でも、趣味として芸術的なものを作り出す人はいても、身近にそれをお仕事とする人はあまりいないので職業としてイメージしにくいですよね。
A1 金属の素材を用いたものづくりです。大きく分けて、溶かした金属を型に流し込んで作る「鋳金(ちゅうきん)」、金属板を金鎚などで打ち絞り立体にしていく「鍛金(たんきん)」と、鏨(たがね)という道具で模様を打ち出したり彫ったりする平面的な表現である「彫金(ちょうきん)」があります。その中でも私は主に「鍛金」と「彫金」の技法を用いた制作をしています。
金属を使ってものを作るという経験はなかなかできないかもしれませんが、お皿やスプーンなどの身近なものを自分で作り出してみるというのはとても面白いですよ。
Q2 もう少しお仕事の内容について教えてください。
A2 私には三つの仕事の柱があります。
一つ目はこの空間にこういうものがあったらいいなというものをお客様のご要望も聞きながらデザインをしてそれを作りだす仕事。用途のある無しに関わらず、その空間にふさわしいものを考え、提案することから始めるもの作りをしています。
二つ目は自分の思いを表現する作品づくりで、建築・美術の展覧会に出展したり、工房の生徒さんたちと展覧会を開いたりもしています。
そして三つ目はその人の能力を引きだすお手伝いとしての教室です。自分がものを作り出すだけでなく、その技法を伝え、ものづくりの楽しさ・大切さを実感していただきたいと思っています。一人が感じれば、家族や周りの人もきっとそういう意識になっていきます。
Q3 なぜこの仕事に興味を持ったのですか?
A3 何か表現したいという欲求と‘教育’という自分自身のテーマへの探究心から美術・工芸科のある教育大学に進んだのですが、そこで金属工芸の技法(鍛金・彫金)と出会いました。そしてこれは社会的に意義をもつ手法だと思いました。
金属のもの、例えば鍋とかが壊れたらどうしますか?今は直してまで使おうと思う人は少ないかもしれません。昔は作った人が直し、また直せるようなものづくりをしていたこともあり、ものを大切に長く使っていたのだと思います。
鍛金の技法を用いると少ロットのものを自由な形に造形できます。工業製品は型を作るのに費用がとてもかかるので、ある程度の量を作らないと採算がとれません。大勢の人が同じものを安く買うには大量生産のやり方が必要ですが、不必要に量産品を増やすことは、限りある資源を無駄にすることにも繋がるので、これからの時代は更にそのあたりを考えていかなくてはならないと思います。その人のこだわりや思いを大切にした特別なものを、大切に長く使うということも大事なことだと思います。また、そうしたものづくりに適しているのが工芸だとも言えます。鍛金の技法や考え方を残し伝えるためにもこの仕事をしようと思いました。
Q4 小さい頃はどんな子どもでしたか?今の職業に結びついていることがあれば教えてください。
A4 あまり周りに左右されずに、好きなこと・やりたいことをあきらめずに追いかける子でした。動物に興味を持ち飼育員になりたいと思っていた小学校時代には、近くの動物園に何か月も通い続けました。友達が飽きて一緒に来なくなってからも通い続け、親しくなった飼育員さんに餌づくりのお手伝いをさせてもらったこともあるんですよ。思春期には何かを表現したくなったのでしょうね。ギターを持って自分で作詞作曲した曲でオーディションを受けにいった事もあります。
周りの人がやっていないことでもやりたいと思えばとことんやってみる。そういったこだわりの強さが今のもの作りにも活かされていると思います。また、その好奇心の旺盛さから様々な人に出会い、多くの体験をすることができたことも役立っていると思います。
~後編に続く(2月16日 掲載予定)~
後編では工房立ち上げや、親子へのメッセージをお伝えします。
【鮫島貴子様 プロフィール】