調停前置合意の効力 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録28年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 紛争が生じた場合に仲裁で解決する合意(仲裁合意)のある当事者間では、提訴しても訴えは却下される。それでは、紛争が生じた場合にまず調停で解決し、それでも解決しない場合のみ訴訟で解決する旨の合意(調停前置合意)の場合はどうか(蛇足だが、仲裁は調停と違って強制力があるので、「仲裁によって解決しない場合」というのは存在しない)。


 東京高裁平成23年6月22日判決・判例時報2116号64頁は、「当該規定の訴訟上の効力については、努力規定、訓示規定にとどまり、紳士条項的な意味しか持たないものとみるほかない」として、訴えを却下した原判決を取り消した。


 判例時報2133号の中野俊一郎教授の判例評釈は、諸外国において調停前置条項に何らかの法的意味(少なくとも訴訟手続の中止)を持たせる扱いとなっていることを紹介し、本件で訴え却下を否定した結論は支持するとしつつ、「努力規定、訓示規定」、「紳士条項的な意味しか持たない」との判旨の一般論が一人歩きするのは危険ではないかと指摘している。


 また本件では調停の期間制限がなかったが、上記評釈が、契約のドラフティングとしては期間制限を設けるべきであること(「調停開始後、6カ月以内に解決しない場合は訴訟を提起できる」のように)を示唆しているのは有益である。仮に期間制限がなくても一定の合理的期間に限って調停を義務付ける趣旨に解すべきとしている点も興味深い。