天神西通りを南に歩くと、その中ほどに岩田屋の西通り側コンコースがある。
昼間は待ち合わせや立ち話のメッカで、時には地元テレビ局のローカル・バラエティー番組がインタビューのロケをやっていたりもするところだ。西通りそのものが片側一車線の狭い道なせいもあるけど、この辺りは混み合う天神の中でも一番ゴミゴミしている。通りの向こう側は今や親不孝通りに代わる繁華街の大名なので、人が多いのはそのせいもある。
ラーメンが意外にしょっぱかったので、ミスドでテイクアウトした口直しのコーヒーを飲む間、そこで立ち話をした。
「へえ、ここ、きらめき通りっていうんだ」
向坂は少しだけ面白がるような口調で言った。コンコースから岩田屋の本館と新館の間を渡辺通りのほうに抜けていく路地のことだ。今、アタシたちがいる西通りに面しているのは西口。東口がある正面には駅ビルが壁のように立ちはだかっていて、場所によってはビルの二階部分を電車が走っていく奇妙な光景を見ることができる。
「変な名前やろ？」
「まあね。でも、担当者にその名前にした理由を訊いてみたくなる通りって意外と多いよな」
「確かにそうやね」
「Change the world」第28章より
「えーっ、まだやってたの！？」という声が聞こえてきそうなこの企画ですが、もう少しなのでヤフードーム6個分くらいの広い心（どんだけ？）でお付き合いくださいませ。（笑）
さて、2人は親不孝通りから南下して天神西通りへ向かうのですが（途中の屋台は前回とダブるので割愛）、その前に立ち寄るのがこちら。
永一たちが泊まる「西鉄グランドホテル」。明治通りと天神西通りが接する角にあります。動画がありましたのでロビーや客室の様子はそちらで。というか、何でこんなものが……。
カテゴリとしてはシティホテルなので決して高級ホテルではないのですが、何せ福岡市内に路面電車が走っていた頃からの老舗ですので、作中描写にあるように落ち着いた風格と雰囲気だけはたっぷりあります。福岡市内にもハイアット系や日航系、あるいは博多リバレインのホテル・オークラみたいなハイクラスのホテルはありますが、今でもここを定宿とする人は多いのだとか。
（まあ、それなりの築年数が経ってますので館内施設に古さを感じさせる部分はありますが……）
このホテルは本作以外でも「砕ける月」の後半で、拉致されようとした真奈が藤田警部補（当時は巡査部長）に助けられた後、警察の極秘会議に出席させられるシーンで登場します。
こちらが地下にあります「中国料理 桃林」の店内。右は会議が行われた円卓のある個室。
ここで少し脱線。
天神界隈には西鉄関係の会社や建物が多く、ざっと見回しただけでも、
・福岡ビル
・天神コア
・西鉄福岡駅ビル
・ソラリアターミナルビル
と渡辺通りの両側をずらりと占拠しています。これにソラリアプラザ（ターミナルの裏）とか西鉄グランドホテルなんかもありまして、天神は西鉄の城下町とすら言えるほどです。
左がソラリアターミナルビル。作中で真奈が駅ビルと呼んでいるのはコレのこと。西鉄福岡（天神）駅と西鉄天神バスセンター、福岡三越、ソラリアステージ、INCUBEが入居してます。
右はソラリアターミナルビルの北側、西鉄福岡駅ビルを挟んで天神交差点に面した一等地に建つ岩田屋の旧本館。
位置関係を分かり易く書くとこんな感じです。赤文字が西鉄所有。
ソラリア 旧西鉄 岩田屋
ターミナルビル 福岡駅ビル 旧館
――――――――――――――――――
渡 辺 通 り
――――――――――――――――――
福銀本店 ＩＭＳ 天神コア 福岡ビル
第23章で真奈が”旧西鉄福岡駅ビルは同じ地震の影響で耐震補強工事に多額の費用がかかるという理由で未だに空き家”と言ってますが、厳密には空き家なのは岩田屋旧館のみ。旧駅ビルと岩田屋旧館は一体的に整備されていて境界が分かりにくいのです。まあ、ダウトって言えばダウトなんですが……。
どうでもいいですけど、サザエさんとマスオさんがお見合いしたのは岩田屋の地下食堂なんだとか。（「サザエさん」の元々の舞台は福岡 ← 微妙なトリビア）
左がその岩田屋向かいの福岡ビル。この辺りで一番古くて、西方沖地震（2005年3月）のときにはこのビルのガラスだけが割れまくって歩道に落下。ただ、天神の中心でキャッチーな画が撮れたせいか、この映像だけが何度も使われてしまい、全国に福岡がぜんぶこんな感じだったような印象を与えてしまいましたね。わたしは地震の翌日に福岡に行きましたが――確かに被害は出てましたが――ニュースほどのことはありませんでした。臨時休業だったのも陳列物が散乱したINCUBE（雑貨屋）くらいだったように記憶してます。
右はそのお隣に建つギャル系ファッションの聖地、天神コア。何度も書いてますが由真が敵視（憎悪？）するビルです（笑）。
以前はここの6階に紀伊国屋書店があってわたしも福岡に行くと必ず足を運んでいましたが、紀伊国屋は移転してしまったので最近はまったく足を踏み入れていませんね。現在の6階には109を運営する東急が「109MEN'S」としてギャル男くんやチャラ男くん向け（笑）のショップを出店しているんだそうです。残念ながらまったく興味ありませんけど。（ウチの主要登場人物にはこの手のファッションセンスの方が1人もいませんのでねぇ……）
ちなみに西鉄ってこんな会社です。（出典：ウィキペディア）
【西日本鉄道】
西日本鉄道株式会社（にしにっぽんてつどう、英称：Nishi-Nippon Railroad Co.,Ltd. = NNR）は福岡県を基盤に鉄道路線、バス路線などの路線網を持つ大手私鉄。東証1部上場（証券コード：9031）。 一般的に略称の西鉄（にしてつ、Nishitetsu）として知られている。
本社所在地は福岡県福岡市中央区天神一丁目11番17号に所在する福岡ビル。
会社概要
天神大牟田線・太宰府線・甘木線・貝塚線（旧・宮地岳線）の4つの鉄道路線および路線バス・高速バスなどを運営するほか、国際貨物（輸出入）・不動産業・旅行業なども行っている。鉄道事業の通称は西鉄電車（にしてつでんしゃ）、バス事業の通称は西鉄バス（にしてつバス）である。
1908年創業の九州電気軌道が前身で、2008年に100周年を迎えた（傍系の博多湾鉄道汽船は1900年創業）。福岡県内に留まらず日本全国、さらには国外でも事業を行っている。また、九州地方を本拠地とする鉄道会社として唯一大手民鉄の中に含まれる。
かつては福岡市内線や北九州線などといった路面電車が収益の柱であった。しかし、（事実上の）全面廃止を受け、当時、都市間高速電車として発展しつつあった大牟田線（現在の天神大牟田線）にその中心がシフトし、現在は同路線が鉄道・バス部門における利益捻出の柱となっている。
福岡の交通マナーが悪いことは作中で何度も触れてますが、一般車両を差し置いて悪いのがここの路線バス。いやぁ、本当に悪いです。平気で割り込みかましてきますし、信号が黄色に変わるとアクセルを踏むのは当たり前ですからね（笑）。
本当は福岡にはもう一社、お隣の佐賀県唐津市から海沿いを走ってくる昭和バスというバス会社があるのですが、残念ながら西区までしか来ないので作中で出す機会がありません。
振り返ってみますとシリーズを通して真奈が西鉄電車・バスを利用する場面というのは非常に少ないのですが（「砕ける月」の序盤と「シャル・ウィ・ダンス！？」の見舞いのシーンくらいしか出した記憶がないな……）、これはヤツが高校生の分際でスズキ・バンディット250V、現在はユーノス・ロードスターという移動手段を持っているだけでなく、小説で公共交通機関って意外と使いにくいからなのですよね～。本作の100円バスみたいに路線を調べたりするのが面倒だし……。
ちなみに西鉄所有のホテルはもうひとつありまして、それがこちら。
紹介の順番が前後してますが、ソラリアターミナルビル裏の警固公園に面して聳え立つソラリアプラザ。不良少年たちに囲まれた永一と志村を助けるために、このビルの公園側エントランス前で真奈が大立ち回りをやらかすのですが、その7階から上が「ソラリア西鉄ホテル」です。新しくてキレイなのは断然こちらなのですが、料金設定はグランドホテルよりやや安くらいですね。
仕方ないことなんですけどこのソラリアプラザ、同じ名を冠するソラリアステージとごっちゃになって解り難かっただろうなーと読み返すたびに反省しているところです。
念押ししておきますが駅ビル内にあるのがステージ、隣の独立したビルがプラザ。（と言っても福岡でもこの二つを言い分けている人はあまりいないそうですが。だいたいにおいて「ソラリアの○○（←テナントの名前）」という言い方をして、分からないときに「どっちの？」と訊き返すのがデフォルト）
脱線ついでにソラリアプラザ前の警固公園についても。
名前を出しただけを含めると作中屈指の登場回数の公園（まぁ、ウチの主人公は公園なんかでのんびりしませんから機会そのものがないんですが……）である警固公園。最初に出てきたのは「砕ける月」の序盤、バイト上がりの真奈と変装カップル（由真＆高橋）が偶然出くわすシーンですね。
ご覧のとおり、天神の中心という立地の割には静かな公園で、待ち合わせの他にもベンチや花壇脇など駄弁っている若者を多く見ることができます。天気の良いお昼頃は近くの会社のOLさんやサラリーマンがランチをしている姿もちらほら。スケボー少年やストリートミュージシャンが現れるのはだいたい夕方からで、深夜になると終電に間に合うように道程をショートカットする人たちが公園を横切っていきます。
作中のイメージほど治安が悪いようなことは本当はありませんけど、まあ、何処にでもアホウはいるものですからね。
左は駅ビルから出たところですが、最近の警固公園はバイクの違法駐車のメッカとなっております。
「砕ける月」で福岡が放置自転車で全国ワーストだったことに触れてますが、現在は駐輪場はかなり整備が進んでいます。ところがこの計画からバイクがすっぽり抜けていて（市の担当者はテレビの取材に「バイクは想定外でした」と発言……）、おかげでバイクは未だに停めるところのない難民状態です。公園は市有地なので停めても道交法に触れないために警察は何もできず、市はパイロンを置いたりロープを張ったりと対策はしてますが、あまりの多さと天神という場所柄、レッカー移動もできずにお手上げ状態だそうです。
ちなみにここは高橋少年が由真と待ち合わせていた現場でもあります。
右の写真は（何故か）永一がお参りしていこうと言い出した警固神社。南側（写真だと右）は国体道路に接していますが、ここもまた屋台が集中しているところ。
そりゃ、これだけ歩道を占拠したら警察も黙ってないわな……。
さて、明治通りに面した西鉄グランドホテルの横を南北に走るのが、本作以外でも頻繁に登場している天神西通りです。
真奈のアルバイト先である居酒屋（但し「Left Alone」ではキャナル傍の2号店に異動してます）が西通り沿いにあって、そのビルの裏に愛機バンディットを停める関係で真奈が天神周辺をうろつくときには必ず西通りに立ち寄っています。他にも「Left Alone」で由真の策略から出入りすることになるモデルエージェンシーがある大名は西通りの西側の一帯のことです。
ここが真奈と永一が立ち話をする岩田屋の西通り側コンコース。ここから奥のほうに向かって伸びていくのが駅ビル方面に伸びるきらめき通り。
幹線道路から奥まったところのはっきり言ってただの裏通りですが、真奈が言っているように休みの日の人通りは一、二を争う天神の実質的な中心です。
左が駅ビル方向、右が西通り方向です。右画像をよく見ていただくとT字路（横方向が西通り）の正面に真奈がコーヒーをテイクアウトしたミスドが写っているのが確認できるかと。どうでもいいけど、ホントにこのオンナ、コーヒー好きだな……。
夜はこんな感じ。
この交差点は「Change the world」で真奈が永一に指し示す4つのビル（岩田屋の本館と新館、VIORO、ソラリアプラザ。写っているのは岩田屋本館）が面しているきらめき通り中央交差点。
岩田屋は真奈グランマの行きつけのデパート。写真手前が本館、奥が新館。名前のみ登場しているだけで真奈は足を踏み入れていませんが、「Letters」で永一がお土産の辛子明太子を買うデパートはここ。あと、ブラジリアン・ハイ・キック」の終章で亮太と年上彼女が入るスタバはここのコンコースにあります。
VIOROは真奈とはまったく無縁のファッションビルですが、「Left Alone」の村上元妻とその友人の司法書士と遭う場面で5階にあるチョコレート屋が登場してます。
さて、このきらめき通りにあるのが真奈と永一が対決したラウンドワン天神店ですが、あまりにも長くなったので次回（第8回）へと続く。
（そろそろ、真名さんにリンクをお願いするのが心苦しくなってきたな……）