「誘拐」G・ガルシア=マルケス著
マルーハ・パチョンとアルベルト・ビヤミサル夫妻は、一九九三年の十月、六か月におよぶ彼女の誘拐中の経験と、彼女を解放させるまでに夫がたどった経緯を本にまとめたらどうかと私のところに話をもちかけてきた。草稿がかなりできあがった段階で、私たちは、彼女の事件と、同時期にコロンビア国内で起きていた他九件の誘拐事件とを切り離して扱うわけにはいかないのに気づいた。本当のところ、これは別個の誘拐事件が十件平行して起こっていたのではなく――最初はそう思われていたのだが――、きわめて巧妙に選ばれた十人の人間がひとつの集団として、ひとつの誘拐団によって、たったひとつの目的のために誘拐された事件だったのだ。
本書はマルケス のノンフィクション作品である。作家になる前、著者はジャーナリストとして活躍していた。この作品は紹介文にある通り、著者の母国であるコロンビア で起きた誘拐事件を描いている。
国際情勢に疎い私だが、コロンビアは物騒な国で、コカインを生産しているヤバイ国だという事は知っていた。そのコカインの流通を取り仕切るパブロ・エスコバル が率いる「引き渡し予定者グループ」が政府との取り引きの為、誘拐、監禁をしていた。私達には、フィクションでしかありえないと思う様な事がここでは起きている。世界的作家である著者が、このような史実を明らかにしている事は評価すべき事だと思う。