「マーティン・ドレスラーの夢」スティーヴン・ミルハウザー著・・・★★★★
「昔、マーティン・ドレスラーという男がいた」。これ以上ないと思えるほど、簡潔で力強い書き出しが目を射る。19世紀末から20世紀初頭のニューヨーク、葉巻商の息子に生まれ、ベルボーイからホテルの経営者に登りつめた男。それがこの小説の主人公だ。では、本書はアメリカン・ドリームの物語なのだろうか?
先日、短編を読みその魔力にかかってしまった、ミルハウザーの長編。
主人公のマーティン・ドレスラーは19世紀末、葉巻商の息子に生まれ、少年時代から自ら店に出ては葉巻の並べ方を工夫したり、ディスプレイを改善したりと早くも商才の片鱗を見せ始める。
その後NYの老舗ホテル、ヴァンダリン・ホテルのベルボーイとして雇われ、出世しながら自分の店(レストラン)を持ち自ら経営に乗り出す。
マーティンの斬新なアイデアと細部に亘る趣向に溢れたレストランは、話題を集め次々と新店舗を展開していく。
その一方で、支配人と経営方針の違いでマーティンが去ったホテルは経営難に陥る。
マーティンはヴァンダリン・ホテルを買い取り、ホテルの経営者としても大成功を収め、矢継ぎ早に新しいホテルを開業していく。
結婚もして、マーティンが考え出した集大成とも言える前代未聞のテーマパークの様な巨大ホテルを開業したのだが・・・
サクセスストーリーというのは単純に読んでも面白いが、この物語は単なるサクセスストーリーでは終わらない。
ミルハウザーが描く物語は一人の人間の成功と凋落という展開が多い。
細部に亘る描写はさすがにミルハウザーの作品だと唸らされ、店の経営者だったら、この本はいろんなアイデアや経営者としての姿勢が参考になると思う。
確かに素晴らしい作品であるとは思うが、前回読んだ短編集「ナイフ投げ師」と比べると何か物足りなさを感じた。
個人的にはちょっと毒気を感じる短編の凝縮した作品の方が好きだ。
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