新国立劇場、ワーグナー《パルジファル》の感想(2014/10/11) |   kinuzabuの日々・・・

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しん子「みなさーん、こんばんはー」

くにたち「こんばんは。今日は東京の新国立劇場に来ています。ワーグナー作曲《パルジファル》の公演です」

しん子「なんでわざわざ東京まで?びわ湖で《リゴレット》もやってるんちゃうの?」

くにたち「そうなんですよね。でも、演目はもちろん、歌手の名前に惹かれたんですよ。クンドリ―をヘルリツィウスが歌うっていうんですから!」

しん子「クンドリーってコケコッコーって鳴くの?」

くにたち「そんな話じゃあありません!二幕後半が見ものです」

しん子「で、今日はどんな話なん?」

くにたち「王アンフォルタスは聖杯と聖槍を騎士とともに守っていましたが、グリングゾルに聖槍を奪われ、癒えることのない傷を受けています。

アンフォルタスは傷の苦しみから聖杯の儀式をせず、騎士たちは無理やり聖杯の儀式をアンフォルタスにさせます。

そんなとき、愚かで何も知らないパルシファルが現れ、聖杯の儀式を見ますが、よくわかりません。

パルシファルが危険だと思ったグリングゾルは魔女クンドリーにパルシファルを誘惑するように仕掛けますが、クンドリ―からのキスでアンフォルタスの苦悩を共感し、聖槍を奪い返します。

クンドリーの呪いで長い道をたどり、漸く聖杯の地にたどり着いたパルシファルが、アンフォルタスの傷を治し、アンフォルタスの王の役目を継ぐ、とまあこんな話です。」


しん子「やっぱりよくわからん。ところでグルネマンツって人が出てくるみたいだけど、上にはないけど誰よ?」

くにたち「聖杯の騎士の長老でパルシファルを聖杯の儀式にいざなうんです。1幕と3幕でずっと出演してこのオペラを進行させる大変重要な人です。

筋はワーグナーの中では単純でわかりやすい方だと思いますけどね。では開演です」



(公演時間休憩含め6時間弱)



くにたち「いかがでしたか?」

しん子「長かったなー、お尻が痛かったわ。みんなよく我慢して、じっと座っていられるもんやな」

くにたち「まあ、ワーグナーですから、長いのは仕方ないです。わたしも第一幕が大変でした」

しん子「歌手もしんどいんかな?舞台で正座していた人がいたわ」

くにたち「正座は足は痛いけど尻にはいいよね、って、それはいいから、音楽や舞台の感想はどうなの?」

しん子「大きな槍の先みたいなものが回って出てきて、大掛かりなんやけど、その上におっちゃんが乗せられて左右に動くなんて、おっちゃん怖いやろな」

くにたち「歌手も身を張ってましたね。わたしは、第一幕後半でグルネマンツがアンフォルタスをその槍の上におざなりに放り投げるように寝転ばせたのに笑ってしまいました」

くにたち「まず歌手はどうでしたか?」

しん子「大きな爺さん、1幕と3幕で出ずっぱりでむっちゃ大変そうだったわ」

くにたち「グルネマンツ役のジョン・トムリンソンは高貴で迫力があってよかったですね。あの声で最後まで歌い切るのは大変だったでしょう。苦しそうな感じもしましたが、いいグルネマンツを聴けました」

しん子「腹から血を出してたおっちゃんはぐだぐだ言ってて、うっとうしいわ、まったく」

くにたち「アンフォルタス役のエギルス・シリンズ、声量はもっとほしいけど、アンフォルタスの運命を呪うようなうじうじした雰囲気が充分に感じられて、私にはとても楽しめました」

しん子「二幕でごっつデカい声の恐いねーちゃんが吠えまくってった。すごかった―」

くにたち「クンドリ―役のエヴェリン・ヘルリツィウス!期待通りの抜群の迫力!一声で一気に舞台の色が変わりました。噂通り大変すばらしいですね。」

しん子「パジャマみたいな恰好で出てきた木偶の棒がいたな」

くにたち「まあまあ、パルジファル役のクリスティアン・フランツは演技はだめで、声量ももう一つでしたが、素直で透明な声はパルシファルとしては得難いと思いました。3幕最後のパルシファルの歌は感涙ものでした」

くにたち「舞台はどうでしたか?」

しん子「さっきも言ったけど、ものごっつい槍の先みたいなのが出てきて、舞台の上を回って、えらい大がかりやった。ジグザグの光の道みたいなものが舞台になってて、カッケー!」

くにたち「槍はグリングゾルに取られてしまった聖槍の象徴なんでしょうね。ジグザグの光の道は、聖杯の地へ至る苦難の道なんでしょう。どこかで見たことがあるような気がするコンセプトですが」

しん子「ふーん、いろいろ理屈をつけるんやな。じゃあ、おっさんがいろんなところ出てきたのは何よ?」

くにたち「『おっさん』なんて関西の一部でしか通じない言葉を使っても誰もわからないですよ。これは、今回の演出の要で、聖杯の騎士を異教である仏教の僧侶が助けるという話になっていたのではないでしょうか?

いろんな場面で僧侶が舞台を見守っていましたし、パルジファルは2幕で袈裟をもらい、3幕で袈裟をグルネマンツやクンドリ―に分け与えます。

そして最後は帰依するのか?騎士たちも付いて行って仏教に帰依するのか、そうしないで嘆くものに分かれましたよね」


しん子「だから怖いねーちゃんは正座して洗礼をうけてたのかいな。仏教だから得度か?」

くにたち「そのへんがなんかしっくりこないんですよね。聖杯の騎士は仏教徒になるのでしょうか?まあ、そんな解釈もありでしょうけど」

くにたち「合唱や管弦楽はどうでしたか?」

しん子「合唱は気持ち悪いぐらいにぴったり合ってよかったんだけど、演技がね。なんかぬるいわ」

くにたち「合唱は美しかったですね。これ以上望めないんじゃないでしょうか。でも、演技はなんか締まらないと思いました」

しん子「オケは金管がなんか方向がずれていた感じ」

くにたち「金管は時々能天気で明るい音を出したり、音量がコントロールできてないときがありました。もう少しワーグナーらしい深い音を出してほしかった。まあ、このぐらいは許容しないといけないんでしょうね。あと弦。きっちり締まってそんなに悪くないのですが、なにせ音量が小さい。オケピに行って編成を見たら、16-8の大編成なんですよ。これであの音か、と」

くにたち「最後に指揮はどうでしたか?」

しん子「あれってすっごく遅いんじゃないの?かったるくて眠くなったわ」

くにたち「あはは、ほんとに遅かったですね。でも私は、飯守さんのこの遅さがうれしくて、ずっと聴き入ってましたよ。もちろん、もたもたしたところも多々ありましたが、あのテンポで続けることに管弦楽が耐えられなくなったんじゃないかと思うんですよ。逆に飯守さんの指揮であそこまで行ったんだと思います。」

しん子「あれでじっくり聴けるのか、オタクってすごいな」

くにたち「早く終わったら楽しみも早く終わってしまうじゃないですか。でも、帰りの新幹線の時間も気になって、もっと早くしてほしくもなりましたけどね。」

しん子「で、今回の公演はどうだったのよ?」

くにたち「トムリンソン、ヘルリツィウスなど、いい歌手を連れてきて、飯守さんの指揮でじっくり聴けたので、満足しました。演出もかっこよかった。仏教はしっくりこないですけどね。

問題は管弦楽です。金管は仕方ないとして、弦の音が小さいし。全体の音量が小さいので、音の洪水に浸ることができず、欲求不満が残りました。ワーグナーを聴いた感じがしませんでしたよ」


しん子「ちょっと厳しいんじゃないの?」

くにたち「ワーグナーを聴くんですから、管弦楽は重要ですよ。

そしてもう一つ、不満というか感想がありまして、それはヘルリツィウスの歌なんです。大変すばらしく、こんな歌を聴く機会はそうないだろうと思ったんですが、以前ワルトラウト・マイヤーという歌手のクンドリ―を聴いたことがありまして、その時の迫力を思い出すと、今回はそこまでは行かなかったんですよ。

マイヤーのクンドリ―、私の中の伝説になっているのかもしれません、って贅沢な話ですけどね」


しん子「ふーん、まあ、昔の恋人は忘れられないっていうしな。しゃーないわな」

くにたち「ま、そういうことにしておいてください。恋人じゃなくて片思いのあこがれの人ですけど」

しん子「じゃあ、またほかにあこがれの人を見つけたらええんとちゃう?片思いの」

くにたち「片思いを強調しますね。そうですね、新しいあこがれの人を見つけたらいいのですよね。よし、そのためにもっともっとオペラを観に行くぞ」

しん子「そうだよー、だからまたオペラを観に行きましょうーねー」

くにたち「観に行きましょうね」