いわゆるビジネスモデル特許(英語ではbusiness method patent)が日本で話題になったのは1999年から2001年ころである。
その頃よく引用された文献に、東京工業大学教授の今野浩先生の著書「カーマーカー特許とソフトウェア―数学は特許になるか (中公新書)
」がある。
なかなか読む機会がなかったが、読み始めると大変面白くて止まらない。極めて難解な内容を、一般の人にできるだけ分かり易く説明しようという意欲に満ちた良書である。
「カーマーカー特許」というのは、アメリカのAT&Tベル研究所の研究者ナレンドラ・カーマーカー博士が考案したという、線形計画法の画期的な?新解法(カーマーカー法)についての特許である。
「線形計画法」などというと難しそうだが、「線形」とは要するに一次式を使うということであり、数学的手法を使って産業上、経営上の最適化問題を解決する手法である(ちなみにWikipediaの説明では、連立一次方程式を解くように書いてあるが、それは間違いである。「与えられた条件のもとで、変数xと変数yをどうすれば3x+4yを最小化できるか」の検討は、連立一次方程式を解くということではない)。
たとえばデルタ航空では全米166の都市をカバーする400機の航空機を運行しており、7000人の乗務員をどのように割りあてると、決められた労働条件に反することなく、会社はコスト(居住地以外の宿泊は宿泊費や手当の支払が必要)を最小化できるかという問題を解けるのだそうである(デルタ航空では実際にこの問題を線形計画法で解いて年間1000万ドル以上の経費削減に成功した)。
カーマーカー特許は、日本でも発明の名称を「最適資源割当て方法」とする特許第2033073号として登録されていた。しかし、東京高裁平成14年3月5日判決によると「被告は,本件特許権をその請求項1ないし6のすべてについて放棄し,平成12年12月11日付けで,特許庁に対し,放棄による特許権抹消の登録を申請し,その後間もなく,これに基づき本件特許権の登録は抹消された」とのことである。
その間の経緯には紆余曲折があったようだ。
東京高裁平成14年3月5日判決はこちら。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3896EB5F29F64F0849256BE200353BC2.pdf