一つの部屋。
そこで少年は、ママと一緒に暮らしている。
どこなのか、とか、何故なのか、は次第に明らかになっていく。
それまで、観客は2人の背景を想像し続けるのだけれど、その時間が、とても重要。
映画において、人物の来し方を実感させるには体感させるのがいい。
セリフで説明してしまっては、他人事に終わる。
たとえば、壁のポスター。
写真。
子どもの大きさ。
俳優に語らせるのではなく、カメラに、空間に、小道具に語らせる。
映画の作り方として、こんな正解は他にない!
少年役のジェイコブ・トレンブレイが天使のよう!
このキャスティングで、映画の半分は成功したも同然。
リアルなパパは警察官で大層なイケメンだと知ったので、親からも目が離せない。
ママ役のブリー・ラーソンが幼さと賢さを演じて、素晴らしい!
歌の上手さは音楽活動ゆえ。アカデミー主演女優賞獲得も大賛成。
初見かと思いきや、 『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』 の元カノ!
父親役ウィリアム・H・メイシーのあの表情は、今作の心臓である。
対するレオ役のトム・マッカスの配置が、上手い。
母親役ジョーン・アレンも、母性で女性で、とてもいい。
実話ベースの原作はエマ・ドナヒューで、脚本も担当。
言葉は少な目、それが、逆に多くを語る映画を作った。
レニー・アブラハムソン監督は、ブチ抜きのセットではなく、実際の部屋の中で撮影。
そのため、大変な圧迫感で、観客も息苦しくなる。
まさしく体感だ。それでいて、とても観やすい。
狭小空間での機微を奏でる音楽が、物語を停滞させないのも有り難い。
渦中の時間を丹念に、そこから派生する事態を描く。
テーマも鮮明。
実に、力強い。
映画に性差はないと思うのですけれど、女性はより共感を抱くのではないか。
観ている間、これは女性脚本だろうと感じたのは、生理的な感情によるセリフに満ちていたからだ。
母性から生まれる覚悟といったものが、ここにはある。
人が本意に沿わない状況からどう抜け出して、周囲がどう受け止めるか。
これは何も、犯罪に限った話ではないだろう。
社会に問題を投げかけて、映画として秀逸。
日本版ポスターのコピー「はじめまして、『世界』」も、いい。
本当は誰の頭上にも空は広がっているというメッセージに、胸が熱くなる。
スクリーン
Room
2015年・アイルランド/カナダ
監督: レニー・アブラハムソン
原作・脚本: エマ・ドナヒュー
出演: ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカス、アマンダ・ブルジェル
[関連作品]
ブリー・ラーソン⇒スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
※鑑賞の感想です。情報に誤りがございましたら御一報頂けましたら幸いです。