日本はGNP世界第2位でもGNH(国民総幸福)は先進国最下位~若者、子供は極端に「幸せ」感じない | すくらむ

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 「GNH」というのを聞いたことがあるでしょうか。「GNH」というのは、今までの国民総生産=GNP(Gross National Product)という経済至上主義の指標よりも、これからは、GNH(Gross National Happiness)という「国民総幸福」の方が大事だよ、という文化人類学者の辻信一さんらが提唱している新しい指標です。(※もともとは、ブータンの国王が唱えたもので、すでに国連開発計画のアジア太平洋地域会議でも論議されている状況にあるそうで、「持続可能で公平な社会開発」「自然環境の保護」「有形、無形文化財の保護」「良い統治」という4つの主要な柱から成っており、国民総幸福量GNHの増大が経済成長GNPよりも重要という考え方だそうです)


 この考えを提唱している辻信一さん編著『GNH もうひとつの〈豊かさ〉へ、10人の提案』(大月書店)の中で、さまざまな「幸福度」に関するデータがとりあげられています。


 まず、MTVネットワークスが、世界14カ国、計5,200名の8歳から34歳の子どもと若者を対象に6カ月間にわたって行なった幸福に関する調査(2006年11月公表)です。(※MTVですから、16歳から34歳の若者のうち65%が音楽を聞くことをストレス解消のおもな手段として選び、ついでテレビを見ること48%が2番目という調査結果に喜んでいて、調査の主目的はここにあったようですが)この調査の対象国は、アルゼンチン、ブラジル、中国、デンマーク、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、メキシコ、南アフリカ、スウェーデン、イギリス、アメリカ。「今の状況は幸せですか?」の項目は、14カ国平均が43%(16~34歳)、57%(8~15歳)に対して、なんと日本は飛び抜けた数字で最下位になっていて、8%(16~34歳)、13%(8~15歳)という異常な数字です。ブービー賞のイギリスでさえ、21%(16~34歳)、44%(8~15歳)ですから、いかに他国とくらべて日本の子どもたち、若者たちが今の状況に幸せを感じていないかが分かります。また、16歳から34歳の若者のうち、「両親より自分の所得が多くなる」と考えているのは、インド79%、中国78%に対して、日本ではわずか17%、ドイツで27%、フランスで32%です。


 これはちょっと客観データというわけではありませんが、「夜回り先生」で知られる水谷修さんのところには、1年半の間に、なんと16万通もの若者からの相談メールが届き、その多くが死にたいと訴え、リストカットやオーバードーズ(ドラッグや抗うつ剤などの薬物を一度にたくさん飲むこと)、ありとあらゆる自傷行為などの悩みを相談してきているのです。


 10年連続で3万人を超えた自殺者数とともに、うつ病を中心とするメンタルヘルス不調者は、1996年43万人、2002年71万人、2005年92万5,000人へと、この10年間で倍増しています。しかも、これは病院を訪れた患者数だけで、潜在的にはこの数倍の人がうつ状態にあるといわれているのです。


 本書の中で、明治学院大学国際学部教授の大木昌さんは、次のように指摘しています。


 「現代の日本には、現在と将来に対する悲観的な見通しから、暗い抑うつ気分が着実に蔓延していると言えるでしょう」


 「なぜなのか(中略)いちばんはっきりしているのは、小泉政権の発足以降、明らかに自殺が増えている。統計的には倒産の件数と比例しています」


 「新自由主義、市場原理主義という考え方で、自由競争に勝てる人はいいでしょう。IT貴族みたいな人たちが六本木ヒルズに住んで、何百億のお金を儲けようといいんです。だけど、今の経済で自由競争をやると、勝つ人は100人にひとりもいない。何万人、何十万人にひとりです。残りの人は負け組。そうでなければ、勝ち組は何百億ものお金を稼ぐことなんてできないんです」


 「自由競争の裏側は自己責任です。これがいちばん恐ろしい。経済競争だけならともかく、今は『老後の生活とか健康もあなたらの責任ですよ』と自己責任原則を強力に出している。あらゆる側面で国家の義務を放棄して個人に押し付けているのが今の状況です。そう考えると、これから本当に自分の責任だけで生活をしていけるだろうか、という不安を抱かざるをえない」


 また、2006年、イギリスのレスター大学の社会心理学者エードリアン・ホワイト氏が、ユネスコ、WHOなど各種国際機関のデータを分析して行った「GNHランキング」=「国民の幸福度順位表」によると、1位デンマーク、2位スイス、3位オーストリア、4位アイスランド、5位バハマ、6位フィンランド、7位スウェーデン、8位ブータン、9位ブルネイ、10位カナダ…、23位アメリカ、35位ドイツ、41位イギリス、62位フランス、82位中国、…ときて、この分析の対象となった178カ国中で、日本はなんと90位です。


 本書の編者の辻さんは、1968年のアメリカ大統領候補指名のためのキャンペーンの中で、ロバート・ケネディが行った演説を次のように紹介しています。


 ちょうど40年前に、当時、次期大統領に当選することが有力視されていたロバート・ケネディが、GNPと、それによって測られる「豊かさ」をこんなふうに痛烈に批判しました。


 「アメリカは世界一のGNPを誇っている。でも、そのGNPの中には、タバコや酒や薬、交通事故や犯罪や環境汚染や環境破壊にかかわる一切が含まれている。戦争で使われるナパーム弾も、核弾頭も、警察の装甲車もライフルもナイフも、子どもたちにおもちゃを売るために暴力を礼賛するテレビ番組も」


 次にケネディは、GNPに勘定されないものを挙げていきます。


 「子どもたちの健康、教育の質の高さ、遊びの楽しさはGNPに含まれない。詩の美しさも、市民の知恵も、勇気も、誠実さも、慈悲深さも…」


 そしてこう結論します。


 「要するにこういうことだ。国の富を測るはずのGNPからは、私たちの生きがいのすべてがすっぽり抜け落ちている」


(byノックオン)