出を拡大。日本企業の設備投資ものびた上、国際投機資本が、超低金利の日本で資金調達し、欧米に投資したので、円安も進み、日本の輸出企業は販売と為替差益で2重に儲けたわけです。だから、史上最長の好景気が続いたと言っても庶民に実感がないのは当然だったわけです。わが世の春を謳歌するのは大企業だけで、労働者の総人件費はずっと削減され続け、大企業には膨大な利益が蓄積されていった。企業には過剰資金が集中し、労働者には貧困が蓄積して、購買力を失っていく。そして、いま起こっているのは、大企業による過剰破壊、雇用破壊です。経済危機の顕在化で、企業に過剰蓄積された生産力を、工場も人員も一気に精算する。海外工場はできるだけ温存し、国内工場はできるだけ無くすという、さらに内需を冷え込ます大企業による過剰破壊、雇用破壊が強行されているわけです。


 もっともアメリカで改革が進んだのは、1930年代のニューディール政策の時期です。ニューディール政策の再評価が必要で、オバマ氏による環境保全のグリーン・ニューディールに加えて、私は3つのニューディールを提案したい。1つは、医療・福祉・介護・保育など医療と社会保障分野の労働者を増やすとともに処遇を大幅に改善していく“白衣の天使”を象徴する「ホワイト・ニューディール」。2つめは、「派遣切り」などの雇用破壊をストップして、労働者派遣法を抜本改正する労働者のたたかいを象徴する赤ということで「レッド・ニューディール」。このグリーン、ホワイト、レッドの3つのニューディール政策で、バブル依存型、アメリカの借金に依存して経済を支えていくあり方、大企業を中心とした経済のあり方を根本から転換する必要があります。上層にある過剰な資金が世界経済を攪乱してきたわけで、これを吸い上げて、庶民にまわしていく。内部留保などを労働者にかえすことはもちろん、税金という形で上層の資金を吸い上げて、医療や社会保障にまわし、日本を再生していくことが必要です。


 そして、直面する雇用破壊にどう立ち向かっていくか。失業の恐怖から低賃金労働者がつくりだされてきます。低い賃金でも失業の恐怖よりもいいから働きたいという労働者を、企業は確保していたい。だから企業は最低賃金の引き上げに猛烈に反対します。最低賃金は下げてもらわないと困るし、最低賃金などいらないんだというのが企業の立場です。


 政府に対して実現をせまっていく雇用対策は、①解雇規制の徹底、②教育・職業訓練の保障と職業紹介、③公的就労事業による雇用の確保です。


 1つめの解雇規制をしっかり行うことと同時に、もし失業したとしても生活を保障するセーフティーネットにはりかえることが必要です。今の日本は、失業者のたった2割しか雇用保険がもらえていません。ヨーロッパは、失業保険が切れても、失業扶助で生活を保障する。日本の場合、雇用保険が切れるとあとは生活保護しかありませんが、雇用保険が切れても、失業扶助で生活を保障していくことが急務になっています。


 2つめは、きちんとした教育・職業訓練と結びついた職業紹介が必要です。ヨーロッパの場合、2年ぐらいは、生活が保障されて、再訓練を受けられるようになっています。安心して勉強もできて次の仕事に就くことができるわけです。日本は、圧倒的にこの態勢が不足しています。


 3つめは、最後の切り札としての公的就労事業による雇用の確保です。公務員を増やすことで、雇用の安定をはかっていくということです。


 最後に労働者の「団結」の本当の意味を胸に刻んでいただきたいと思います。「団結」の本当の意味は、現役労働者と失業者の「連帯」こそが大事だということです。この「連帯」が分断され破壊されてしまうと、現役労働者と失業者には手厳しい状況が訪れます。いまこそ、現役労働者と失業者の「団結」「連帯」で「雇用破壊と貧困」を打開しましょう。