「ネット右翼」はインターネット利用者の1%を下回る~近視眼的に過大評価されている「ネット右翼」 | すくらむ

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 「インターネットにおける『右傾化』現象に関する実証研究」を、大阪大学大学院人間科学研究科准教授の辻大介さんが自身のホームページ にアップしています。


 ネットの世界で、「サイバー右翼が跋扈し増殖している」という言説がまことしやかに流され、右傾化現象にネットが拍車をかけているのでは?という論に、私もほんのちょっと同調するところがありました。でも、この「実証研究」を読んで、まったくそうではないことがわかりました。ネットの特性とは関係なく、ごくごく少数の人間がネット上で突出して暴れているだけだということが実証されていますので、憲法9条と25条を生かし、平和と反貧困を掲げて奮闘する私たちが、ネットの世界でも負けるわけにはいかないと思った次第です。(以下、「実証研究」の概要を紹介します)


 実証研究の目的は、「インターネット利用と政治的態度・行動、とりわけナショナリズム等の右傾化傾向との関連を検証するため」とのことです。


 研究の背景として、「一方向的で寡占的な従来のマスメディアとは異なり、電子ネットワークは情報発信や発言機会を平等化・自由化し、民主的な公論の場をもたらす。パソコン通信の黎明期以来、このような期待がしばしば語られてきたが、インターネットの大衆化にともない、近年はむしろ逆の論調が目立ち始めた」「ネット上では利用者の選好に基づく情報接触が容易になることで、言論の偏りが集団的に増幅される分極化の可能性があること」などを指摘しています。


 そして、「こうした分極化は、日本では特に『右傾化』と結びつき、排外的ナショナリズムや歴史修正主義的な言論がネット上で勢いを得ているともいわれる。このいわゆる『ネット右翼』現象については、匿名掲示板『2ちゃんねる』の分析を中心に、すでにいくつも論考が著されているが(北田暁大 2003,近藤瑠漫・谷崎晃編 2007)、実際にネット利用者を調査してその政治的態度を分析した研究はきわめて少ない」ので、「本研究では、ネット利用者を対象とした質問紙調査をおこない、(1)ブログや電子掲示板等で積極的に情報発信をおこなうネット利用者の政治的態度に『右傾化』傾向が認められるか、(2)より一般的な政治的態度を含め、種々の属性や社会心理傾向、対人関係などがネット上での情報行動にどのように関連しているか、を中心に計量的なデータ分析」を行っています。


 また、問題意識として、「積極的なネット利用と政治的態度の『右傾化』との関連が薄い場合、ごく一部の極端な利用層が目立つことによって『ネット右翼』現象は近視眼的に過大評価されているだけの可能性がある。このような錯覚に基づく議論は、ネットのもつ政治(学)的な含意を見誤ることにもなろう。また、日本の場合、ネットでの過激な政治的態度表出は、その場を盛り上げ、コミュニケーションをつなげていくための『ネタ』という性格が強く、信条の直截的な表明とは異なる」といった指摘もあることに言及しています。


 実証研究の詳細は、辻大介さんのホームページで論文の現物 を見ていただくとして、調査の結果により導き出された結論は以下です。


 ◆「ネット右翼」の比率は、本調査の有効サンプル数の1.3%であった(全998人中の13人)。ただし、今回の調査サンプルにはインターネットのヘビーユーザが多いという偏りがあるため、一般的なインターネット利用者における比率は、1%を下回るものと推測される。


 ◆「ネット右翼」的な層の特徴は、男性が多い、掲示板「2ちゃんねる」の利用頻度が高い、「マスコミの情報は偏っていて信用できない」とする傾向が強い、「炎上」に許容的、などである。これらの層は、ネットの外でも署名・投書・集会出席などの活動に積極的な傾向がみられ、「ネット右翼」はネット特有の現象というよりも「リアル」と地続きの現象であり、これまでは目につきにくかった「右翼」的な潜在層がネット上で可視化されたととらえるのが適当かもしれない。


 ◆ネットの総利用時間よりも「2ちゃんねる」利用のほうが右傾性因子と多くの関連を示した。ネット利用時間量が有意な関連を示さないことから、ネット利用全般というよりも、特に「2ちゃんねる」利用が排外的ナショナリズムと関連していることが示唆される。「2ちゃんねる」の利用は、ネット上の悪口や過激な書きこみ、「炎上」に対して許容的な態度とも有意に関連している。「2ちゃんねる」を媒介にした、排外性と攻撃的発言・書きこみの許容との結びつき。それがやはり、日本のネット「右傾化」現象の中核をなしていると言えるだろう。


(byノックオン)