「推定無罪」スコット・トゥロー著・・・★★★★☆
アメリカ中部の大都市、地方検事を選ぶ選挙戦のさなかに、美人検事補が自宅で全裸の絞殺死体となって発見された。変質者によるレイプか、怨みが動機か、捜査に乗りだしたサビッチ主席検事補は、実は被害者と愛人関係にあった間柄、容疑が次第に自分に向けられてくるのを知って驚く―。現職検事補による世界的ベストセラー。
「このミス」創刊号、海外2位の作品。
世界的なベストセラーともなりハリソン・フォード主演により映画化もされた。
「推定無罪」とは分かりやすく言えば「疑わしくば罰せず」の意味で、被告人は無罪が前提とされ、検察が犯罪を立証できなければ有罪とはならない、という裁判の大原則である。
著者は執筆当時、検事を務めた現役の弁護士で学生時代は作家を志していたようだ。
その為、検察組織や裁判の手続き、検察と弁護側の駆け引きなど精緻に描かれリアリティに溢れている。
裁判に縁の無い私にとっては、その専門用語や裁判の手続き、登場人物の多さ、様々な関連した事件が交錯したプロットは、読みこなすのに少々苦労した。
この辺は映画で見たほうが分りやすいと思う。
元同僚で不倫相手でもあった女性検事の殺人容疑者となった主人公。
状況証拠だけで進んでいく裁判。
上司とその政敵との選挙戦と裁判での駆け引き。
被害者が担当していた事件のファイルの紛失。
裁判長と上司と被害者の過去の関係。。。などなど
ストーリーは政治・殺人事件・不倫・家族・裁判が複雑に絡み合いながら進行していく。
この物語では政治の駆け引きも重要な要素になっているが、現役検事が何故選挙に出馬するのかが、日本人にとっては感覚的に分からないと思う。この辺はアメリカ流とでも言うべきか。
日本でも一昨年から陪審員制度が導入され、一般人も裁判に参加、関心を持たれるようになってきているが、私の持つイメージと違い、裁判とはこうも演劇的で駆け引きの世界なのかを痛感させられた。
裁判では、主観を交えず事実だけを証言、報告する訳だが、その報告者の話し振り、態度、人柄により陪審員の事実に対する捉え方は大きく左右される。
人が人を裁くことは、そこには必ず心理的要素(バイアス)が拘わってくる訳だからこの影響力は大きい。
日本では実際どうかは分らないが、これから陪審員として裁判に関わる私達にとってこれらの裁判の進行、検察と弁護士の駆け引きは参考になる。
裁判は検察有利に進み主人公が窮地に立たされるが、検察側の1つの綻びから大逆転劇となり、さらに思いもよらぬ結末を迎える。(凶器の事後管理が若干杜撰ではありますが。。。(;´▽`A`` それと、最後に主人公が真実を打ち明ける場面は必要無いように感じたのだが。。。)
推理小説や犯罪小説などは、一度読んでからくりや結末が分れば再読は中々しないものだが、この作品は一度読んだだけでは分らない、伏線の中に巧妙に仕掛けられた作者の企図が、再読する事により明らかとなり二度楽しめる作品であるように思う。
それは映画では味わえない小説ならではの醍醐味だ。
私もいつか再読したい。
何はともあれ本作は推理、ミステリ作品という範疇には収まらない、現代アメリカを象徴する人間ドラマ、社会派作品の傑作と言っても間違いの無い作品である。
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