682. 男はつらいよ 寅次郎紅の花(95)/虹をつかむ男(96) | 同世代名画館DX

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昭和37年生まれの支配人です。小学校でライダースナックを川に捨て、中学で赤いシリーズに毎週熱中、高校で松田優作に心酔した世代です。50~60代の皆さん、いつかどこかで観た映画とともに、時間の旅をお楽しみください。

渥美清が亡くなって早くも15年。今だにお盆が近づくと寅さん観に行かなきゃと思ってるご老人も少なくないはず(そりゃ、ボケとんじゃろ)。


「男はつらいよ」を1本も観たことがない日本人は少ないと思うけど、10本以上観た人なら、1本くらい浅丘ルリ子扮するリリーって女を知ってるはず。そして、リリーが他のマドンナと一線を画すことに気付いたと思う。最後の第48作「寅次郎紅の花」も、リリーの話だった。
当時還暦をとうに迎えて、惚れたはれたの役柄にも無理が、病気を含めた体力的にも限界が来てた渥美と、山田洋次監督は“寅さん”の幕をいつ、どう下ろすかを考えてたらしい。
方法は3つあったと思う。①寅さんの恋が実り、結婚する。②ハブに咬まれて死ぬ。③その他。
②はテレビ版「男はつらいよ」の結末。これではブーイング殺到は目に見えてる。①ならば誰と?ファンが最も納得する相手はリリーしかいない。山田監督は結果として①に限りなく近い③という手を取った。
「リリー、俺と所帯持つか?」独り言のように寅はつぶやく。さくらや博も聞いてる。リリーと寅はみんなの手前、これを冗談にしてしまう。でも、去って行くリリーを、荷物も持たず寅は追いかけて行く。それから・・・?ラスト、寅はいつも通り神戸で一人行商してる。二人は一緒になったのかも知れない。そうじゃないのかも知れない。いずれにしても、寅の旅は続くのだ。その後の寅は観客の想像の世界に生きることになるんだね。
「紅の花」が劇場公開されたのは存命中だけど、私がビデオで観た時は、渥美さんは亡き人だった。偶然にも良く出来たラストだと最初は感じたけど、実は山田監督も渥美清も「これが最後」と思って作ったことは間違いない。これ以上ない絶妙のエンドマークだった。寅さん、リリーとお幸せに。


その2年後、「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」ってのが公開された。リリーが2度目の登場をする第25作。
山田洋次、お気に入りの1本らしい。私もこれ、劇場で観た。なるほど特別篇にするなら、やっぱりこれしかないかも。
最初に吉岡秀隆が登場して、また旅に出たおじさんを回想する場面から始まる。一部CGを使って寅さんの姿を合成したりしてるそうな。何が何でも“寅さん”で稼げるだけ稼いじゃおうという、松竹の意地がすごいね。DVD全作BOXにも「特別篇」ちゃんと入ってる。


「男はつらいよ」を作れなくなって“つらい”松竹は、次なる正月用シリーズのアイデアを、山田洋次監督に託した。山田監督は短い時間の中、「学校」や「釣りバカ日誌」の西田敏行を主演に「虹をつかむ男」の企画を出した。
地方の古い映画館を舞台に、その館主・西田敏行と、弟子の吉岡秀隆が、名作映画をかけながら、そのセリフとか引用しながら、マドンナに恋して、ふられるの(これがパターン)。本筋は寅さんと同じ。西やんの昔のドラマ「港町純情シネマ」がちょっとかぶった。
シリーズ化を見込んで、早速2作目「南国奮闘篇」も作られたけど、そこで終わり。西やんを「釣りバカ日記」と合せて正月と盆の松竹の顔にしようなんて、そもそも無理があったのかもね。
マドンナは、1作目が田中裕子。2作目は松坂慶子と小泉今日子。山田洋次としては、“急いで作った”感は拭えず、決して悪くはないけど、少し物足りなかったかな。
やはり寅さんは越えられない。「男はつらいよ」は、日本映画が誇る、偉大なるマンネリ・シリーズだったのだね。