「海の上のピアニスト」アレッサンドロ・バリッコ著・・・★★★★
海の上で生まれ、一度も船を降りることのなかった天才ピアニストの伝説。彼が弾くのは、いまだかつて存在せず、ひとたび彼がピアノから離れると、もうどこにも存在しない音楽だった……。
本書は一人芝居の脚本として書かれたもので、後に「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・サルナトーレ監督により映画化された。
私も見たが有名ジャズピアニストとのピアノ対決が印象に残っている。
先日読んだ著者の「絹」が素晴らしかったので改めて原作も読んでみようと思い手に取った。
主人公のノヴェチェントは旅客船、ヴァージニアン号のピアノの上にあった箱の中で捨て子として見つかる。
ノヴェチェントは乗船員に育てられ成長し、ある日突然素晴らしいピアノを披露する。
ヴァージニアン号は様々な人たちを乗せ世界を旅するがノヴェチェントは一度も船を下りる事もなく、有名ジャズピアニストとピアノ対決の挑戦を受け素晴らしい演奏を聴かせたり、時化で揺れる船内でピアノと一緒に滑りながら弾いたりと天才的なピアノを奏で続ける。
しかし、ある日突然ノヴェチェントは船を降りる事を決意する。
船がニューヨークに着き、ノヴェチェントは32年間降りたことの無いタラップを一段一段と降り始めるが。。。
「絹」と同様に本書も非常にシンプルな文体で140ページ程の短い作品なのだが、喧騒と静寂、情熱と哀愁を帯び情感豊かに物語は語られている。
「ぼくはこの船の上で生まれた。この船には、世界がやって来ては、去って行った。でも一回に二千人ずつだ。ぼくにだって、夢はあったさ。でもそいつは舳先(へさき)と艫(とも)のあいだに収まる夢だった。無限ではない鍵盤の上で自分の音楽を弾く、それがぼくの幸せだった。」
ノヴェチェントが語る自身の生き様に心打たれた。
88の有限の鍵盤でノヴェチェントは無限に広がる音楽を奏で続ける。。。- 海の上のピアニスト/アレッサンドロ バリッコ
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